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ラスペラスとの決戦編
第169話 剛よく柔をぶちのめす
しおりを挟む「なにっ!? ダイナがやられたじゃと!?」
そう叫びながら息を切らせてたランダバルの爺さんがやってきた。
奴は倒れているダイナを見て、目を丸くして驚いている。
おかしいな……この爺さんはライナさんが八つ裂きにしているはずなのだが……。
「おい。ライナさんはどうした? まさか勝ったのか?」
「……あんな化け物、まともに相手するだけ損じゃ。残っていたゴーレムに押し付けてきた」
「あー……なるほど」
ランダバルの行動は対ライナさんの最適解だ。
一見すれば無敵に見えるライナさんだが、二つほど明確な弱点を持つ。
一つ目、狂戦士のため制御がほぼできないこと。これはもういつものことである。
二つ目、広範囲攻撃がないこと。ライナさんの攻撃は基本的に素手で殴る、蹴る、噛みちぎるなどだ。
地面を殴って衝撃波とか発生させたりもするが、一撃あたりの攻撃範囲はそこまで広くない。
なので数が多い上に再生されるゴーレムは、ライナさんをぶつけるのに最適なのだ。
……これは困ったなぁ。下手にライナさんの戦いにちょっかいを出すと、俺達が襲われる可能性もワンチャンある。
ゴーレムを全て粉砕し終えるまで、彼女は戦力外と考えるべきだろう。
「さて、今度こそワシの力を見せよう。相手が人間であるならば、ワシはそうそう負けんぞ」
俺に杖を向けるランダバル。
うーむ、これは俺が相手をするしかないな。センダイやセバスチャンでは分が悪いし。
手元にバズーカ砲を出現させて、砲口をランダバルへと向ける。
バズーカは魔法ではないので、この自信過剰爺さんには効果てきめんなはずだ。
「待って。ボクにやらせて」
俺がバズーカ砲の引き金に指をかけた瞬間、背後からカーマの声が聞こえた。
振り向くとカーマだけが俺の後ろに立っている。
「おい。ゴーレムはどうした?」
「……ライナさんが戦い始めたから、フォルン領軍は巻き添えを食らわないように戦闘停止したよ」
「極めて英断と言わざるを得ない」
カーマの判断に賞賛を送る。
ライナさんに流れ弾でも飛ぼうものなら、味方なのに襲われかねないからな……。
戦闘相手が当初の予定と変わってしまったが、まだリカバリーはきく範囲だろう。
「それでボク、あのお爺さんと戦いたいんだ。……ダメかな?」
カーマが俺の顔をうかがうように訪ねてくる。
ランダバルとの相性を考えるならば、カーマを戦わせるのは悪手と言わざるを得ない。
奴は魔法使いに対してはメタ的な強さを誇るし、特にカーマの魔法は以前に跳ね返されて利用された実績もある。
だが……カーマがこの爺さんに手玉に取られたのを悔しがって、修行とかしていたのも知っている。
彼女の気持ちとしては、何としてもランダバルにリベンジを果たしたいはずだ。
「…………勝てるか?」
「勝つよ」
カーマは自信満々に笑って返事をしてくる。
その笑みには敗北の不安は感じない。ランダバル相手でも負ける気がしていない、ということだ。
「なら任せる……だが苦戦するようなら、迷わず助けるからな」
「ありがとう」
バズーカの砲口を地面に降ろして、カーマの後ろへと下がる。
ここは任せよう。ただし彼女が苦戦したり不利になった場合は、横から不意打ちをかますが。
別にこれは決闘ではない。戦争である以上、横から失礼など当然の権利である。
カーマとランダバルが相対して、互いの視線がぶつかりあった。
「お爺さん、お久しぶりです。今度はボクが勝つよ」
「ほっほっほ。ワシはまだまだ若いぞ? 以前に軽くひねってやった女子か。返り討ちじゃ」
カーマが片手を空に掲げると、彼女の頭上に簡易な槍の形をした炎が発生した。
対してランダバルは杖をくるくると回しながら、油断なく炎の槍を見続けている。
「炎よ、貫く形となりて敵を射抜け!」
カーマが手を振り下ろすと、ランダバルに向けて炎の槍が襲い掛かった。
対してランダバルは襲い掛かる炎槍に、杖を向けて軽く振るった。
「反射じゃ」
奴の言葉に従うように炎槍はランダバルの目の前で制止する。
だがその瞬間、炎が乱れて槍の形を保てなくなっていく。
「炎よ、爆散せよ!」
カーマの叫びと共に、炎槍は水をかけられたかのように消失した。
ランダバルはそれを見て、いつものように笑みを浮かべると。
「ほっほっほ。なるほど、コントロールを完全に奪われる前に消滅させたか。じゃがそれでは、いつまでたっても……」
「いつまでたっても……何かな?」
ランダバルは言葉に答えない。口を大きく開けたまま、カーマを茫然と見ていた。
カーマの周囲には先ほどの槍が無数に存在し浮遊している。
もはや数えることすら馬鹿らしいような数の、空に浮かぶ炎の槍。その全ての槍先はランダバルをとらえている。
「ボクね、色々考えたんだ。お爺さんにどう戦うかを。魔法の制御を奪い返すとか、不意打ちできそうな魔法を考えるとかね。でもね……」
カーマは無数の炎槍を眺めながらボソリと呟いた。
「少しくらい制御盗られても、数と力でゴリ押せばいけるかなって」
これこそが修行の成果! ライナさん直伝の思考放棄のゴリ押しである!
完全に脳筋である。清々しいほどに脳筋である。
落雷のライニールさんにも言われてたなぁ……考えるな、ゴリ押せと。
「ほっほっほ……お主、ちょっと老いぼれに手加減とかは……」
「おじいちゃん、まだまだ若いって言ってなかったっけ?」
カーマがにっこりと笑いかけた。あ、なんかちょっと寒気が……。
「なるほどのう……こうさ」
「お爺さん! この無数の炎槍を防げるかな! 天より降り注げ、炎槍!」
降伏などさせるものかとばかりに、無数の炎の槍がランダバルへと襲い掛かる!
カーマの判断は正しい。あの爺さんは生かしておくとろくなことはない。
絶対に裏で画策とかしてくるし、隙をついて女王の元でも戻られたら厄介だ。
ここでKOしておくことが、女王に勝利する必要条件だ。
「おのれぇぇぇ! おおおおおおおお!」
ランダバルは必死になって杖を振るっている。文字通り必死の、心の底からの悲鳴をあげた。
そんな奴の魔法の力によって、襲い掛かる炎の槍の全てが奴の身体に当たる直前で制止した。
全体力を使い果たしたのか、地面にへたりこむランダバル。
「はぁはぁ……わ、ワシを舐めるな! 女子がっ……えっ?」
「舐めてないよ。だから……おかわりどうぞ、おじいちゃん」
カーマの言葉と共に、ランダバルの力で空中に制止していた炎槍は全て消失。
そして再び天に無数の炎槍が出現し、ランダバルに槍先を向けている。
それを奴は、ただ唖然と空を眺めていた。
「ボクの勝ちだよ、おじいちゃん!」
天から降り注ぐ無数の炎槍に、ランダバルの身体は飲み込まれていった……。
あれ? これ生きてる? 爺さん死んでない?
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