184 / 220
国内騒動編
第175話 レザイ領反乱分子
しおりを挟む俺は屋敷の食堂で紅茶とケーキを食べて、食後の余韻に浸っていた。
とりあえずラスペラス国との戦いによって、ズタボロになったフォルン領の財政は建て直した。
いやむしろ建て直したというよりも、以前よりよくなったと言えるだろう。
ラスペラス国と正式に貿易が始まり、フォルン領の特産品が売れる売れる。
チョコレートとか作れば作るだけ買ってくれる。ドラゴン便のおかげで配送もすごく楽。
今のフォルン領の困りごとはイレイザーと東の鬼魔境レード山林地帯だけだ!
……いや正確に言うと、酒関係の貿易赤字がヤバイことも悩みの種だが……。
この幸せがずっと続く、俺はそう思いながらケーキを食べ……。
「アトラス様! レザイ領主がやって来ました」
「…………唐突に地獄の審判みたいな報告やめろ。俺にも心の準備が必要なんだよ」
「失礼しました。次からは来てから三日後に報告しますぞ」
「それはそれで困る……」
セバスチャンが食堂に入ってきて、聞きたくもない報告をしてくる。
何でレザイ領主が……もうあそことは関わり合いになりたくない。
そもそも面会のアポなどもないのだから無視安定だろ。
「何の用事か聞かずに追い返せ。あんな貧乏クズ神がいたら、フォルン領の好景気が墜落するぞ!」
「それがすでに用事は言われてますぞ。以前に取引した石の値段について、少し値段が悪かったので謝罪したいと」
以前に取引した石……イレイザーが封印された石のことか。
すでにドラゴンたちに運ばせて、今はフォルン領の研究施設《セサルハウス》に置いてあるはずだ。
あの石は大した価値もないのに、足元見られて金貨九千枚というばかげた値段で買わされた。
それがあるのでレザイ領とは交易断絶をしていた。
だが謝罪ということはだ。金貨を返すからどうか許して交易をさせて欲しい、ということだろう。
今のレスタンブルク国で、フォルン領と交易しないということ。
それはすなわち負け組確定だからな。
「…………仕方ない。一度は会ってやるか。奴を応接間に案内しろ、茶菓子などはもったいないから出さなくていい。椅子も廃棄予定の壊れたやつ用意しろ。高級品はすり減ってもったいない」
「承知いたしましたぞ。迎撃用に斧も用意しておきますぞ」
はてさて金貨を何枚返してくることやら。
全額返して頭を下げるというならば、交易を考えてやらんでもないが。
そんなことを考えながら、応接間へ入るとレザイ領主とセバスチャンが言い争っていた。
「なんで菓子が出ないのですか! これが領主に対する扱いか!? 少しは誠意を見せろ!」
「何を仰いますかな? なら斧でよろしければ馳走いたしますぞ」
…………やっぱり会わなかったらよかったかも。
この領主、欠片も信用ならん……。このまま応接間から出て、腹痛で面会謝絶にするか迷った瞬間。
「アトラス伯爵! お待ちしておりました。早くお話をしましょう」
レザイ領主に見つかってしまった。
仕方がないので彼と対面になるように椅子に座り、話し合うことにした。
「それで以前に購入した石について、値段を謝罪したいとのことだが」
「ええはい。実は以前の値段は価値に対して、間違っておりました」
確かにそうだろう。あんな石、持っていても価値なんて欠片もない。
世界を滅ぼすイレイザーを封印してるとなれば、一見すればすごい価値があるように思えるだろう。
だが実際はイレイザーを制御する術がないので、封印を解除するという選択肢を取れる奴はいない。
国ひとつ滅ぼすとかならともかく、世界全て滅ぼされるのだから使った奴も死ぬし。
レザイ領に置いていて、万が一壊されても困るので回収してやっただけだ。
「そうか。それで金貨いくらだ?」
さて何枚返すつもりなのか。ここで少額ならば突っぱねて、今後の交易話もなしだ。
そもそもレザイ領に信用など一切ないし。
「はい。金貨一万枚ですな」
……ん? あの石を購入するのに使った金貨は九千枚のはずだ。
迷惑料として千枚を俺達に譲渡するつもりなのか。殊勝な考えだな。
「ほう。金貨千枚は迷惑料と」
だがレザイ領主は俺の言葉に首をかしげた後。
「何を仰っているのでしょうか? あの石の値段が低すぎましたので、至急追加料金で金貨一万枚を払ってもらいます」
????????????
「セバスチャン、この不届き者を身ぐるみはがしてつまみ出せ! 二度とこの領地を踏ませるな!」
俺は脊髄反射でセバスチャンに指示を出す。
意味不明にもほどがある。金貨九千枚という暴利をむしったあげくに更に追加で一万枚?
しょせんはクズだ。頑固な汚れは落ちないのと同じで、汚れたクズはもうどうしようもないのだ。
なおセバスチャンからは、踏み入れさせないために足をはねさせてくださいとジェスチャーが来ている。
そんなトンチみたいな……少し悩みどころではあるがやめておけと返しておいた。
もはや話にもならないので、椅子から立ち上がって応接間から出ようとすると。
「待て! フォルン領は我らが石を盗むと宣言するのか! 払えないならば石は返すのが道理だ!」
無能生命体と話す趣味はないので、無視して部屋から出ていく。
……レザイ領主を少しでもよく考えた俺が愚かだった。
今後はあそこの領地と一切の交渉を禁じることにしよう。クズがうつる。
そうしてレザイ領主を追い返した次の日。
執務室でレザイ領に対する制裁などを考えていると、セバスチャンが部屋に飛び込んできた。
「アトラス様! レザイ領がフォルン領に宣戦布告を! すでにフォルン領の他領への貿易品の一部が、レザイ領の兵士に押収されております!」
「…………は??????」
セバスチャンの報告が理解できない。
何で宣戦布告なんてされてるんだ。しかもすでに押収されてるって事後報告じゃん。
そもそもレザイ領とは貿易してないわけで、他領に送った品を強奪したということで。
「えーっと……すまん。色々と理解できないことしかないんだが……とりあえずレザイ領ってクズの温床ってことしかわからないんだが、あいつらまともな戦力あるのか?」
「誰も関わり合いになりたくない領地ですので、正確な戦力はわかりませぬぞ。でも魔法使いはほぼいないでしょうし、間違いなく弱いですぞ。民がすべからくクズであることが、防波堤になっていただけですぞ」
だよなぁ。勝ち目もなければ大義名分もない。
そんな状態で仕掛けてくるとは流石に思わなかった……。
だがこの決断、実はかなり厄介なのかもしれない。何故なら……。
「仮にレザイ領を打ち負かしたとして、あの土地って誰も治めたがらないのでは……?」
「民も全てがクズな領地……全員嫌がるでしょうな。王家も間違いなく拒否するでしょう」
「王家の旗を借りて攻めれば、王家が裁きを与えたってことで押し付けを……」
「なりませんぞ」
…………反撃するうま味がなさすぎる。領地を占領しても何の儲けにもならない。
でも放置してたらフォルン領の貿易品などを奪ってくる。
こんなの罰ゲームじゃん…………。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる