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ラスペラスとの決戦編
第170話 これアカンやつ
しおりを挟む「はぁすっきりした」
カーマが機嫌よさそうにニコニコ笑っている。
そんな彼女の前には大量のクレーター、そして哀れに倒れているランダバル。かろうじて彼の息はあった。
「よく生きてたな、あの爺さん……」
「そうだね。たぶん耐えるよねと思って全力で撃ったけど」
「火減しなかったのか……」
よく生きてたな爺さん……、無事で何より。
さてと……現状の敵戦力はほぼ壊滅した。
残りは僅かなゴーレム、そしてうわきつ女王のみだ。
だがここからが本番と言えるだろう。
チート魔力を持つうわきつ女王相手には、どれだけ戦力を用意しても勝てるかはわからない。
「カーマ、ところでさっき魔力使いまくってたような……」
「ま、まだ少しは残ってるから……」
カーマはそっぽを向いた……おい、魔力は節約しろと言ったのに……。
……仕方ないか。ランダバルは強敵だ、被害なしで倒せただけでも上々と言うべきだ。
「主様、ゴーレムは壊滅しました」
「ライナさんが奮闘した」
エフィルンとカーマも俺の元へと走って来た。
……ゴーレムはやはりライナさんが粉砕したらしい。
ランダバルがライナさんにゴーレムを押し付けてきたって言ってたもんなぁ。
「あれ? でもライナさんの倒し方だと、そのうちゴーレムは再生するんじゃないのか?」
「再生すらできないくらい握りつぶしてた」
「わーお」
倒し方が化け物じみてて怖い。考えないようにしよう、夢に出そうだし。
「おーほっほほ。まさか我が精鋭たちを倒すとはやるじゃないぃ」
戦場にうわきつ女王の声が響き渡る。
その声音からは動揺などは感じさせず、味方が全滅した状況下でも負けるとは思ってないようだ。
俺も拡声器を取り出して女王に語り掛ける。
「後はお前だけだ! 降伏しろ! そうすれば化粧品セットを進呈しよう!」
「あらやだぁ。魅力的なお誘いねぇ。私のことが好きなのは分かるけど、今は戦争中だぞ☆」
「くたばれ妖怪うわきつばばあ!」
ぐっ……鳥肌が立ったぞ!? いきなり精神攻撃とはなんて卑怯な女郎だ!
いや落ち着け。相手も虚栄心の塊だ、先ほどの俺の悪口も効果があるはず……。
「あらやだぁ。照れ隠しなんて可愛いわねぇ」
「カーマ離せ! 今すぐあいつをぶっ飛ばしに行かせてくれ!」
「ダメだよ!? 考えなしで突っ込んでもやられるだけだよ!?」
くそぉ! 口論では勝てる気がしねぇ!
「アトラス殿。どうされるでござるか?」
俺がカーマの拘束から逃れようと頑張っていると、センダイが俺に作戦を訪ねてくる。
どうやら酒の禁断症状からは抜け出したらしい。
いかんな、センダイですら真面目にやってるのだ。俺がこんな調子では!
「まずは相手の出方を見たい。カーマ、軽く牽制を頼む」
「うん」
カーマは俺の拘束をやめると、炎の槍を何本か空中に出現させる。
そして遠く離れた女王に対して撃ちだした。
「あらやだぁ。炎を槍の形にするなんて野蛮ねぇ。潤いお肌は私のために、さあマイナスイオンを保ちたまえぇ!」
うわきつ女王が杖を振るうと、突如として彼女を守るように巨大な水の壁が発生した。
炎の槍はそのまま水壁に突撃して一瞬で霧散する。
「ラーク!」
「氷理の矢、放たれよ」
同じようにラークが氷の矢を発射する。だが女王は余裕しゃくしゃくと喉をならすと。
「冷たいのもお肌に悪いのよぉ。熱の光よ、我がお肌を保ちたまぇ」
突如として、女王の周囲に凄まじい光が空から落ちてくる。
その光の照らす場所に到達した瞬間、氷矢は瞬時に蒸発した。
「ぐっ……牽制程度とはいえ、いともたやすく防いでくるな……エフィルン!」
「承知しました、主様」
エフィルンが竜巻を発生させて、うわきつ女王へと突撃させる。
「いやだわぁ。髪のセットが乱れちゃうぅ。私の髪型を守りたまえぇ」
うわきつ女王が軽く杖を振るうと、竜巻の進行上の場所に二十メートルはある大岩が出現。
竜巻は大岩にぶつかって、その力を失って消失した。
「おーっほっほほ。私の美しさを損なおうなんてムダなことよぉ! 小娘風情が粋がるんじゃないわぁ!」
大声量で響くうわきつ女王の自慢声。……これ想像以上に厄介だな。
うわきつ女王がチートレベルの魔力を持っていることは分かっていた。
だが新情報として、多種多様な魔法を操れること。そして呪文が意味不明なことも判明してしまった。
いやこれ、呪文が一番ヤバイ。魔法が発生するまで何して来るか見当がつかねぇ!
カーマとかラークとか、それなりに強い魔法なら呪文を唱えるのが普通だ。
そしてその呪文が氷の矢とか炎の槍とか、何となくどんな魔法が飛んでくるか予想できる。
だがあの女王の意味不明な自己満詠唱ではほとんど分からん!
「なに? 魔法の呪文ってあんなてきとうでいいの? なんかこう、もうちょっと形式とかないのか!?」
「あ、あるはずなんだけど……弱い魔法ならボクたちも呪文唱えない時あるし……」
「あいつド派手な水の壁とか出してたけど?」
「あれが女王にとっては弱い魔法だとしか……」
カーマたちは引きつった顔で俺に返事してくる。
や、やってられねぇ……大出力の魔法が飛んでくるのは予想の範疇だ。
でも飛んでくる魔法が全くわからないのは、計算外にもほどがある。
しかもだ。うわきつ女王に対しては、俺の力のアドバンテージが薄い。
ミサイルとかバズーカとか銃などの地球の道具を、転生者であるうわきつ女王は知識として持っている。
何だかんだでエフィルンへのネズミ花火など、分からないことで不意打ちをしてきた俺だ。
敵が俺の力を分かっているというのは、極めて不利に作用してしまう。
例えばバイクでうわきつ女王に近づこうとした場合、あいつは地面を穴だらけにするなどの発想がすぐに出てくる可能性が高い。
「チッ……これは思ったより数倍厄介だな」
思わず独り言をつぶやいてしまう。これはしっかりと作戦を練らないと、簡単に返り討ちになりそうだ……。
「もうおしまいぃ? なら次はこちらからいくわよぉ!」
女王が杖を天に掲げると、彼女を囲うように光の波が発生する。
そしてその波は彼女から離れて全方位に分散して、まるで水害のように周囲に襲い掛かってくる。
……全方位攻撃だと!?
「炎よ、我らを守りたまえ!」
「絶氷の壁、ここに降臨せよ」
「樹木の礎、定着し生い茂る」
カーマたちが各々、魔法を詠唱して俺達の前に壁を発生させた。
俺達に襲い掛かって来た波は、炎と木と氷の三重層の壁に激突。
「う、うそっ……防ぎきれない……!?」
「……っ」
「主様……このままでは……」
だが波に負けているのか、少しずつ壁がこちら側に押されてしまっている。
嘘だろ!? こちらは三人がかりだぞ!?
「ああああああぁぁぁぁぁ!」
徐々にこちらに押し込まれる壁を見てか、ライナさんが壁へと飛び込んだ。
そして彼女は壁を押し返し始めて、何とか壁の動きが止まる。
しばらくすると襲い掛かっていた光の波が消え去った。
それを見てへたれこむカーマたち……まじかよ。ここまで力に差があるとは……。
「……アトラス殿。今の波に飲み込まれて一般兵は全滅したでござる」
センダイの報告の通り、波に飲まれた兵士たちは全員が地面に倒れていた。
元居た場所から流された気配はないので、あの光に包まれると意識を失うのだろう。
ドラゴンたちは空に飛んだので難を逃れたようだが……。
「あらやだ。ごめんなさいねぇ、様子見程度のつもりだったのだけどぉ」
女王の勝ち誇る声が戦場に木霊した。
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