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ラスペラスとの決戦編
第167話 相手の振り分け
しおりを挟むゴーレム軍はもはや半壊状態。ちょくちょく残ってたり、再生を始めているやつはいるが……もはや軍としては機能していないだろう。
つまり敵の残りは数十人の魔法使いと、五魔天のランダバルとダイナ。そしてうわきつ女王だけだ。
対してこちらは被害ゼロ。だが勝ったな……とは言えない。
むしろようやくスタートラインに立てたと言ったところだ。
「ふふふ。そのばけも……お爺さんも魔力切れかしらぁ。いやよかったわぁ……本当よかったわぁ」
うわきつ女王のマジトーンの声が戦場に響く。お爺さんとはセバスチャンのことを言っているのだろう。
実際は魔力切れというわけではないが、勝手に勘違いさせておこう。
俺も拡声器を【異世界ショップ】から購入し、女王に向かって宣言する。
「ここからが本当の勝負だ! お前を倒してやるから、首を洗って待っていやがれ!」
「あらやだぁ、セクハラよぉ! それに私は、毎日身体中をピカピカに磨いてるんだぞぉ♪」
やべぇ、うわきつ女王にロケットランチャー打ち込みたい。
だが我慢だ。ここで撃ったところで女王の魔法で防がれるのがオチだ。
「ランダバル、ダイナ。それと魔法兵たち、私の敵を倒しなさいぃ。私が見物して応援してあげるからぁ、一番活躍したものには私が投げキッスをあげるわぁ」
「「「「……おぉー」」」」
敵軍からか細い叫び声が上がる。すでに敵の戦意はズタボロだ。
すげぇ、そこらの破壊工作兵でもあそこまで士気を下げるの難しいぞ。
それにうわきつ女王はまだ俺たちを舐めているようだ。
ランダバルたちと魔法兵を戦わせて、自分はまだ高みの見物を決め込むとはな。
連携して攻めてこないのは己のチートに対する過信だろう、馬鹿め!
女王の宣言の通りにランダバルたちが、女王をひとり置いて進軍してくる。
「誰かダイナってやつのこと知ってるやつはいるか?」
みんなに声をかけるが誰も答えてくれない。
チッ。ダイナってやつだけが不安要素だが、それ以外は何とかなるはずだ。
魔法兵はドラゴンとフォルン領兵士を軸にして戦う。カーマ、ラーク、エフィルンはなるべく最低限の援護でその補佐。
残りの面子でランダバルとダイナを何とかする。これが俺の考えた作戦だ。
もちろん、状況次第で極めて柔軟に対応していくが。
「カーマ! ラーク! エフィルン! ドラゴンたちとフォルン領兵士を指揮しろ。魔法兵は任せる! だがなるべく魔力は温存しろよ! うわきつが待ってるんだから!」
三人は俺の言葉にうなずいて、フォルン領兵の指揮を始める。
「突撃だよ! 魔法兵は接近すればそこまでだもん!」
「遠距離からボウガン。近づくのが難しい」
「突撃!」
「ボウガン」
すでにカーマとラークの意見がぶつかっているが、まあ何とかなるだろ……?
いざとなったらドラゴニウムが何とかするだろ……カーマたちより金ドラのほうが、こういう時は頼りになる。
カーマたちは基本的に脳筋だし、弱い者の戦い方とか知らんからなあ。
その点、ドラゴニウムたちは弱者として知り尽くしているんだぞ! ドラゴンなのに!
「ふむ。拙者が指揮しないのは、ダイナという輩のためでござるか」
センダイが酒瓶を飲み干して呟く。
普通に考えればフォルン領兵を、防衛隊長のセンダイが指揮しないなんてあり得ない。
だがここでカーマたちの魔力を無駄遣いするわけにはいかない。
うわきつ女王の魔法が遠距離砲撃なのは暗部の情報で知っている。
そんな砲撃を防ぐのにはカーマたちの魔法防壁が不可欠。
では五魔天を相手するのは誰か……それは消去法で残りのセンダイたちになる。
そんなことを考えていると、ランダバルたちが俺達の近くまで歩いてきた。
「ほっほっほ。わしらの相手はお主らか? 魔法使いが三人しかいないが、舐めているのかの?」
ランダバルは俺達の面子を見て、いぶかしげな顔をする。
奴からしてみれば、自分は超強い魔法使いと思ってる自意識過剰爺さんだ。
相対する者が少ないのに違和感を感じてるのだろう。
「俺達を大甘に見てやがるな。魔力切れジジイとフォルン領主はともかく、もうひとりは誰とも知らねぇ女じゃねぇか!」
ダイナが手を拳で叩いて叫ぶ。奴は俺とセバスチャンとライナさんしか見ていない。
どうやら魔法使いでないセンダイは眼中にすらないようだ。
セバスチャン? あいつはさっき猛威を振るったから、ものすごい警戒されてるよ。
「いやいや舐めてなどいないとも。色々と考えた結果、最善の面子を選んだつもりだ」
「ほっほっほ。ワシの強さを忘れたのかの?」
「いや覚えてるさ。あんたの強さを分析したが……爺さん、対人特化の魔法使いだよな」
「……ほう。確かに研究はしていると見える。ワシの相手はお主かな?」
ランダバルは目を細めて杖を構え始めた。
あの爺さんは人と戦うことに特化した魔法使いなのだ。
魔力は中の上くらいしかいないが、魔法使いが撃った魔法を反射できる。
なので基本的に魔法使いに対してはメタ的な強さを誇る。
そして魔法が使えない人間相手ならば、自前の魔力で蹂躙する。
基本的に魔法使いに対抗できる非魔法使いはほぼいないので、結果的にランダバルはほぼ全ての人間に相性がいい。
例外は俺のような現代兵器を使う者。そして……魔法を撃たない者くらいだろう。
なのでドラゴンをぶつけることも考えたが……この爺さんは魔法使いとしても腕がよい。
ドラゴンたちも甚大な被害をもたらされてしまうし、勝てるか怪しい。
「いや、俺じゃない」
だから俺は考えた。ランダバルにぶつけるのは人間でも、ドラゴンでもない。
「こちらのライナさんだ。ライナさん! あいつらが諸悪の根源です! あいつらのせいで、バフォール領は暴走し、あなたは戦わせられたのです!」
――狂戦士の化け物をぶつければいいのだと。
「あああああああぁぁぁぁぁぁ!!! よくも、よくもぉぉぉぉぉ!」
空に向けて咆哮する狂戦士ライナさん。その衝撃で空気が揺れて、地面に衝撃波が走る。
ランダバルはそんなライナさんを見て一言。
「……ダイナ。相手を変わってくれんかの?」
「断る。俺の相手はフォルン領主だ。あんたは対人なら負けないと大豪語しただろ」
「ちょっ!? お主、さっきからあの女子から視線逸らしておるな!」
「ああああああぁぁぁぁぁあ!」
ライナさんが咆哮と共にランダバルに飛び掛かる!
ランダバル、必死にそこから跳躍して逃げる! 奴がいた地面にライナさんの拳が突き刺さり、巨大なクレーターができる!
爺さん超ダッシュしてライナさんから逃げる! それを追いかける狂戦士!
ここにジジイと化け物の鬼ごっこが始まった。捕まればきっと八つ裂きにされるだろう。
「ちょっ!? ワシが有利なのは人間であって! 人外は専門外じゃあああぁぁぁぁぁ!」
「待てぇぇぇぇぇ! 貴様の、貴様のせいで私はぁぁぁぁぁぁぁ!」
よっしゃ! これでランダバルは何とかなるだろ!
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連載再開します。
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