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王家騒動編
第135話 王家の発表
しおりを挟む俺達は王家の発表を聞くために王都にやって来た。
現在はまだ時間があるので、フォルン領が屋台を出している広場にいる。
「フォルン領のカレーだよ! シチューっていう辛くない美味しい食べ物もあるよ!」
「新しい菓子だ! チョコレートっていう超絶甘い菓子だよ! フォルン領の新しい名産品だっ!」
フォルン領の屋台で様々な商品が売られていく。
王都でのカレーの知名度と評判は圧倒的なので、飛ぶように売れていってウハウハ。
更にカレーの評判に押されて、シチューやチョコレートなども売れまくっている。
「美味い! このシチューというのもすごいな」
「この黒い塊めっちゃうまいぞ! まるで甘さの大洪水やっ!」
「ふむ。カレーとシチューはほぼ具材が同じですね。ずばり食材を流用してますね、よい味とセコさがにじみ出ておりますね」
購入者もカレーやチョコを食べて口々に賞賛している。最後の奴は黙れ、口を閉じろ。
他にも世にも珍しいドラゴンの見世物が行われている。
これはフォルン領がドラゴンたちをこき使えていることを喧伝する。
つまりドラゴン便の宣伝みたいなものだ。
「なんと今日はドラゴンの火の輪くぐりでござるよ! いくでござる!」
「ドラァ!」
センダイの指示に従って、ドラゴニウムが木で作られた火の輪に突っ込む。
奴は今日は人間の言葉を禁止している。口を開かせたら金の話をするので、ドラゴンの評判が落ちかねないからだ。
そして跳躍して見事にくぐるのに失敗して火の輪に激突。
「ドララァァァァァ!?」
「ドラゴニウム殿! こんなところで丸焼きは生々しくて目に毒でござる!」
熱さで地面にゴロゴロと身体を転がすドラゴニウム。
だが一応はドラゴンなので、強固な鱗に守られて身体は燃えていない。
たぶん熱湯かけられたバラエティ芸人みたいなものだろう。
待てよ。まさかあいつらはドラゴンが危険でないと示すため、わざとやったのか!?
「ドラァァァァ!? ドラァァァ! ドラァァァ!」
「医者ー! 医者ー! 金ー! って必死に叫んでるよ」
ドラゴン翻訳機ことカーマが俺に叫びを教えてくれる。
……まあ演技なわけないよな。業務上の火傷だから、傷病手当とか要求してきそうで嫌だなぁ。
「どうする? 姉さまに頼んでドラゴニウムを冷やしてもらう?」
カーマが提案してくるが、ドラゴニウムは元気そうなので大丈夫だろう。
「別にいいだろ……アレでも一応はかろうじてドラゴンのはずだし」
「わかった。ねえねえ三色アイスちょうだい」
「いやこれ祭りじゃ……」
「屋台が出て人が集まってる。ならこれはお祭りだと思うんだ。逆に聞くんだけど祭りの儀式だけやってたら、お祭りだって楽しめるの? つまりお祭りは屋台だよ」
強い口調で言いきるカーマ。
は、反論できない……確かにだんじりとか出ていても、屋台出てないと祭りな気がしない!
逆にだんじりとかなくたって! 屋台がいっぱい出てれば祭りっぽいし楽しい!
「俺の負けだ……ほれ、三色アイスだ」
「わーい! ありがと、あなた!」
カーマは三色アイスを舐めながら走り去っていった。
たぶんチョコレートでも買うつもりだろう。三色アイスに更にチョコを加えるつもりかっ!?
なんて罰当たりな奴だっ! 四色以上にするつもりかっ! そもそも味が合わないだろ!
彼女の三色アイスへの冒涜を止めるか迷っていると、後ろから服が引っ張られた。
振り向くといつの間にかラークがいて、俺に何か訴える目をしてくる。
「三色ケーキ欲しい」
「そんなものはない」
「…………」
ラークは目に見えて落ち込んでしまった。
いや存在するのかも知れないけど、少なくともお祭り用の三色ケーキなどない。
だがここまで悲しんでいるラークを見てられないので、【異世界ショップ】からベビーカステラの入った紙袋を購入。
「ほれ。これをやろう」
「何これ? 小さなパン?」
「お祭り用のケーキみたいなものだ。食べてみろ」
ラークは首をかしげながらベビーカステラをゆっくりと一口食べる。
「……!」
彼女は目を輝かせながら、更にパクパクとベビーカステラを食べ始めた。
どうやら相当お気に召したようで、一心不乱に食べまくっている。
周囲によい匂いがしてきた、俺もひとつもらおう……。
そう思ってラークの抱えている紙袋に手を伸ばすと……その手を払われてしまった。
「ダメ」
「……くれてもよくない?」
「ダメ」
なんかラークが袋を守るように抱えて、猫みたいに威嚇してくる……。
キャラ変わってない? そこまでベビーカステラ気に入ったの? それケーキじゃないよ?
