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王家騒動編

第138話 急襲された?

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「王都が攻められてるって……分かったぞ! とうとう王に対するクーデターが起きたのか!」
「違う。ラスペラス軍が攻めてる」
「なんで?」

 いや意味不明である。

 ラスペラス軍は先ほど、国境付近に来ていた奴らを迎撃したばかりだ。

 そのラスペラス軍が何でこの国の中央付近にある王都に攻めているのか。

 意味が分からないがやることはひとつだ。

「すぐに王都に戻るぞ!」
「父様を助けないと!」

 カーマの悲鳴みたいな叫びに対して俺は頑張って口を閉じた。

 流石にカーマたちの前では言えないが、王ははっきり言うとどうでもよい! 

 それよりも今は王都広場にフォルン領の出店が!?

 うちの大事な金が盗られてしまうぞ!

 急いでラークの転移で王都の王城へ転移する。

 本当は最初から広場に転移したかったが、流石に王が討ち取られると面倒なので玉座の間へ急ぐ。

 くそぉ! 王って足手まといだな! 将棋の王将やチェスのキングを見習ってくれ!

 あいつらはわりと戦えるのに、ここの王は磔にして囮くらいしか運用方法思いつかんぞ!

 そんなことを考えながら、王城の廊下を走りつつ状況を確認する。

 自軍の兵士たちが、敵軍の兵士ひとりに対して数名でボコっているのが見える。

 どうやら敵軍の兵士はあまり王城に侵入できてない。

 つまり見る限りではこちらのほうが優勢のようだ。

 そして玉座の間にたどり着き、護衛の兵士たちが扉を開いたので中に滑り込む。

 部屋では王が偉そうに玉座に座っていた。

「ちいっ! 王! ご無事でたぶん何よりです!」
「おお、アトラス伯爵か! ここは大丈夫だから広場に向かって欲しい! 敵軍は広場に陣取ろうとしておる! ……ところで舌打ちしなかったか?」
「気のせいです」

 広場だと!? よりにもよってうちの出店のあるところじゃねえか!

 何で王城攻めてこないんだよ! お前らもカレー食べたかったのかよ!?

 王のくせに囮にもならんとは! 広場じゃなくてここに敵を集めろよっ!

「カーマはここに残れ! ラークは俺と一緒に広場に行くぞ!」

 急いで城のバルコニーに出て軍用ヘリを購入すると、広場に向かって飛び立つ。

 今回のヘリは重機関銃やミサイルも装備の兵器だ。

 ……俺の大事な民と金を傷つけてみろ! お前らをミンチにして売り飛ばしてやる!

 今の広場にはセンダイやエフィルン、非戦闘員のセサルやドラゴンまでいるのだ。

 頼むから無事にいてくれと祈りながら、広場の上空へとたどり着いた。

「広場の状況は!? うちの出店は無事か!?」
「あそこ!」

 ラークが指さしたところを見ると。

「「「「ドラァァァァァァ!」」」」
「「「「お、お助けぇー!?」」」」

 ドラゴンたちがラスペラス兵を追い回している。

 あ、一人がドラゴンテールで吹き飛ばされた。更に一人がドラゴンに甘噛みされてる。

 どうやらドラゴンたちは金に腐ってもドラゴンらしい。

 それとラスペラス兵にはローブ姿の敵が多く、そいつらは魔法使いの可能性が高い。

 戦場でヒラヒラの服着たバカなど魔法使いしかいないし……。

 でもドラゴン相手には分が悪すぎるようだ。呪文じゃなくて絶叫を唱えて逃げまとっている。

 更にその付近ではセンダイが剣を抜いて暴れていた。

「こ、この酔っ払いどうなってんだ!? 魔法使いが斬られていくぞ!?」
「魔法まで斬られたんだけど!?」
「うーむ、酒が足りぬでござるなぁ。これでは弱い者いじめでござるよ」
「「戦闘中に酒飲むなっ! 俺らを舐めてるつもりかっ!」」
「そんな趣味はない。拙者が舐めたいのは酒でござる」

