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ラスペラスとの決戦編
第173話 停戦協定
しおりを挟むうわきつ女王を倒し捕縛して戦争に勝利した後、ラスペラス軍が目覚めるのをしばらく待っていた。
その間に出費を計算しようとしたが、手が震えたのでやめておいた。
両軍ともに人的被害はゼロなので遺恨などは残らない。
何ならラスペラス軍側は人的どころか資源の被害もほぼない。
だって兵士はほぼ全員ゴーレムだから、食料やら運送費やら馬車やらも不要だったのだから。
フォルン領? ははは、領計は火の車が爆発炎上してますが何か?
うわきつ女王へのビル建設、ドラゴンへの戦闘費用、領兵の遠征費用……考えるのも恐ろしい。
そしてラスペラスのうわきつ女王などが目覚めたので、改めて停戦協定をこの場で行う流れになった。
戦争直後に行わなくてもと思っていたのだが……。
「化粧品よぉ! 化粧品ビルを一刻も早く手中にぃ! 停戦協定結ばないと、爆撃されるわぁ!」
うわきつ女王の超ゴリ押しによって、すぐに協定結ぶことになった。
別に誰もビルを爆破なんて考えないと思う……。
そんなわけでうわきつ女王が魔法で、一瞬で土の家を作り上げてその中で会談が行われることになった。
家の中は一部屋しかなくて、巨大なテーブルと椅子が置かれているだけだ。
そこにラスペラスの面子とフォルン領の面子が対面して座る。
「素晴らしい戦果ねぇ! もうこれ以上はないと言っても過言ではないわぁ!」
椅子に座りながら、両手で頬を押さえてクネクネと動く女王。
やめてくれ。めっちゃキツイからやめてくれ。
「なんと……女王様が負けるとは……魔法の力だけは最強だったのにのう……買収されるとは」
ランダバルが手で額を押さえてため息をついた。
この爺さんの言いたいことは分かる。このチート魔力の女王の敗因、それは買収されたからの一言にすぎる。
普通にやってたらたぶん勝てなかった。
「まあいいじゃないぃ? どうせレスタンブルク国なんて、化粧品以外に大した価値ないわよぉ! だからランダバル、あなたも最悪負けてもいいと言ってたじゃないぃ」
「ちょっ!? 女王様、それは黙っておいてくだされと!」
……やっぱりラスペラス側の認識はこの戦いに負けてもいいだったか。
いくらうわきつ女王がBBAできつくてバカでも、絶対に負けられない戦いなら化粧品ビルを諦めただろう。
侵略戦争なんて簡単なことを言うが、実際は統治したり色々と大変だからな。
丸々植民地にする気ならともかく、そうでないなら侵略した地の面倒なども見なければならない。
そこの土地に金銀など物凄いうま味がないのなら、割に合わない可能性も高い。
だからこそ、ラスペラス側はゴーレムを動員したのだろう。負けても損害はうわきつ女王たちの食費くらいになるから。
兵士を動員してたらその人数分の食費などいるからな。
「まあいい。勝ったのはレスタンブルク国だからな。土地の譲渡などはないし、イレイザーの研究費用などもラスペラスに払ってもらう」
俺の言葉にうわきつ女王とランダバルがうなずいた。
「それはもちろんよぉ。そもそもレスタンブルク国に期待してないわぁ、万年金欠国だし」
「そうじゃな。どうせ金なんぞあるわけないしの」
レスタンブルク国は貧しい金欠。これは俺達全員の同意見である。
「それな。うちの国、本当に金ないんだよ。俺が戦果あげた時もめちゃくちゃ報酬渋られたんだよ。今回の戦いの費用も、国からはたぶん半分も出してもらえない……」
「……お主、ラスペラス国に来ないかの? 飼い殺しにされてるぞ」
「……ブラック企業ねぇ。いつでもラスペラス国は歓迎するわよぉ! 化粧品をジャンジャン出すのよぉ」
何故か敵から同情されてしまう俺であった。
ない袖は振れないからな。今回の戦いでかかった費用だって、どうせ国は出してくれないんだぜ。
俺は知ってるんだ、うまくいって折半程度なんだって。
なのでここでお疲れ様でしたー、で済ませる気はない。俺の財布が空になる。
「じゃあ次の議題だ」
「あらん? 停戦交渉以外に話すことあるかしらん?」
「あったっけ?」
うわきつ女王とカーマが首をかしげる。
彼女らはまだ気づいてないようだ。
この荒れ地はレスタンブルク国とラスペラス国の国境地帯。つまり互いになるべく不干渉すべき地域だ。
そこに大量の化粧品ビルがあるということは……。
「ビル……建物の中の化粧品はうわきつ女王に渡した。だがここの国境付近の土地や建物は、お前たちのものではない! つまり化粧品を運ぶにしろ置いておくにしろ、無断で許すと思うなよ! 賄賂を払ってもらおうか!」
「「せ、せこい……」」
俺の左右に座るカーマとラークがなんか見てくるが無視。
こちとらこの戦いで物凄い費用かかってるんだよ! 魔法使いはよいですなぁ、戦うのにお金がかからなくてよぉ!
「そ、それは話が違うじゃないぃ!?」
「何も違わない。俺が言ったのは『無事だった化粧品は全て進呈する』だ。ビルや土地は俺達のものだ!」
「女王様……だから言葉には注意しなされと……」
本日何回目かわからないため息をつくランダバル。
ふっふっふ……このビルは【異世界ショップ】に売り飛ばして、戦費の足しにするのだ!
そうしないとガチで破産しかねない! こっちも必死なんだよ!
売ると建てた時の費用よりも価値が下げられるだろうが仕方ない。フォルン領ならともかくこんな国境付近にビルがあっても、大して役には立たない。
「待ちなさいぃ! ここは私の美貌に免じて許しなさいぃ!」
「むしろその自称美貌を維持したいなら、金を払ってもらおうか!」
「はぁ!? ならもう一度戦ってもいいのよぉ!」
「それならこちらも考えがあるぞ! またクズを派兵してお前らの経済にダメージ与えてやる!」
「な、なんですってぇ! この卑怯者!」
俺とうわきつ女王の見苦しい、いや聞き苦しい会話。いやほんと実にくだらない。
だがこのくだらない会話に、フォルン領の今後が割とかかってるのが更に悲しい。
「私のお肌がピチピチになれば、全世界の人間が幸福になるのよぉ!」
「どんな発想の飛躍だ!? 途中の方程式を説明しろ!」
「はぁ!? 1+1が2になるくらい当然の式でしょぉ!」
うわきつ女王の謎言葉に襲われる俺。つらい。
戦いで疲れた身体と精神に、女王の毒素が染みわたる……。
「それではこれくらいではいかがですかのう?」
「いやそれでは安いですぞ。最低でもこれくらいは……」
そしてその横でランダバルとセバスチャンが、化粧品関係の交渉を行っている。
おい、お前ら。俺をうわきつ女王への盾にしてるだろ。
結局、俺は女王の呪詛を小一時間聞き続けた。
その間にセバスチャンが化粧品関係の交渉をまとめてくれていた。
またこの戦いの結果として女王を倒した恐るべき者だと、俺達の名前がラスペラス国民たちに知れ渡った。
どうやらラスペラス側で遠くから見ていた吟遊詩人がいたらしく、そいつが色々と広めたらしい。
戦争が終結した後しばらくして、メルが嬉々として報告に来た。
……こいつ、暗部の隊長のくせに戦力にならなかったんだよな。
実はフォルン領兵士の中に混ざっていたのだが、女王の光の波であっさり気絶しやがった。
こういうどうでもいいことに関しては、ムダな情報収集力を出す……。
「カーマ様とラーク様は紅氷の双姫、センダイ様は鉄斬りの豪剣者、エフィルン様は双丘の巨樹操者です」
「ほほう。なるほど……エフィルンの異名が気になるが」
「吟遊詩人の好みだったらしく、唄でも胸の大きさが強調されてるです」
おい吟遊詩人。それでいいのかエ吟遊詩人。
「それで狂凶怪女のライナ様、破壊大帝セバスチャン様です」
……後半二人の名前が酷すぎる。いや全く間違ってないのだが。
「そうか。それで俺はどんなのだ? 女王を倒した張本人だし、さぞ恰好いい名前が……」
「ないです」
「え?」
思わず聞き返すが、メルはニタニタと笑いながら。
「ないです。不意打ちのセコイ戦法なので、唄にしても盛り下がるので存在自体消されてますね。アトラス様のアの字も唄に出てきてません。ざまぁみるです!」
こ、こんなことが許されてなるのか!? 一番活躍したの俺じゃね!?
チート女王を深慮遠謀で倒したのは俺だぞ!?
「待て! じゃあ女王を倒したのはどう歌われてるんだよ!? 辻褄があわんだろ!」
「全員の同時攻撃で、ギリギリ女王の魔法を撃ち破った話になってるです。全員合わせてようやく打ち破れるということで、女王の評価も落とさず最良と言わざるを得ないです」
畜生! 確かに現実そのまま唄にしたら、化粧セットで買収された女王の評価まで下がるよな!
仕方ない、これはプロパガンダだ。決して俺が悪いのではなくて、プロパガンダだから仕方ない。
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