【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

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ラスペラスとの決戦編

第171話 ビル

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「おーっほっほ、おーほっほっ! 私の魔法の前では絶対に勝てないわぁ!」

 うわきつ女王のうざい言葉が周囲に響く。

 状況はかなり不利だ。あいつにカーマたちの魔法があっさり無効化された上、うちの大して強くない軍隊がいともたやすくやられてしまった。

 しかもあの女王の魔法は意味不明な呪文のため、発動するまでどんな攻撃か分からない。

 流石はチート魔力……想定していたよりも厄介。だが……常識の範疇の力だ。

 ちゃんとこちらの攻撃を魔法で防御してくれている。つまり防がないと困るということだ。

 もしオートバリアみたいなのがあったら厳しかった。

「さてさて、アトラス殿。あの女王に対して何か策は?」

 センダイが俺に視線を投げかけてくる。

「全員で俺が目立たないように陽動を頼む。隙をついて俺がトドメをさす」
「だ、大丈夫なの? あの女王には近づけないし、遠くから魔法を撃っても防がれるよ?」
「防御を打ち破る魔法がある?」

 カーマとラークが俺を心配してくれている。

 確かにうわきつ女王に近づくのは不可能と言ってよい。あの全方位への光の波攻撃は地上にいたら避けられない。

 そしてヘリで空に逃げたとしても、機敏に動けないから魔法のゴリ押しで落とされるだろう。

 かといって遠距離からミサイルなどを撃っても、魔法で防がれる可能性が高い。

 ではどうするか……簡単だ。防がせなければよい。

 全てを貫く矛と全てを防ぐ盾を持っていても、使えなければ無意味なのだ。

「いや近づかないし防御も打ち破らない。そのためにお前たちに派手に目立ってほしいんだ」
「わかりました、主様」

 エフィルンが俺に深々と頭を下げてくる。

「お任せくださいですぞ! このセバスチャン、命をかけても!」
「いやこれ以上寿命削るなお前!」

 ドンと胸を叩くセバスチャン。お前はむしろ大人しくしていて欲しい……。

「おおおおおおおぉぉぉ!」

 うわきつ女王に恐ろしい咆哮を繰り出すライナさんには特に声をかけない。

 あの人は存在してる時点で目立ってくれるからな! 存在感最強だぞ!

 みんなに作戦を説明して早速実行にうつすことにした。ちなみにその間、ずっとうわきつ女王は高笑いしてた。

 ……おっと、ひとつだけ言い忘れていた。

 分散していくみんなに対して、俺は引きつった笑みを浮かべると。

「ちなみに物凄くお金かかるから。しばらく節約な」
「「「えっ」」」

 カーマとラークとセンダイの物欲トリオが、足を止めてこちらを見てくる。

 しかたないだろ。こうでもしないと隙を作れないんだから。

 俺は【異世界ショップ】の力を発動する。

 女王を中心として半径百メートルほどの円周上に、大量の三階建てビルが突如として現れる。

 …………ふっ。このビルの購入費だけで、ドラゴン便とかチョコとかの儲けが全部パーだ!

「あらん? ビルなんて懐かしいわねぇ。でもこんなの用意しても何の意味もないわ……よ……?」

 女王の言葉が途中で止まった。やはり気づいたようだ、購入したビルはただのビルではない!

「な、う、うそでしょ……!? あ、あれは……化粧品会社のビル!?」

 困惑の声をあげる女王。そう、俺が購入したのは化粧品会社の建物だ。

 大っぴらに化粧品宣伝の看板が飾ってあるので、やはりうわきつ女王も気づいてくれたようだ。

 動揺している女王に向けて、俺は拡声器を取り出して奴に向けて叫ぶ。

「聞け! うわきつBBA! そのビルは化粧品会社のビル! つまり……中には化粧品もいっぱいあるはずだ! お前が派手に魔法を使ってビルを壊したら、それら全てが灰塵と化すぞ!」
「な、なんですってぇ!? あなたそんなの人間のやることじゃないわよぉ!?」

 発狂気味に叫ぶ女王。これぞ俺の対うわきつ最大の盾! 

 あれほどお肌がーとうるさいBBAだ! 異世界で今後手に入るか分からない化粧品を、壊すなど絶対に無理なはずだ!

 これであいつは広範囲の理不尽魔法を使えなくなった!

「安心しろ! お前が勝っても負けても、無事だった化粧品は全て進呈する!」
「なななななん、んですってぇ!?」

 俺の言葉に鼻息を荒くするうわきつ女王。

 あいつは別にこの戦いに必勝する意思はない。負けたくはないが、最悪敗北してもそれはそれで……な立場のはずだ。

 俺達が勝ったとしても、イレイザーに対する研究は共同で行うのだ。

 元々ラスペラス国が攻めてきた理由はイレイザーなので、奴らは負けたとしても当初の目的は果たせる。

 逆に俺達は絶対に負けられない。この代理戦争は戦争の決着をつけるものだが、ラスペラス国側が負けても無条件降伏にはならない。

 元々の国力が違う以上、この戦いに勝っただけでそれを要求するのは不可能。

 だがレスタンブルク国の側は違う。負けたら無条件降伏せざるを得ない。

 普通に戦ったら、レスタンブルク国が負けるに決まっているのだから。

 つまり……女王は己のクソみたいな我欲のために、不利を承知で化粧品を全て手に入れるはずだ!

「つまりビルに危害を加えず、貴方達を全員倒せばいいってわけねぇ! やってやるわぁ! 絶対やってやるわぁ! お肌に勝利をぉぉぉぉ!!!!」
「べ、別に負けてももらえるんだぞー?」
「勝ったほうが気分よく寝れて、更に化粧水でお肌完璧よぉ! ピチピチよぉ!」

 女王は高笑いしながら、地面を踏み鳴らす……思ったより戦意向上してしまった。

 化粧品を壊すくらいなら負けてもいいかしらぁ、ってのを期待したのに!

 ま、まあいい……ビルを壊されないという目的は達成している。

「神秘の種。神の息吹……現れるは伝承の樹」

 遠く離れたところからエフィルンの透き通る声が聞こえる。

 そして彼女の前に二十メートルはあるかという、簡易なのっぺら人形のような姿の木の巨人が誕生した。

「守りの炎、形を成して盾となれ」
「氷の板、ここに顕現せよ」

 カーマたちの呪文が戦場に響いた。それと同時に巨人の右手に炎の盾、左手に氷の盾がそれぞれ発生する。

 それぞれの盾の大きさは巨人の体積の半分程度、人基準ならば剣士が持つくらいのサイズだろうか。

 ……木の巨人が炎の盾持ってるのシュールだなぁ。どうやって燃えないようにしてるんだろ。

「あらやだぁ。武器を持ってないわよぉ? 盾なんかで何ができるのかしらぁ?」
「「あなたを潰せる」」

 やだ盾の使い方が物騒過ぎる……。

 カーマたちは俺のお願い通りに、ものすごく目立つ戦法を取ってくれている。

 今の間に俺も準備をするために、【異世界ショップ】から自転車を購入。

 急いで自転車にまたがると近くのビルに向かって必死に漕ぎ始めた。

 くっ! 地面がガタガタで走りづらい! またが痛い!

 ……何で自転車かって? いやバイクとか車だと音がね…………。
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