【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

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ラスペラスとの決戦編

第150話 覆水盆に返らず

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 動かなくなった筐体を茫然と見ながら、俺は今後のことを考えていた。

 ……やっべー、巨神倒したらダメだったのかよ!?

 イレイザーとかいう餅ゴーレムに対して、巨神がキーアイテムだったとか知らんわ!

 もっとわかりやすくフラグとか出しておくべきだと思う! こいつ倒したら詰みますみたいな!

 しばらくこの場に沈黙が訪れた後、カーマが口を開いた。

「……ジャイランド、もしかして討伐したらダメだったんじゃ」
「いやいやいや! あそこであいつを放置してたら、フォルン領踏み潰されてたぞ!?」

 あの時点でジャイランドを放置するという選択肢はなかった。

 奴はフォルン領に向かってきていたのだから、あのまま見過ごしたら領地が壊滅していたのだ。

 倒さざるを得なかったのであって、俺達は決して悪くない。

 だがカーマはまだ納得していないようで。 

「……でも」
「それによく考えろ。あいつはイレイザーとやらがいないのに、勝手に目覚めて暴れまわったんだぞ? 壊れてたんじゃね? そうだ、そうに決まってる!」
「ふむ、確かにそうでござるな。対象の敵が目覚めてないのに、暴れていたでござる。まるで酔っ払いのように」

 そもそもイレイザーが出てこないのに、巨神が目覚めたのがおかしいのだ。

 ジャイランドが壊れていたのが悪いのであって、俺達は全く悪くない。

 カーマも俺の言葉にようやく納得してくれたようで。

「そうだね。異空間に飛ばす力を持っている者がいないのに、目覚めるのはおかしいよね」
「そうそう。だからジャイランドは壊れて…………」

 俺は最後まで言葉が言えなかった。

 …………【異世界ショップ】って、もしかして異空間判定では?

「ねえどうしたの? 顔色が悪いよ?」
「体調不良?」
「主様、大丈夫ですか?」

 皆が心配してくれるが、俺は自分の考えで頭がいっぱいだ。

 まさかジャイランドは俺に反応して、目覚めて襲ってきたのでは!?

 それだと奴が真っすぐフォルン領に向かってきたのも、物凄く合点がいってしまうぞ!?

 ……奴はフォルン領じゃなくて俺を狙ってきていたのでは!?

「アトラス殿? すごい汗でござるよ? キツイ酒でも飲んだでござるか? 拙者も同伴に預かりたいでござる」
「な、なにを言ってるのかなセンダイ君!? 俺はふ、普段通り冷静だよも! ああ冷静だ!」
「アトラス様、間違いなくぶっ壊れておりますぞ!」

 いかん、動揺のあまり身体が震えてきた。

 俺のせいでジャイランドが目覚めたことは、絶対黙っておかねば……!

 とりあえず今は誤魔化すぞ! この空気を何とかしてかき消すのだ!

 俺は何とか笑顔を作って、みんなに向けると。

「よおし! センダイ、高級酒をやろう! カーマやラーク、エフィルンにもケーキにアイスにマシュマロだ!」
「いや結構でござる。なんか不気味ゆえ」
「怪しい」
「主様、大丈夫ですか?」

 誰一人として俺の賄賂を受け取ってくれない!?

 なんで!? いつもなら嬉々として受け取るのに!?

「ま、まあ元気そうだからいいんじゃない? とりあえずここを出ようよ。もういても仕方ないだろうし」
「そ、そうだな! こんな遺跡にいてももう時間のムダだ! ジャイランドは壊れていたんだ、それが分かっただけでも大収穫だな!?」
「アトラス殿、悪い酒でも飲んだでござるか?」
「おかしい」

 俺の必死の叫びに全員が疑惑の目を向けてくる……。

 結局、ここはもう用事がないという意見は一致していたので、遺跡から脱出して地上に出る。

 そしてラークの転移でフォルン領へと帰還した後、俺は【異世界ショップ】へと殴り込んだ。

 カウンター席にひじを乗せてくつろいでいるミーレに、勢いよく詰め寄ると。

「ミーレ、ジャイランドが目覚めたのって俺のせいか!?」
「く、苦しい……服引っ張らないでよ……。確実にアトラスのせいだろうねぇ」
「畜生!」

 ミーレのお墨付きがついたので、どうやら確定のようだ……。

 やっちまったなぁ…………でも俺言うほど悪いか?

