【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

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ライダン領との争い

第123話 魔法の師匠?

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「魔法の師匠としてご協力いただくライナ様です」
「申し訳ありません! 私なんかが申し訳ありません!」
「魔法の師匠という言葉が最もにつかわない人が来たな」

 ライニールさんが魔法を教えてくれる師匠を連れてきたら、なんとライナさんだった件について。

 魔法を教えてくれると言われた翌日。俺達はライニールさんに呼ばれて、アトラス街から少し離れた草原に来ていた。

 そこで待ち構えていて平謝りしてくるライナさん。

 この人は強い、それだけは間違いない。だが彼女の魔法は狂戦士になるという、恐ろしく見習いたくない魔法である。

 ……ライナさんは基本的に狂って肉弾戦する戦い方なので、魔法使いというイメージがあまりない。

 ライニールさんが俺達の知っている魔法使いと言った時も、彼女はその選択肢に一切出なかったのだから。

 カーマたちも俺と同意見のようで困惑している。

「……えーっと。ボクたちはライナさんから何を教われば……」
「暴走するところ?」
「頼むからそれだけは教わらないでくれ!」

 ライナさんはひとりで十分である。

 制御できない狂戦士が増えるのは本当にやめてくれ!

「申し訳ありません! 申し訳ありません!」

 ライナさんが不憫に謝罪し続けている。

 ライニールさんにこの雰囲気を何とかしろと視線を向けると、ウインクで返してきやがった。

 ハゲ散らかしたオッサンのウインクとか誰得だ。

「ライナ様は魔法の制御が凄く上手なのです。それこそあのランダバル以上とも」
「魔法の前にメンタルを制御すべきでは?」

 ライナさんが魔法の制御が上手とは信じがたい。

 常に狂戦士として暴れまくって、雄たけびをあげているんだが……。

 豪快、粉砕、破壊などならいくらでも彼女に結び付く。だが繊細とか制御なんて欠片たりともないだろう。

 彼女を繊細と言うのは、センダイを下戸と呼ぶくらい無理筋では……。

 だがライニールさんは首を横に振る。

「アトラス様、思い出して頂きたい。ライナ様は魔力がかなり長持ちしたはず。カーマ様やラーク様が魔力切れになった後も、バカみたいに暴れまわっていた記憶は?」
「…………そういえばあったな」

 レード山林地帯ではラークとカーマが魔力切れた後も、元気に暴走して暴れまわっていた。

「でもあれは恨みを魔力にしてるのでは? ソーラー発電ならぬ憎悪発電では?」
「確かにライナ様は恨みを魔力にしています。私が教えましたから! ですがそれでもあれだけ暴れて魔力が持つのは、ムダな魔力を使ってないからです」
「ま、まあ確かに……」

 ライニールさんの言葉は謎の説得力を持っていた。

 たしかにあれだけバカみたいに暴れていたら、多少の回復程度では追い付かない。

 魔力の制御を制御して節約しないともたないだろう。ライナさんはまさにムダのないムダな動きを繰り出していたと……。

「申し上げにくいのですが。ライナ様と比べれば、カーマ様たちの魔力の制御力は赤子みたいなものです」
「その魔力の制御の百分の一でよいので、暴走も制御できませんか……?」
「申し訳ありません! あの魔法を使うと、その、全てを破壊しろと内なる心が叫んで……」
「そういうわけですので、ライナ様に魔力の制御を教わりましょう」

 魔力の制御を教わるのはよいけど、ライナさんにもメンタル面のカウンセリングが必要じゃないかな……。

 そんな俺のツッコミは無視されて、カーマたちへの魔法の指導が始まった。

 カーマとラークはライナさんに、エフィルンはライニールさんに習うことになる。

 すでにライナさんは狂戦士になっている。油断すれば殺されかねない、実にスリリングな授業である。

 なお俺は見学である。魔法使えないからどう誤魔化すか考えていたのだが。

「アトラス伯爵は不要でしょう。魔法の制御は天才的です。薬で強化されたエフィルンに打ち勝つのですから」

 ということで免除された。俺は金の切れ目が縁ならぬ命の切れ目だからな。

 魔力の制御よりも主婦秘伝の節約術でも習った方が有意義である。

「ではエフィルン。植物や風を使う時は、自然の声に耳を傾けるのです。自然の摂理に逆らうのではなく、それを活かせばより操れる」
「わかりました」

 ライニールさんがエフィルンを手取り足取り教えている。

 なんかそれっぽいことを言ってるので、たぶん役に立つ授業なのだろう。

 ハゲ散らかしても魔法軍最高術者は伊達ではないか。

 こちらはいい。問題は……。

「全てを壊せ! ドガーンと粉砕しろっ!」
「「はい!」」
「違う! それはバーンだぁぁぁぁ! ドガーンではないぃぃ! もっと! 壊し殺し破壊し砕くと心を籠めろぉぉぉぉ!」

 …………ライナさんの授業は混沌を極めていた。

 彼女たちの周囲は多数のクレーター。今もなお天変地異発声中のような轟音、そして終末に訪れる獣でもやって来たのかと思わせる咆哮を奏でている。

 きっと恐竜が絶滅した隕石の飛来は、こんな状況だったのだろう。

 俺はたまらずライニールさんの元へ向かうと。

「ライニールさん。あれはどう考えても授業ではない。殺人鬼の洗脳教育だろっ!」

 ライニールさんはエフィルンへの教導をやめて、俺の方に笑いかけてきた。

「いえいえ。あれはあれで授業……なはずです?」
「疑問形やめろ。うちのカーマとラークに悪影響があったらどうする!」
「いえ大丈夫ですよ。カーマ様たちは天才型の魔法使い。ライナ様もそのタイプなので、下手に理屈を学ぶよりも、なんかこう雰囲気で教えるほうが学べるはず、たぶんきっと」

 恐ろしくフワフワした謎理論である。

 確かに天才は言語化することが苦手で、天才同士なら話が通じると聞いたことがある。

 だが……。

「オオオオオオオォォォォォォォ!」
「「ワァァァァァァ!」」

 ライナさんに合わせるように、カーマたちも頑張って叫んでいる。

 もはや話どころか、何も通じてないと思う。

 大丈夫? 魔力制御技術の代わりに、人間として大事なモノを犠牲にしてない?

「エフィルン、今からこのブレスレットをつけてもらう。これをつければほぼ魔力が空になるが、その上で魔法を使う練習だ」
「はい」
「まだだぁぁぁ! 魔力が空になろうとぉ! 全てを振り絞れば魔力は出るぅぅ!」
「「ああああぁぁぁぁ!」」

 …………なんか謎にやってることがシンクロした。

 もう頭痛くなってきたから、考えるのはやめにしよう。なるようにしかならん。

 【異世界ショップ】からポップコーンとコーラを購入し、彼女らを見守ることにした。

 映画に例えるなら片方は正統派の魔法使いが技術を高めていく話。

 もう片方は『大決戦! ライナゴンVSカマドラゴンVSラークン!』 みたいな感じだろうな。

 そして三日の訓練が無事に終了し、修行はお開きになった。

「エフィルン。これでお前は私よりも魔力の扱いがうまくなった……もう教えられることはない……いや本当辛い……三日で越えられた……」
「最終日、もはや私が教えてましたからね」
「ごふっ……」

 エフィルンがライニールさんにトドメを刺す。

 彼は三日どころか二日で越えられてしまったらしい。何とも悲しい現実である。

「申し訳ありません! 申し訳ありません! 私なんかが師匠で申し訳ありません!」
「いえいえ! よい修行になりました! これであのランダバルって人も粉砕できます!」
「修行の成果で潰す」

 カーマたちは脳筋になってない? むしろ弱体化してない?

 責めるようにライニールさんを睨むと、彼は必死に首を横に振った。

「ご安心ください! あのお二方は元からパワータイプ! 精密な技術よりも、よりパワーを磨いて小手先の技術など押しつぶす方が向いてます!」
「……まあうん。何となくそんな気はしてた」

 ライニールさんの言葉に思わずうなずいてしまう。

 カーマたち、実は戦い方がかなり雑なのである。セコイ手とかほぼ使わないで、強い魔法で敵を潰して終わり。

 なら敵の搦め手すら許さない力で押しつぶすのは理にかなっている。

 これでカーマたちは成長したはずだ。ランダバルに勝てるかは知らんが。

「まあ本人たちは強くなったと思ってるようだから……いいか。ライニールさん、ありがとう」
「でしたらお願いがあります。是非本国に! 私がカーマ様たちの師匠になったと! 報告をお願いします!」
「近い! 抱き着いてくるなっ! 報告するからっ!」

 飛びついてきたライニールさんを引っぺがして地面に投げ飛ばす。

 し、しまった。気持ち悪くて思わずやってしまった……だが彼は即座に起き上がると。

「私の時代が来た! レスタンブルク最強の魔法使いたちの師匠! これで魔法軍最高術者を十年は続けられる! 私の天下だっ!」

 ライニールさんは空に向けて大声で叫んだ。

 弟子の威を借る師匠……まだ狐のほうがいくらかマシな気がする。

 そんなことを考えていると、俺のそばからひょっこりとカーマが出てきて。

「あのー……ところでライニールさんに聞きたいことがあるんだけど」
「なんですか? 弟子の質問にはいつでもお答えします! どうぞ何でもお聞きなさってください!」

 ライニールさんはペコペコと頭を下げる。弟子に対して恐ろしく平身低頭な師匠である。 

「ライナさんに恨みを魔力にするのを教えたんですよね?」
「ええはい! 私が教えました!」
「じゃああの、なんでボクと戦った時にそれをしなかったんですか?」

 カーマの言葉にライニールさんが背を九十度曲げた状態で固まった。

 しばらく停止した後、ギギギと頭だけを上げると。

「…………使ってました。使ってアレです」
「…………ごめんなさい」

 周囲を冷たく悲しい風が吹いた。それは窓際族を苦しめる隙間風のようだった。
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