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王家騒動編
第134話 謎
しおりを挟む俺は【異世界ショップ】に入店している。
本当は来る気はなかったのだが、無視されたミーレが号泣した声が脳内に響き渡りうっとうしかった。
流石に近所迷惑ならぬ脳内迷惑なので、文句を言いに殴り込んできたわけだ。
「やっとぎてぐれたぁ……なんで無視するのぉ……」
「黙れ、うるさい、しゃべるな! 今後脳内に泣き声流したらぶっ飛ばすぞ! じゃあ帰る」
「酷い!? 待って!? 本当に重要なんだって! 君への民の信仰が上がって、【異世界ショップ】から特典が送られるんだって!」
「そうか。すごいな、じゃあな」
俺はミーレに背を向けて、【異世界ショップ】を出ることにした。
「やめてぇ! 無視したら脳内に最大音量で年中無休で泣くよ!」
ミーレが俺の身体にしがみついて必死に止めてくる。
カーマやラークの見た目をしているので、まるで妻にパチンコを止められてるクズ親父の気分だ。
「わかったよ! 聞けばいいんだろ!」
俺は面倒だと思いながらも立ち止まる。するとミーレは泣き顔から笑顔に変わると。
「おめでとう! 【異世界ショップ】の新たな特典、もしくは情報を得られるよ! ただしどちらかのみ! 選んで! 力か情報か!」
……唐突に謎の選択肢が出現した。
拉致監禁の能力を手にした時と同じような感じなのだろうか。あの時は選択肢なく押し付けられただけだったが、今回は何故か選べるらしい。
しかし弱ったな。こんな二択は簡単に選べるものじゃないぞ。
「う、うーむ……」
「ふふふ、迷ってるようだね! どちらも物凄く有用で大事ってわかるよね!」
「いやどうせくだらない力か情報だろうから、どちらのほうがまだ邪魔にならないか考えてる」
なんかミーレが手を顔に当てて泣き始めたが知らん。
前の拉致監禁もはっきり言って微妙過ぎる能力だったし、今回もどうせ大したことないだろ。
縁日のくじびき屋で当たるエアガンくらい不要そうだ。
エアガンってもらっても使い道に困るんだよな……迂闊に撃てないし。
もしくは家の中のポケットティッシュくらいの有用性だろう。
普通の箱ティッシュあるからいらんみたいな。
「どうでもいいから力で」
「やめよう! ちゃんと真面目に考えようよ! ほら、力なんて手に入れても不幸になるだけだよ! でも知は力なりって言うよね!」
ようは情報選べってことじゃん。何でわざわざ二択にするのか……。
もう面倒だからさっさと終わらせよう。
「もう何でもいいから情報よこせ。言っておくがびた一文払わんからな」
「そこまで守銭奴じゃないよ! じゃあ話すね。後で話したことをまとめた紙も渡すからね」
「いやどれだけ覚えて欲しいんだよ……」
すごくテンション高いミーレ。最初から言えばいいのに。
彼女が指を鳴らすとテーブルと椅子が出現し、俺とミーレはそれぞれ座った。
「じゃあ話すね。君は自分の生まれた意味を考えたことは?」
「怪しい宗教は結構です」
即座に椅子から立ち上がろうとするが、ミーレが俺の肩を掴んで逃がさない。
おのれ! 貴様、こんなくだらない話を!
「違う! 怪しい宗教じゃないから! すごく重要な話なの! 何で君が異世界転生したのとか気にならない!? 考えたことない!?」
「五秒くらいある。時間のムダだからやめた。転生した意味があったとしてどうでもいいし」
「もう少し考えようよ!? せめてカップ麺作るくらいはさ!」
嫌だよ時間のムダだし。カップラーメンを待つ三分は無限の可能性を持つ。
だが自分の転生した意味とかどうでもいいわ。
「嫌だ。今後も考えることはないから安心しろ」
「……」
ミーレは力なく椅子に座り込んで放心している。もう話が終わりなら帰ろうかな。
そう思って立ち上がろうとすると。
「あのね。フォルン領、いやレスタンブルク国は崩壊の危機に見舞われる。それまでに力を集めて、この国の秘密を解き明かして」
「いきなり謎の伏線ぶっこんでも面白くないぞ」
「いや思い出してよ! レスタンブルク国に、明らか機械と思われる宝とかあったでしょ!? 他にも色々怪しいところない!?」
確かにあったのは覚えている。なにかよくわからない国宝があると。
カーマ曰く、監視カメラなどと同じような見た目と言っていたがな。
「どうせ他にも転生者がいたとかのオチだろ! そんなものいてもおかしくないからどうでもいい」
「何でさ!」
「俺が転生してんだから! 他の奴も転生してたっておかしくないだろ!」
「何で変なところで勘がいいのさっ! ねじ曲がった思考回路!」
「とうとう喧嘩売りやがったな! 随分とレパートリーに富んだ店め!」
……冗談で誤魔化したが、実はミーレの話に思い当たる節は多々ある。
他にもこの国、わりと謎の要素はある。例えばレード山林地帯。
あそこはいくら何でも意味不明だ。
ドラゴンが生態ピラミッド最下層なことがおかしい。
普通は他の住みよい土地に移動するはずだ。だがそれを行わずに修羅の国に生きていた。
なので武人のような生き物と思っていたが、実際のドラゴンは守銭奴の金ドラ。
あんな奴らがずっと逃げなかったのは絶対何かある。
それに巨神ジャイランドの存在もだ。
はっきり言ってあの巨神はおかしい。俺たちがレード山林地帯に入るまで、伝説でしかなかったなどあり得ないのだ。
あそこまで巨大な存在ならば、遠くからでも誰か見ていておかしくない。
それが俺達が発見するまで、目撃者がなしだったのだから……。
だがこれらを認めてはならない。認めたら最後、また色々と調査とかに駆り出されてしまう!
このままミーレに襲い掛かって、ごたごた紛れに胸でも揉んで誤魔化すか……!
そんなことを考えていると、彼女は少し息をいれて落ち着いた。
やめろよ、手をワキワキしてる俺だけ変質者みたいじゃないか。
「真面目に忠告するよ。レスタンブルク国は爆弾庫みたいなものだよ」
「まあ腐った貴族による秘伝のタレが熟成されてるからな」
「そういった汚点とかじゃなくて、物理的に国の土地が消滅するよ」
「消滅する」
また冗談をと笑い飛ばしたかったが、ミーレは真剣な表情だった。
……物理的に消滅ってなんだ? 大災害でも起きるのか?
だがもしそうなら俺にできることなんてない。
大自然の前では人の力など無力だ。
「てか誤魔化さずに全部話せよ。聞いてやるから」
「無理、これ以上話すには君の寿命千年分をもらわないと」
「どう考えても払える額じゃねぇな」
「世界の命運を変えるほどの情報だからね。君が全てをかけても対価を払いきれない」
ようは話す気はない。もしくは話せないということだろう。
まあいいや。こういうのは案外、大したことなかったりするものだ。
大預言者の占いはだいたい外れるし、気楽に構えておけばよい。
用事は終わったようなので、【異世界ショップ】から退店しようとする。
そしてしばらく時間が経って、王から重大発表を行う日を知らせる手紙が届いた。
俺達はその発表を見届けるために王都へ向かうことにした。
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