182 / 220
ラスペラスとの決戦編
閑話 金貨が足りない!
しおりを挟む俺は何故か王に呼び出されて、王城の玉座の間で謁見していた。
「アトラス伯爵。実はお主に相談があってな」
「何でしょうか?」
何で王に呼ばれたのかまったく心当たりがない。
フォルン領への支援? そんなものを王家がしてくれるわけがない。
まあ何も悪いことはしてないからどうでもよいが。どうせまた無茶ぶりだろ。
やれ不作だとか、ドラゴン便をもっと増やせとかもう本当ワガママで困る。
少しは常に国益をもたらしている俺を見習ってほしい。
清廉潔白な俺は責められる汚点など一切ない。
「実はな……レスタンブルク国から貨幣が減っている可能性があってな」
「は、ははは! 気のせいじゃありませんかね! もしくは何者かが貨幣を強奪しているのでは!?」
…………そう、俺は見逃していたのだ。
【異世界ショップ】で物を購入するほど、貨幣がこの国から消えてしまうことを……。
~~~~~~~~
「そういうわけで! 貨幣を増やす方法を探ることにする! よい案はないか!」
俺は急いでフォルン領主要メンバーを執務室に集めて、緊急会議を行うことにした。
国で流通する貨幣が減る。それは一見、特に困ったことではないと思える。
異世界ショップにいくら金を払ったところで、向こうから何か購入されるわけではない。
もしこれが日本などの紙幣なら、減った分だけ追加で金を刷ればよいだけだ。
だがレスタンブルク国の通貨……金貨や銀貨や銅貨が国から少なくなるのはマズイ。
ようは国から金や銀や銅という資源が減っているわけで……。
「はい! 他国から金銀財宝を集める!」
カーマが元気よく手をあげた。
確かに他国から資源を回収できればレスタンブルク国は問題ないだろう。
「なるほど。じゃあ集める方法は?」
「…………脅して財宝をもらう?」
「完全に賊だろうが! 却下だ却下!」
「やっぱり駄目だよね……でも他に思いつかないし……」
落ち込むカーマ。いや発想が物騒すぎるんだよ。
普通に輸出を増やして、更に他国からの貿易を黒字にするでいいだろうに。
まあそれはそれで、じゃあどうやってこれ以上に黒字にするかって話になるわけだが。
「山賊や盗賊を倒して財宝を奪う」
「ラーク……何でお前たち姉妹の発想はそんなに物騒なんだ……」
「考えるの面倒。魔法で倒したほうが早い」
「思考放棄からの魔法ぶっぱやめろ」
ラークの意見も論外だ。盗賊や山賊なんぞ、仮にこの国の全員を狩りつくしたところで大した金持ってないだろ。
少なくとも減った貨幣を補うほどは絶対にない。
「ならばやはり酒でござろう! 名酒を造って他国に売るのでござる!」
センダイが酒瓶を口付けて、顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
こいつの言ってることは一見するともっともだ。名酒を造ればもうかるし、他国にも売ることは可能だろう。
フォルン領ではまだ酒を造ってないので、新たな貿易品としてもふさわしい。
だが……致命的な問題がある。
「なるほど。それで少し聞くんだが。仮に酒を千樽造ったとして、フォルン領から生き延びて外で売られる樽はいくらになると思う?」
「はっはっは。千樽程度、拙者らにかかれば虚無に等しい」
笑い飛ばすセンダイ。フォルン領で酒を造っても! どうせ売れないのである!
酒とか貿易品として完璧なのに……うちでは絶対に取り扱えない……。
酒蔵してもフォルン領内の経済と領民の目を回すだけである。
これですでに三人の意見が却下された。だがこいつらは数合わせの捨て駒だ。
ここからの面子が……エフィルンやセサル、セバスチャンが本番であると言えよう!
