【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

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王家騒動編

第139話 孤立した兵は悲惨

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 結局敵の兵士はほぼ王城にたどり着けないまま、広場で遊んで力尽きた。

 敵兵は全員捕縛して広場で晒している。流石に多すぎて牢屋にいれられないしどうするんだろうな。

「くっ! この五魔天たる私が負けて捕らえられるとは!」

 豪華なローブを着た女が、ロープに縛られて何やら叫んでいる。

 セサルに自意識過剰勝負を挑んだあげく、最終的に敗北した無様な女だ。

 決まり手はセサルの祝福されし生まれを聞いて力尽きたらしい。どんな決まり手だ。
 
「いやあんた、うちの非戦闘員に捕まってたじゃん……」

 俺の言葉に目や口を見開いて驚く女。

「非戦闘員だと!? 強敵と思って引き受けたのに!? なら私は何のために戦ってたんだ!?」
「ご愁傷様」
「あああああぁぁぁぁ!?」

 とりあえずムダなことをしていた自覚はあったようで、発狂した後にガックリとうなだれる女。

 俺は彼女の肩に手を添えると。

「よかったな。自覚があるだけセサルよりお前のが上だ」
「なにひとつ嬉しくない!? 何故だ!? 何故広場にこれだけの戦力が配備されていた!? 我々の作戦を読んだのか!?」
「むしろ、なにひとつ読めてなかったからこうなった」
「……は?」

 俺は間違ったことを言ってないぞ。少しでも読めてたら広場にセンダイたちはいなかった。

 王家に防衛押し付けて帰ってたから……本当、少しでも読めてれば撤退したのに。

 おかげでこの後、また事情聴取とかで時間取られるじゃん……。

「あ、そうだ。お前って五魔天なんだろ? 称号を言え」
「ふっ……私のことが気になるか。私は色欲のセレ……」
「あ、もういいっす。モブの名前を記憶する趣味ないし」
「も、モブ……?」

 茫然としている色欲に背を向けて離れていく。

 こいつは色欲とだけ覚えておこう。今後会うことがあるかは知らんが……。

 色欲ねぇ……テンプレの七つの大罪称号こき使いやがって。五魔天のくせに。

 しかも残りの四人のうち、一人は操魔なので統一性もない。

 それにあの女、色欲と言いながら身体つきがエフィルンに劣ってたぞ。

 色欲名乗るなら胸にツインメロンくらいつけてこい。あれではツインリンゴが関の山だ。

「主様、ご無事ですか? それと私の胸に何か?」
「いやツインメロンだなって」
「?」

 首をかしげるエフィルン。そのひょうしに胸がたぷんと揺れた。

 やはりエフィルンのほうが悩殺を名乗るべきだな! あの女は今後出番も立つ瀬もないだろう。

 ……ふとくだらないことを思いついてしまった。

 これを言ったら絶対にしらけるだろう……だが言いたい!

 いや言おう! 男にはくだらなくても言わざるを得ない時がある!

「まさに完パイだな」
「アトラス殿、流石にしょうもないでござる」
「…………言うなセンダイ」
「?」

 いつの間にか後ろにいたセンダイに突っ込まれてしまった。

 わかってる、しょうもなかったのは分かってる。だがつい魔が差して言いたくなった。

「それでセンダイ、何の用だ? わざわざ来たんだから、何か重要な用があるんだろ」
「然り。拙者、超重要な問題が発生しており…………」

 そりゃそうだろうな。出店やってたところ襲撃されたわけだ。

 何かしらの問題が起きていて然るべきである。

 センダイは大真面目な顔で口を開くと。

「酒が足りぬでござる」
「勝利にバカみたいに酔いしれてろ」
「違うでござる。消毒用に酒が欲しいでござる」

 ……センダイの言葉が凄まじく怪しい。怪しいが仕方がないので酒瓶を大量に渡す。

 ここで消毒用アルコールを渡すのは愚者だ。何故なら……うちの兵士たちなら絶対に味見と称して飲むからだ。

 治療しようとした側に治療が必要、ミイラ取りがミイラになってしまう。

「アトラス殿。もう少し高価な酒のほうが、ケガの治りが早いでござる」
「変わらんだろ! てか本来なら酒である必要もないんだぞ!」
「変わるでござる。酒精が高いほうが消毒できそうでござろう!」
「お前らならツバでもつけときゃ治るんじゃねえかな……」

