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ライダン領との争い
第122話 最終的に
しおりを挟む「そういうわけでライダン領主の家はおとり潰し。ひとまずライダン領は王家直轄地になった」
「ざまあみろですな。ところで元! ライダン領主はいつ処刑されるのですかな?」
「処刑されるのかも含めて知らん」
「こんなことなら遅効性の毒でも飲ませればよかったですな」
俺は執務室でセバスチャンに現状を伝えながら、様々な報告書に目を通していた。
王との謁見の後、俺は急いでフォルン領の屋敷に戻った。
ライダン領主を捕らえた手前、急いで王都に向かって王に引き渡した。
だが本来ならば捕らえたライダン領の兵士の扱いや、賠償金の請求やその他もろもろ仕事があるのだ。
なので王都からさっさと撤収したというわけだ。
「……は!? なんだこの食糧費は!? ライダン領の兵士に振る舞った分を考えても、想定の二倍以上あるぞ!? 誰か横領してるだろ!」
「いえしておりませぬ。確認しましたが正しいですぞ」
「……じゃあ何か? ライダン兵がタダ飯だからと調子に乗って食いまくったと? それなら許さんぞ! 強制労働の刑に処す!」
確かに飯を食わせてやるとは言ったが、限度というものがあるだろう!
捕虜の扱いであることを忘れているならば、こちらもそれ相応の扱いを考えて……。
「いえ。超えた額のほぼ全ては、フォルン領兵士の酒代ですな」
淡々と報告してくるセバスチャン。
俺は思わず頭をかかえてしまう。何やってるんだあいつら! 加減しろバカ!
「……次の給与を半額にしてやろうか」
「無理ですぞ、反逆が起こりますぞ。そも彼らは好きに宴会しろという命令に従っただけですぞ」
「…………次から水でも飲ますか」
やってられないが何とか声を絞り出す。
うちの兵士に「好きにしろ」とか「無礼講」とか言ったらダメだ。
今度から予算を最初に渡して、これ以上は自腹と宣言しておこう。予算青天井だと思われたらフォルン領は酒で財政が破綻しかねん。
大きく息を吐いて椅子の背にもたれかかる。
「それとですな。ベフォメットからの使者が来てますぞ」
「このくそ忙しい時に来るなよ!」
「むしろ国に問題が起きてるからこそ来たのですぞ。情報収集や交渉ごとに」
セバスチャンの言うことはもっともである。
講和して敵対国ではなくなったとしても、隣国の情報を仕入れるのは当たり前だ。
だが万が一、あのクズ王子が来たらぶっ飛ばすぞ。そもそも牢獄に入ってるとは思うのだが。
「それで誰が来たんだ? 外務大臣とかそんなのか?」
「ライニール様ですぞ」
「窓際族のハゲ散らかしたおっさんか……」
「今は再び魔法軍最高術者に返り咲いたようですぞ」
あのおっさん、うまくやり遂げたらしい。魔法の腕はともかく政治力は高いようだ。
まああのおっさんなら会ってもいいか。少なくとも俺に対して低姿勢だし。
「わかった。応接間に通してくれ」
ライニールさんを応接間に案内するようにセバスチャンに指示。
俺も応接間に向かって待っていようとすると。
「ボクも護衛で行くね」
「行く」
何故かカーマとラークがひょっこりついてきた。
ライニールさんも一応は熟練の魔法使い。襲ってこられることがないように、圧倒的な戦力差を用意しておくとのこと。
そのお駄賃としてアイスとケーキを彼女らに渡して、しばらく応接間で待ち続けていると。
「ご無沙汰しております。アトラス次期国王陛下」
ライニールさんが部屋に入ってきて、俺の前で跪いてきた。
完全に王族に対する礼である。
「勝手に次期国王にするな。下手したら捕まるぞ、ライニールさん」
「はて? セバスチャン殿からそうお聞きしたのですが……」
セバスチャン!? あいつは何を言ってるんだ……最近は特に酷いぞ。本当に反逆罪疑惑を王家にもたれかねん……。
「それはセバスチャンの大嘘だから無視してくれ。それで今回来た理由は?」
「は、はあ……承知しました。今回来た理由ですが、実は北の魔導帝国がレスタンブルクで動いていると情報が入りまして。しかも潜り込んだのは、かの五魔天の操魔のランダバル!」
「あ、それ古い情報なんで……もう追い返した」
「なんですとっ!? せっかく恩を売れると思いましたのに!?」
俺の言葉にショックを受けるライニールさん。
このショックでかろうじて残った髪の毛が更にハゲないように祈ってるよ。
他に用件がないなら無駄足だなこの人。
「あのランダバルを追い返すとは……レスタンブルクの魔法使いからすれば、相性最悪の敵と思っていたのですが」
「……何で相性最悪なんだ? カーマやラークたちもランダバルには苦戦していたが」
ライニールの言葉が気になってしかたがない。
確かにランダバルには苦戦した。奴が大人しく撤退してくれなかったら、勝てるにしてもこちらも無傷では済まなかっただろう。
敵が純粋に強いのだと思っていたが、相性が最悪というのは気になる。
「ええはい。レスタンブルクの魔法使いは技量が低いのです。…………その、カーマ様やラーク様の含めて」
物凄く言いづらそうにライニールさんが答える。
彼はカーマやラークをチラチラと見てビクビクしている。
……技量が低いとはどういうことだ? 平均値の意味ならば話は分かるが、カーマもラークもこの国最強の魔法使い。
ベフォメットの魔法使いが束になっても歯が立たないのに、そんな彼女らの技量が低いだと?
そもそもこのおっさん自体、カーマに瞬殺されたレベルなのに。
「ボクたち、ベフォメットの全員を相手しても勝てるけど……」
「失礼」
「も、申し訳ありません! このライニール! 僅かに残った髪の毛を剃りますのでご容赦を!」
ライニールさんは頭を床に擦り付けて土下座する。
本人からすれば残った髪の毛は貴重なんだろうが、俺達は欠片もいらん……。
「こらこら。カーマもラークも圧をかけるな。技量が低いとはどういうことだ? カーマたちの言うことは間違ってないと思うんだが。後、髪はいらないんで……」
俺の言葉にライニールさんはホッとため息をついた。そして頭を上げると。
「は、はい。この場合の技量とは強さではありません。魔法のコントロール力です。双子の姫君は確かに超強力な魔法使いです。ですが少し魔法の制御が雑。そこをランダバルに付け込まれると」
「……簡単に言うと?」
「生まれもって強いドラゴンが武術を学ぶでしょうか? 力でゴリ押せてきたので、そういった戦い方を知らないのです」
なるほど。確かにカーマもラークも莫大な魔力を持っている。
その圧倒的な魔力で打ち勝ってきたならば、搦め手が使える相手には弱いと。
怪獣相手に人間がいくら頑張ろうが、武芸を多少積んでいても踏み潰せば誤差だ。
だが人間より大きく踏み潰せない巨人が武芸を積んでいれば怪獣でも苦戦する。
「……またボクたちを怪獣みたいに言う」
「物の例えだから! 炎はやめよう!」
必死に弁解しながらもライニールさんの言うことは理解できた。
つまりあれだな? 怪獣が武芸を積めば最強ということだ。
「じゃあカーマたちが魔法の制御を覚えれば無敵ってことだな」
「それは間違いなく。化け物レベルの魔法使いになるでしょう。私は絶対戦いたくありません」
「なるほど……」
ライニールさんの言葉は真剣だった。ついでに真顔だった。
ならカーマたちに魔法の技量を積んでもらえばいいだな。そうすれば北の魔導帝国にも優位をとれる。
「カーマ、ラーク。魔法の技量を上げてくれ」
「そういわれて上がるなら、とっくに上げてるよ……誰も教えてくれる人がいないんだもん」
「師匠不在」
至極最もな意見である。
この国で最強の魔法使い相手に、誰が魔法を教えることができるというのか。
いや待て。彼女らの前に最強だった魔法使いなら……!
「その人、ボクたちが7歳くらいの時に戦う前に降参したよ」
「下手したら防壁の魔法使いと大して変わらない」
「ご、ゴミ過ぎる……」
「ボクたち、今まで魔法を教えてもらったことないよ。教えられる人いなかったし」
「教えてくれそうな人いないなそれ……」
やだレスタンブルクの魔法使い弱すぎ……カーマたちが突然変異なわけか。
しかしそうなると教えてくれそうな人いないなぁ……。
俺もカーマたちも頭を悩ませていると、ライニールさんが立ち上がって自分の胸を叩いた。
「このライニールにお任せを! 私に考えがあります! なので是非! うまくいった暁には、ライニールこそ魔法軍最高術者にふさわしいと本国に連絡を!」
「それはいいけど……ライニールさんが教えるのか? あんたも瞬殺されてたような……」
確かカーマの炎の連弾を防ごうと息を吐いて、ひとつしか消せずにボコられてた記憶が。
「逆にお考え下さい。一発防いだのだと!」
「お、おう……」
「名選手が名教師とは限りません! 逆に言えば、名教師が名選手とも限りません!」
ライニールさんが必死に自分を弁解している。
確かに言ってることは間違ってない。スポーツでも名選手が名教師とは限らない。
でも……あそこまで瞬殺されてるハゲ散らかしたおっさんが名教師かは怪しい……。
「ご安心を。私以外にも教える者はいます! アトラス伯爵もご存じのお方です!」
ライニールさんは更に自信満々に豪語する。
……ここまで言うならダメ元でお願いするか。しかし俺が知ってる魔法を教えられる人とは誰だろうか。
エフィルンか? だが彼女もランダバルに苦戦していたのに。
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