 センダイが向かってくる魔法を剣で切り裂いて、敵兵をみねうちで無力化していく。

 センダイに相対している奴らもローブ姿が多いな……。

 どうやら俺達がノートレスで迎撃したのは、完全におとりだったようだ。

 油断させておいて、魔法使いを中心にした主力部隊で王都を強襲。

 なるほど、どうやってやったか知らんが効果的な作戦だ。

 更に出店のそばではセサルが、敵の豪華そうなローブを着た女と相対していた。

「なんでよ!? 五魔天たる私の、悩殺魔法が何故効かない!? 私の魔法を浴びれば、世界で最も美しい存在と認めてかしづくのに!」
「ふっ……ミーの美しさもまた、世界を悩殺しているからサッ! さて、君たちにはミーのくしゃみ薬の実験体になってもらおう」

 ……あそこは見なかったことにしよう。触らぬ変に祟りなしだ。

 五魔天なんて聞かなかった。あそこで繰り広げられているのは自意識過剰な変人の戦いだ。

 どちらの自意識がより過剰かどうかの、恐るべき虚無の戦いだ。

 更にエフィルンを探すと、彼女は敵のモブ魔法使い兵を蹂躙していた。

 広場に生えていた大樹を操り、敵兵を根っこで捕らえては数メートルの高さから落としている。

「ぐ、ぐおぉぉ!? いてぇ!? いてぇよぉ!」
「足があ! 足がぁ!」
「ま、まだ俺は戦え……ひいっ!? もう勘弁してください! もう一回落とすのやめてぇ!?」

 わりとグロイというか生々しい戦い方である。

 とりあえず結論から言うと、やだ……うちの兵強い……。

 カオスな戦場になっているが、基本的に敵兵が蹂躙されているのでよし!

「ラーク! お前も上空から氷を落とせ!」
「うん」

 俺達も敵兵に対して、空から氷の塊のプレゼントを贈る。気分は死のサンタクロースである。

 氷に直撃した敵は意識を失って倒れていく。

 その様子を鑑賞しながら広場の状況も確認していく。

 どうやら王都での主戦場はこの広場のようだ。……これはおかしい。

 敵軍からすればこんな広場よりも、王城の王を狙うのが普通だ。

 これもまた囮の可能性も考えたが、流石に可能性は薄いと言わざるを得ない。

 この不意打ちを成功してなお、囮を用意する意味は流石にないはずだ。そんなことに戦力を割くくらいなら、全員で王城攻めたほうがよい。

 つまり彼らがこの広場で戦っている理由は、ここで戦うしかなかった。

 ……敵兵は広場に隠れていて侵攻を開始した、あるいは現れたということだろう。

 だが広場にこんな大量の兵士が隠れるのは困難。更に言うなら、そんなことができるなら王城付近に隠れるだろう。

 つまり広場に転移してきた可能性が高い。ラークが転移できるのだから、他の奴らだって不可能なはずがない。

「ラーク! 敵の転移魔法陣みたいなものないか!」

 ラークは氷を落とすのをやめて、集中するように目を閉じた後。

「……ある。あそこっ」
 
 とある建物を指さした。あそこは……元ライダン領が使っていた倉庫!

 更にラークの言葉を証明するように、敵軍がそこに陣を張っている。

「ラーク、転移陣って燃えるか?」
「燃える」

 ならば俺のやることはひとつである。ひとつではあるのだが……。

「カーマめ……必要な時に限っていない……! いつもヘリでこんぺいとう食ってるくせに! せっかく思う存分燃やせるのに!」
「あなたが玉座に残れと指示した」
「そうだけども!」

 俺はヘリを倉庫の上に陣取らせると。

「ラーク! この容器に入った水をぶちまけろ! 後はマッチ!」
「この水なに? 変な匂い」
「ガソリン!」
「よくわからないけど」

 ラークは俺の言葉に従って、ガソリンと火をつけたマッチを大量に落とす。

 倉庫は哀れにも屋根から大炎上を始めた。敵兵はアリの巣をつついたかのように逃げまとう。

 屋根から燃やしているので、仮に倉庫の中に誰かいても逃げる時間はあるだろう。

 燃えろ燃えろ! 全て燃えちまえ! 忌まわしきライダン領の使った倉庫など!

 倉庫に火がついたのを確認したので、更にラークに指示して追いガソリンを投下。

 倉庫は大炎上したのでもはや消火は不可能だろう。勝ったな。

 これで敵兵は撤退不可で救援なしの孤立地獄になった。 

「しかし……王都の兵め! ライダン領の使ってた倉庫に、転移陣まんまと仕掛けられてんじゃねぇか! 見本市の時だろ! 気づけよ!」

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