 そもそも異空間に飛ばす力なんて判定じゃなくて、イレイザーにだけ反応させりゃよかったんだ!

 つまり悪いのは設定であって俺ではない! 製作者が百パーセント悪い!

「そのポジティブさは見習いたい時あるよ」
「うるせぇ! そもそも異世界ショップもイレイザーも異空間系能力だが、関係あったりしないだろうな!?」
「あるよ。だってイレイザー復活時の対策として、君が転生したんだから」

 ……いやもうこれ完全に俺が悪いじゃん。

 イレイザーの関係者じゃん。どう言いつくろってもジャイランド目覚めたの俺のせいじゃん。

「……待て。俺ってイレイザー復活時に対策が役目ってことか?」
「うん」
「ジャイランドいたら、俺いらなかったんじゃね」
「アトラス、それ以上考えない方がいい。君の存在意義に影響を及ぼす」

 …………よし。ジャイランドのことは忘れることにしよう。

 俺がイレイザーの対策で転生したなら、俺だってイレイザー倒せるはずだろ。

 つまりジャイランドのほうが邪魔者だったってことだな! よし!

「ふぅ。つまりアレだな。俺とジャイランドは、存在意義を食い合う関係だったんだな。敵対せざるを得ない悲しい関係だったと」
「いや普通に共闘できたと思う」
「悲しい運命だったな!」

 ミーレの言葉はガン無視することにした。

 俺とジャイランドは運命を共にできない関係だった。それでいいじゃないか。

 ミーレはそんな俺を見て愛想笑いを浮かべると。

「まあジャイランドがイレイザーに有効だったかは分からないよ。だってさ、脱衣麻雀君が作ったゴーレムだよ?」
「それだけ聞くと滅茶苦茶弱そうだな……」
「イレイザーに対して、異空間に飛ばされない巨体で殴るって発想はよかったけどね」
「じゃあ俺もセサルに巨神みたいなの造らせるか。脱衣麻雀君が作れたんだ、なら同じ変態のセサルもいけるはずだ!」
「いや変態度は開発技能の数値じゃないからね?」

 同じようなもんだろ。天才科学者はすべからく変態って言うし。

 そんなことを考えていると、ミーレが椅子から立ち上がった。

 真面目な表情をしてこちらをしっかりと見てくる。

「アトラス。これが君の転生した意味、イレイザーを倒してこの世界を救う。それを成し遂げた時、君は役目を果たしてこの世界から再び旅立つことになる」
「じゃあ倒すのやめるわ」
「えっ!?」
「だって俺、ここの世界でずっと生きていくつもりだし」

 いや当たり前だろ。俺はここの暮らしを気に入ってるわけで。

 イレイザーを倒したら強制的にこの世界からおさらば? そんなのごめん被るに決まってるだろ!

「いやあのえっと。だってほら、君は元々は転生でこの世界の住人ではなくて」
「外国人は他の国に移り住めないとでも?」
「いやそれとはまた違うというか……規則というか……」
「じゃあこの世界滅ぶな。あーあ、ミーレのせいでイレイザーに滅ぼされるわー」
「待って!? 分かった! 分かったよ! イレイザー倒してもこの世界にいていいから!」
「それだけー? 他にも褒美ないのー?」
「えっ、えーと……考えておくから!」

 俺に必死に抱き着いてくるミーレ。

 よし。これで俺は仕方なく世界を救ってやる感じになったな!

 この世界に転生した意味なんて知らん、俺は俺の好きにやらせてもらう!

 そんなこんなで【異世界ショップ】から退店し、執務室に戻る。

 するとセバスチャンが扉をぶち破って部屋に入ってきて。

「アトラス様! ラスペラス国が、再びノートレス領に攻めてきたと!」
「またかよ!」
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