「アトラス様! ここは金や銀の鉱山を探すのはいかがですぞ?」
セバスチャンが声をはりあげた。
なるほど、国に金銀が足りないなら新しい鉱山を見つければいいじゃない。
……そもそも鉱山を見つけるのが物凄く難しいのだがな。
パンがなければケーキを食べればみたいなノリな気はするが、言ってること自体は間違ってない。
「何かアテはあるのか?」
「はい。実は元バフォール領の東隣の場所に、鉱脈があるのではと噂が」
「なるほど……待て。元バフォール領の東って……ベフォメット国では?」
バフォール領はレスタンブルクで最も東の領地。それより東なら外国じゃないか。
だがセバスチャンはにっこりと笑みを浮かべると。
「アトラス様……やってしまえばこちらのものですぞ!」
「いや絶対ダメだろ! 戦争不可避だろうが!」
「無論、以前に攻めてこられたのを理由に交渉で譲り受ける予定ですが……それならそれでございます。ベフォメット国はライニール殿が最強の魔法使い。我が国が確実に勝てるので賠償金も手に入りますぞ!」
「……いやダメだろ! なんかこう倫理的に!」
セバスチャンは「そうですか」と引き下がった。
……ここらへんの考え方の差は、たぶん中世くらいの人間と現代人の違いなんだろうなぁ。
昔はもっと戦争とかやってただろうし……確実に勝てて得するなら、攻める判断を下す国が多かったのだろう。
「エフィルンにセサル。何か意見はないか?」
「ミーとしては、フォルン領の工芸品を作って他国に売るのがいいと思うサッ! 例えばミーの裸夫自画像!」
腕で自分の身体を抱くポーズをとるセサル。
後半のノイズを無視すればまともな意見出してくるのが腹立つ。
「後半は論外だが、やはり他国から貨幣を回収するのが無難か。何かフォルン領の武器となる物はないか?」
「やはりここは現状で他国に売り出してないもので、フォルン領で最も利益をあげている商品にしましょうぞ!」
セバスチャンが自信満々に告げてくる。
フォルン領でのみ作ってて一番売れている商品……確かに外貨を稼ぐにふさわしい。
そういえばうちの一番の売れ筋商品しらないな。
「ならそれでいこう! すぐに更なる増産設備を整えろ! ところで一番売れているのは何だ?」
「ははっ! アトラス様伝記一巻でございます!」
「…………嘘だろ?」
「何を仰いますか! フォルン領で最大の利益を出しております! 本は利益率が高いのですぞ!」
「…………まじかよ」
何とか声を絞り出す。
誰が好き好んでフォルン領最大の恥部を、他国に露出せねばならんのだ!
そもそも他国で俺の自伝なんて売れないだろ! いやレスタンブルク国内でも何で売れてるか理解できないけど……。
とりあえず止めよう! アトラス=サンが他国にまで流出するなんて冗談じゃない!
「やめろ! あれはあくまでレスタンブルク国の人物だからこの国で売れたんだ! 他国で売っても、誰も知らないから買わないだろ!」
実際そうだろ! ほら地元の人間が活躍したら応援したくなるだろ!
その補正で買われたに過ぎないわけで!
「大丈夫だよ。ベフォメットでもあなたの知名度、結構高いよ」
「えっ」
カーマの言葉に思わず絶句する。いや何で俺が知られてるんだよ。
「だって彼らからすればあなたは、エフィルンさんを倒してベフォメットを敗北させた敵だし……」
「あー……じゃあ余計にダメじゃん。嫌ってる人物の自伝なんて誰も買わないじゃん。特にエフィルン倒すところなんて憤死ものでは?」
「ご安心ください。そこはベフォメット国用に歴史を捻じ曲げますぞ! エフィルン様とアトラス様が戦う内に愛し合って、無事に休戦したことにしますぞ!」
「とうとう仮にも自伝なのに、歴史捻じ曲げると言いやがった!?」
最終的にマジでエフィルン関係を改変して、ベフォメット国にも俺に自伝が売られることになった……。
しかもものすごく売れた。ベストセラーになるくらい売れた。
売れた理由? ベフォメット国は戦争に負けたと言っても、別に国に大した被害はなかった。
なので特に俺への恨みがなかったらしい。
むしろ戦勝国なのに大して賠償を求めなかった聖人として、謎に俺の評価上がってて興味示されたらしい。
それでリズによって書かれたアトラス=サンの謎魅力がうけて、ベフォメット国でも話題が沸騰したと……。
ちなみにベフォメット版だと俺はカーマたちとは離婚して、エフィルンと結婚したらしい……。
もはや歴史の歪曲というか二次創作レベルになってない……?
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる