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ラスペラスとの決戦編
第174話 事後処理と宝くじ
しおりを挟むラスペラス国との停戦協定終了後、フォルン領の屋敷に戻って来た。
そんな俺達に待っていたのは……地獄のような金欠だった。
「あなた! ドラゴンさんたちが早く戦闘出張代とかもろもろ払えって!」
「金がないから後にしろと言っておけ!」
「それなら利子トイチって言ってるけど!?」
「ふざけんな! ちょっと燃やしてこい!」
執務室はさながら戦場のようだ。次から次へと金が足りない報告をしに、いろんな者がやって来る。
俺はその陳情などを、作業机に備えられた椅子に座って散々聞きまくっている。
借りた金を返す時は全然来ないくせに! 今もカーマがドラゴンの陳情を報告に来て、帰っていった。
そして入れ替わるようにラークが部屋に入ってくる。
「アトラス。王家から支援の余裕ないって」
「はぁ!? 一銭も出さないだと!? 裏切るぞこの野郎って返事しろ! それと早く王家の代表者連れて来てくれ!」
「ん」
王家め……今回の戦争出費の半額どころか全額出さないつもりかよ!
お前ら本当どこに金消えてるの?
ラークがとてとてと歩いて部屋から出ていくと、今度はセンダイが駆け込んできた。
「アトラス殿! 戦勝祝いの酒が足りぬでござる!」
「十分な量を用意したはずだろ! 千二百人に対して酒四百樽だぞ!? お前ら少しは我慢しろ! 欲しがりません、勝った後も!」
「そんなこと言ったら暴動が起きるでござるよ! 拙者らは命をかけて戦ったのでござる!」
「あの戦い、言うほど命かかってたか!?」
そもそもうちの軍、女王の魔法で全滅したじゃん。
普通の戦争ならとっくに死んでるはずなわけで、命かかってないだろ。
「アトラス殿! ここでケチれば兵士の忠誠心がうんぬんかんぬん!」
「ああもう! 二百樽追加してやるから!」
結局センダイの言う通りに酒を増量することになってしまった!
また出費が増える! 戦争って嫌だなぁ!
上機嫌になったセンダイが去っていく。くそぅ……俺も金のかからないゴーレム兵とか作りたい……。
「アトラス様! 金が足りませぬ! このままでは他領から食料を購入できず、深刻な食糧危機に!」
セバスチャンが部屋に飛び込んできた。
先ほどのドラゴンや兵士と違って、今度はガチでヤバイ案件だ。
フォルン領は芋を大量に育ててこそいるが、他領や国に売っているのでそこまで備蓄がない。
それと芋以外の食用作物ほぼ育ててない……。
今までは他領の食料を金で買っていたりしたが、この絶賛金欠状態では……。
「芋だ! 芋をエフィルンの魔法で死ぬほど生産しろ! 今日から一ヵ月、領民は毎日がふかし芋!」
「アトラス様! それは暴動が起きますぞ! うちの領民は貧乏時代に比べて舌が肥えてしまったので、もはや毎日芋では満足できない身体に!」
「ええい! 下賤な美食家どもめ! わかった、芋料理をいくつか考える!」
フォルン領民め! 少し前まで飢え死寸前の状態だったくせに!
いやまあ今のフォルン領って一万人以上いる上、貧乏時代の領民なんて百人くらいだったけど……。
全領民の一パーセントしか初期フォルン領民がいない計算に……食えるだけで十分な考えの人間、ほとんどいないと考えたほうがいいな……。
とりあえず【異世界ショップ】で芋料理を調べよう。マヨネーズとか簡単に作れると聞いたし、何とかそれで……。
焼きポテト、マッシュポテト、フライドポテト、ふかし芋のローテーションでなんとか……。
「アトラス様、この金欠を解消する策はないのですぞ? その場しのぎでごまかすのはよいですが、根本的に解決をしませんと」
「わかってる。それについては王家に働きかけているから」
「あのケチな王家が金を払ってくれるとは思えませんぞ」
「安心しろセバスチャン。砂漠で雨を願うことはしない」
俺とセバスチャンは互いに目がすわっている。
天から財宝が降ってくるなんてあり得ない。それと同じく王家から金が下りるなんてあり得ない。
ならば自分で稼ぐしかあるまいて。
「いやー……王家の扱いも散々ですね……。事実なので否定しきれませんが」
愛想笑いを浮かべながら、ワーカー農官侯が執務室に入って来た。うっわ、また呪いかけられてないだろうな……。
隣にはラークがついている。彼を転移で連れてきたのだろう。
しかし王家の人を呼ぶと、確実に農官侯がやって来るな。
今回の件、経済関係だから農官まったく関係ないのに……この人も王家の被害者かもしれない。
……それとこの人、いちおうは王家の賓客のはずなんだけど。何で普通に執務室に入って来てるんだろうか……?
普通は客間で話し合いとかのはずなんだけど……まあ本人文句言ってないからいいか。
流石に俺だけ座ってるのはどうかと思うので椅子から立ち上がる。
「それで大事なお話があるとのことですが」
「はい。フォルン領が金欠で極めて困窮しています。つきましては金儲けをしたいのですが、それに王家も協力をしていただきたく」
「資金援助ではなくて、儲ける手段への協力ですか。それならば内容次第で可能でしょう」
ワーカー農官侯は俺に対して同情の視線を投げかけてくる。
同情するよりも支援欲しいんだけどなぁ!
「宝くじというものを発行したいのです。詳細はこの紙に記載しています」
ワーカー農官侯に紙を渡すと、彼は食い入るようにそれを見た後。
「これは……なんというか、考えた人間の品位を疑いますね……。どうやっても大本が儲かる商売ではないですか。売上金額の半分ほどを、くじを買った人間に振り分ける……残りの半分は全て大本。これが購入者にバレたら、不満を言われませんか?」
ワーカー農官侯は宝くじに懸念を示している。
確かにこの宝くじ、はっきり言って売る側が極めて得をする制度だ。
売上の半分が大本の手に入るなど、美味しすぎる商売である。
だがその半分の暴利を盗っても許される魔法の言葉がある。
「いいですかワーカー農官侯。売上金額の半分は夢です」
「夢……ですか?」
「はい。愚かな夢を見るための費用です。大金が当たるかもしれないワクワク感を提供するのです」
「な、なるほど……?」
まあ大抵当たらないんだけどな。
ワーカー農官侯は怪訝な顔をしながら不承不承と言った感じだ。
実際のところ、売上金額の半分で売ってるのは夢だけではない。
他には信用も入っている。流石に国が売り出してるのに、金を交換してくれないことはないだろう。
そういった信用も込みだ。それでもバカみたいに利益高いけど。
信用についてワーカー農官侯に話さないのは、王家の威信を使うなら利益も折半でと言われかねないからである。
後は宝くじの一等賞の金額はかなり高くするとか、せこい工夫をしてもらうことにした。
数か月後、無事に利益が入ったのだが……。
「では宝くじの利益は折半ということで」
「……は? 仕組みを考えたの全部俺なんですけど」
「王家の信用を使ったなら、我々ももらう権利があるでしょう」
畜生! バレてた!
やっぱりワーカー農官侯が笑うとろくなことがない!
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