【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

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王家騒動編

第140話 お茶の招待

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 ノートレス領主との舌戦は想像以上に虚無だった。

 俺がノートレス領主屋敷の食堂で食事をとっていたら、ノートレス領主が俺の隣に座って来たあげく。

「貴様のせいで負傷兵が数人も出たのだっ!」
「いやあんたらの軍、戦ってすらいないんだが……」
「何を言うか! 戦闘準備のために鎧をまとって走っていたら、こけて骨を折ったのだぞ! 貴様がもっとゆっくりやらしておけば! 全ては貴様の責任!」

 ……すげぇ。ここまで相手のせいにできるのは、ある意味才能かもしれない。

 とりあえずウザいのでもう一回拉致監禁しておいた。

 どうせこいつは王の勅命に逆らったから、反逆罪で最低でも牢獄入りだ。

 ようやく静かになったのでラークと一緒に食事をとり続ける。

「ベビーカステラ欲しい」
「ラーク、食事の時に菓子はダメだろ」
「あれはパン。パンは食事」
「パンがないならお菓子を理論やめろ。菓子は菓子だ」
「でもアンパンやクリームパンはパン。菓子と何が違う?」

 …………やべぇ反論できねぇ。アンパンをパン、ケーキを菓子たらしめてるものはなんだ!?

「アンパンは菓子パンだから……」
「名前にパンがついてるならパンなはず。あくまでパン」
「た、確かに……」

 アンパンは菓子パンだ。だが間違いなくパンであるはずだ。

 だがケーキはパンではない。違いは素材か? それとも砂糖が大匙一杯以上入ってたらか?

「パンとケーキは同じ。つまり、ベビーカステラはご飯」
「ば、バカな……絶対違うはずなのに反論できねぇ!? 感情では否定できるのに、理屈で否定できない!?」
「ベビーカステラちょうだい」
「…………はい」

 俺は論破されたので、昼飯としてベビーカステラの袋をラークに献上した。

 いや絶対おかしい。ベビーカステラがパンなはずがない。

 というかパンって何だ? ケーキってなんだ?

 ましてやパンケーキってなんだ? 同じものの融合じゃね? 

 パンパンかケーキケーキなのを、なんか格好よく誤魔化してるだけじゃね?

 昼からそんな哲学的なことを考えていると。

「ちょっとあなた! よくもボクに王都の後処理全部押し付けたね!?」

 カーマが俺のそばに走ってきて叫んできた。ラークに転移で連れて来てもらったのだろう。

 だが俺にはカーマの言葉が耳に入らなかった。

「なあカーマ。パンとケーキの違いってなんだ?」

 俺の言葉にカーマはしばらく腕を組んで考えた後。

「卵入ってるかどうかじゃないの?」
「…………それだっ! 卵が入ってればケーキか! ようやくすっきりした!」

 長い間囚われていた思考から解放されて、ようやく気分が晴れた。

 いや厄介な哲学だった。しばらくパンもケーキも考えたくない。

『たまごパンってあるよね』

 余計な事を言うなミーレ! これ以上、俺を思考の迷宮に落とすんじゃない!

 実際のパンとケーキの違いは知らないが、卵を使ってるか使ってないか! 

「……いかん。ムダな思考で時間をつかってしまった。敵軍の再侵攻はないか?」
「ひっく。敵軍の動きは認められないでござるな。代わりにこれが」

 センダイは手紙を渡してきた。そこには悪の魔導結社の国印が押してある。

 相手国からの正式な手紙ということか。何が書いてあるのかと封を破いて中身を見て、思わず絶句してしまう。

「レスタンブルク王よ。お茶しましょう、美味しいお菓子でお待ちしております。って舐めてんのか!? お前ら攻めてきたところだろうがっ!?」

 俺は手紙をびりびりに破いて床にたたきつける。

 どう考えても戦争中の敵国に対する手紙じゃねぇ! 底なしの脳内お花畑か舐めプで超煽っているかだ!

 何がお茶だ! わびさびでも感じようってか!? ならワサビ茶でも飲ませてやろう!

「落ち着くでござるよ。逆にどんな手紙が来たらよかったのでござるか?」
「手紙と共に黄金色の金が届く」
「それただの金で賄賂でござる」

 センダイの言葉をスルー。

 いやさ、王都で捕らえられた兵士の解放要求とか来ると思ってたんだよ。

 ラスペラスで王都を攻めてた奴ら、基本的に生け捕りに出来ちゃったんだよな。

 俺達としても正直あまり喜ばしいことではない。大量の捕虜とはつまり、食料も大量に食うということになる。

 ただでさえ食料に余裕のないレスタンブルクだ。正直しんどいだろう。

 王がボソリと「食料やらなかったら共食いせんか」などと呟いたらしい。

 そんな虫じゃないんだから……。

「……仕方ない。奴らのお茶に招かれてやろう。そこで要求してくるよ」
「何て要求するの?」
「捕虜を金で引き取れって。それで俺がレスタンブルクとラスペラスの間に入って、金の一部をネコババする完璧な作戦だ」
「酷い……」

 カーマが何やら呟いているが、これは素晴らしい上策と言えるはずだ。

「何を言う。レスタンブルクは大食らいがいなくなって嬉しい。ラスペラスは捕虜が帰ってきて嬉しい。俺は金が入って嬉しい。全員が得しかしないだろう」
「あなたがいらないよね!?」
「俺がいないと交渉がまとまらないかもしれないだろ!」

 俺は何としても、レスタンブルクとラスペラスの間にねじりこんでやる。

 それで金を何とかして搾り取らなければ。このままではただの戦い損だ。

「よし。俺がお茶会に行くぞ」
「えっ。相手が指名してるのは父様だよ!? あなたは王じゃないよ!?」
「次期国王も現国王も誤差だ。それにカーマにラークもいるんだ。次期国王と姫二人いれば、多数決取れば王より偉い」
「多数決なんて取らないと思うよ……」
「うるさい。無理筋は案外通る物だ。そういうわけで行くぞ!」

 そんなわけでゴリ押しで交渉することにした。

 お茶よいですね、次期国王が向かいますとラスペラス国に手紙で返信しておいた。

 ちなみに『次期』の記載はあぶり出しにしているが細かいことだろう。

 まあ俺も次期国王だから大丈夫だ。まだ非公開なのでラスペラス国は知らないだろうが誤差だろう。

 こういうのは自信満々に主張すれば案外通るものだ。

 まあ十中八九通らないので、カーマとラークとエフィルンで正面突破しよう。

 敵本陣に突撃して敵の王とお話しよう。……そう思っていたのだが。

 俺達は今、ラスペラス国のとある街の屋敷の前にいる。

「通っちゃったよ……」
「通っちゃったね……」
「敵もバカ」
「流石は主様」

 何故か了承の手紙が帰ってきて、俺達は敵のトップと話すことになったのだ。
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