いやケーキとカステラの違いは知らないけど。
今の彼女からもらうのは無理と考えて、もう一袋を【異世界ショップ】から購入する。
「それももらう」
「ちょっ!? 返して!? それは俺のベビーカステラっ!?」
袋が現れた瞬間、ラークがこちらに突撃してきて奪われる。
そしてそのまま大激走して逃げて行ってしまった。
……なんか更に妙な好物を増やしてしまった感が。
もうひとつ購入するか迷ったが、またラークが盗りに来る気がしたのでやめておいた。
広場を見渡すが、フォルン領の商品は売れに売れまくっている。
「へいらっしゃい! 超絶甘いシチューだよ! 舌がとろけるよっ!」
「このチョコはカレーと違って辛くないよ! 騙されたと思って食べてみてよ! 一口だけでいいから!」
……なんか宣伝がおかしくなってきている。
超絶甘いシチューはもうシチューじゃないと思う。
「これよりドラゴンに酒をかけて火の輪に体当たりさせる。でも酒はもったいないので、代わりに油にするでござる」
「ドラァ!?」
「待て!? 流石にそれはドラゴンでもやばいって! それとシチューは超絶甘くない! チョコと混同するなっ!」
「チョコとシチュー混ぜたら美味しいと思うサッ!」
「お前の生まれみたいな魔融合料理を作るんじゃねぇ!」
各出店が混沌し始めていたので、必死にそれを食い止める。
なんで普通に店を出すのができないんだ!? ライダン領との見本市ではできてたのに!
そんなこんなで必死に頑張っている間に、王の発表の時間になった。
俺は急いでラークを拾って、転移で王城に向かった。そして玉座の間に入って王に合流する。
だが今回の王の発表は玉座の間では行われない。
王は城のバルコニーへと出て、俺とカーマとラークもそれについていく。
ここからは集まった民衆が見えて、また彼らからも俺達が見える。
つまりここは上から目線で民を見下す……もとい、民衆に対して発表する時に使う場所だ。
今回の流れはこうだ。俺が王を継ぐことを、今日この場で発表する。
それと同時に花火とドラゴンが打ち上げられ、俺の威容を見せつけるのだ。
その準備はすごく大変だった。リハーサルもすでに五回くらいやって無事に成功している。
五回やった理由は簡単で四回失敗しただけだ。
ドラゴンたちがムダに空中四回転捻りとか試みて、失敗して無様に墜落するから……。
おひねりが欲しいとか何とか言ってたが、曲芸飛行は禁止しておいた。
「親愛なる国民たちよ! 今日は私から重大な発表がある! 心して聞いて欲しい!」
王がバルコニーに立って、国民に対して叫び始めた。
この王の数少ない特技として、声が大きくて喉が丈夫というところがある。
だが……。
「故に私は国民を愛し……親愛なる……(前略)、平和のためには涙を飲んで(中略)、我が娘たちは天才で美しく可憐、更に国のために慈愛をもって(後略)……というわけだ」
……おっそろしく話が長い。
校長先生の話を一時間繰り広げられる身になって欲しい。
喉の耐久力があるのも考え物だ。事前にカラオケでも誘って、消耗させておいて欲しかった。
「そして! 今日! この発表を行うものであるっ! 心して聞くがよい!」
ようやく発表が行われるようだ。長かった……。
俺は後ろに控えている部下に手で指示を送る。
王の発表と同時に俺が民衆の前に立ち、恰好つける。それと同時に花火などが撃ちあがる。
さあ何度も練習したリハーサルがここで生きる!
王は大きく息を吸うと大きく咆哮した。
「今日、この瞬間! レスタンブルク国は! ラスペラス国に宣戦布告する!」
「……は?」
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