 酒精が高いほうが効くのか? ……知識がなくて分からんぞ。

 いやアルコール度数低いチューハイを傷にかけても無意味そうではあるが……。

 そんなことを考えていると、兵士のひとりが負傷兵に酒瓶を持っていく。

 酒瓶を受け取った負傷兵は、傷口に酒をかけようとして。

「よく考えたら傷口に直接かけても、口から流しても同じじゃね? どうせ酒を摂取するんだし」
「確かに一理ある。ならケガする前から呑んでれば、事前消毒になるんじゃね?」
「「天才かお前」」

 全員バカだよ。予防接種みたいに言うなよ。

 兵士は傷口ではなくて、口で酒を飲み始めた。結局消毒に使わずそのまま飲んでやがる……!

 もう見なかったことにした方が精神衛生上よさそうだ。

「センダイ。うちの被害を報告してくれ」
「おおよそ負傷兵が二十人程度でござるな。酒盛り……出店の手伝いで百人以上の兵が出ていたので」
「いいご身分だなおい……」

 たかが広場の出店の護衛で兵士が百人出る意味……いや結果的に役立ったけども。

 そして負傷兵たちはドンチャン騒ぎを始めやがった。

 もはや消毒というお題目は消えて完全に飲んでやがる。

「……次は消毒用ウェットティッシュにするか」

 いや待て。奴らなら消毒用ウェットティッシュを口に含みかねんな……。

 甘い味のするティッシュを口に含むがごとく……いかん、容易に想像がつく。

 俺がウェットティッシュをはむオッサンを想像して、身の毛をよだせていると。

「主様、ノートレス領に戻らなくてよろしいのですか?」

 エフィルンが俺に助言してきた。

 確かに俺はノートレス領を放置してきてしまった。

 だがあそこの領地に攻めてきた敵は完全に撃退している。

 ……領主が【異世界ショップ】で拉致監禁中なことを除けば。

 …………現在のノートレス領はトップがいないことになるな。戻らないとヤバそう。

「よし、俺はノートレス領に戻るぞ。カーマはここで犠牲になってくれ」
「いやだよ!? 面倒ごと押し付けるつもりじゃないの!?」
「違うぞカーマ。つもりじゃなくて押し付けるんだ!」
「もっと酷いよ!?」

 叫ぶカーマに対して背を向ける。

 だって俺はノートレス領に戻らないとダメだしー? ラークは移動に使うしー?

 じゃあ選択肢はカーマしかいないじゃん? 決して面倒だから押し付けてるのではなく、極めて合理的な戦略に基づく判断である。

 ……絶対この後、面倒ごとになるからな。

 まずは裏切り者が捕虜にした敵兵を開放しろと騒ぐ。

 次に自分たちならもっと広場への被害を防げたと言う奴が出てくる。

 レスタンブルクを舐めてはいけない。この国はクズの見本市だ。

 想像できるクズ人間は期待を裏切らずに現れる。クズを一匹見たら三十匹はいると思え。

 品揃えも超豊富だ。直球クズから変則クズ、その他もろもろ取り揃えております。

 なので俺はカーマとセサルを置いて、ラークの転移でさっさとノートレス領に逃げた。

 そしてノートレス領主を【異世界ショップ】から出してやった後、しばらくすると。

「貴様のずさんな指揮のせいで! わが軍に負傷兵が数人も出た! 私ならば完全勝利できたのにどう責任を取るつもりだっ!」

 ノートレス領主が我こそはクズと言わんばかりに、見事な雄たけびをあげた。

 ……この国、少しは期待を裏切れよっ!
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