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イレイザー最終決戦編
第189話 みんな正気か?
しおりを挟むスズキさんからイレイザーの詳細を聞いた後、執務室にみんなを呼んで緊急会議を開いた。
メンバーはセンダイ、カーマにラークとセサルだ。
セバスチャンは探しても見つからなくて諦めた。
どうせそのうち執務室に飛び込んでくるだろ、たぶん。
後はメルが何か部屋に紛れ込んでたから、お菓子を渡して出て行かせた。
俺はスズキさんから聞いた情報を全員に伝える。
「そういうわけで。イレイザーの能力はこんな感じだ」
「封印された岩を調べてみても、おそらく本当だと思うサッ」
「魔法が全く効かない上に、人の思念で動くなんて……」
「人の多いところまで移動して復活するのも厄介でござるな」
「学習能力が脅威」
俺の言葉をみんな神妙な顔つきで聞いていた。
イレイザーがマジでチートじみた能力なのズルい。
ラスペラスのうわきつBBAもたいがいだったが、あのおばはんは貧弱人間の身体と性格という壊滅的弱点があったからな。
基本的に人間の身体は異常に弱い……正確に言うと防御力が皆無なのだ。
化け物みたいに強い人間でも油断している時に、鉄の剣で首をかききられれば死ぬ。
もしくは食事に毒を混ぜられても死ぬ。
伝説の英雄のおとぎ話でも、毒殺とかよくある話だろう。
ドラゴンの身体なら鉄の剣で殺すのは難しいし、毒でも簡単に死ぬイメージがない。
もしあのうわきつがドラゴンの身体だったら、麻酔銃が鱗で弾かれて効果がなかった。
「魔法の効果がないならボクたちはあまり戦力にならないかな……」
「残念」
カーマとラークが苦笑いをしている。
確かに彼女らは魔法専門なので、魔法無効障壁のあるイレイザーに攻撃できない。
……とは言え全く役に立たないとは思っていない。
例えばイレイザーの進行方向の地面に大穴を作るとか、直接魔法を当てない方法で戦ってもらえばよい。
「戦力の要はアトラス殿の兵器というわけでござるか。戦車部隊などでイレイザーに対抗すると」
「そうなりそうだな。俺の出すものは魔法じゃないし」
【異世界ショップ】から出す物は魔法ではないのは確認済みだ。
念のためにセサルが発生させた対魔法障壁に、火をつけたマッチとか当ててみたが消えなかった。
「有効打があるのは何よりでござる。なら後は……どこで戦うかでござるなぁ」
「「「…………」」」
センダイが呟いた言葉に対して、全員が黙り込んでしまった。
イレイザーの最大の問題は人間の多いところで蘇ることだ。
大量の人間が集まっているところで復活するので、どう頑張っても人的被害を防ぐのは難しい。
しかもイレイザーの周囲に人間が多くいれば、奴は永続的に動き続けられる。
奴を倒すには人間を遠ざけなければならない。
一定数の戦闘要員はともかくとして、何千人もいる民間人をイレイザー出現後に避難させる必要がある。
はっきり言って物凄く困難だ。現代の地球の車などの科学技術こみでも簡単ではない。
ましてやこの世界は中世くらいの文明だ。大勢運べる移動手段は馬車。
馬車って時速十キロメートル程度らしいので、避難に一日以上かかる計算になってしまう。
つまりイレイザーを一日以上足止めする必要がある、無理。
そもそも馬車って頑張っても十人程度しか載せられないし……現実的ではない。
「ラークの転移って何人くらい可能だっけ?」
「十人くらい」
「ぼ、ボクは半人くらいなら……」
「カーマ知ってるか。人数の数え方に半人なんてない」
カーマの転移は送りたい対象の、身体の半分だけ転移させる魔法だからな。
もちろん身体が半分ずつになるので送られた人間は死ぬだろう。
転移魔法というよりも殺人魔法である。正直、攻撃として使ったらかなり強そうと思っているのは内緒だ。
「どこで戦うにしても、人を逃がす手段を考えないとな」
俺の言葉に全員がうなず……かなかった。
皆、難しい顔をして悩んでいる。はて、どうかしたのだろうか。
「どうした? すでによい方法を思いついたか?」
「……あ、えっと」
「……」
カーマとラークが気まずそうに俺をチラチラ見てくる。
セサルは目をつむって腕を組んだまま動かない。
いったい何だと言うのだろうか。そんなことを思っているとセンダイがため息をついた。
「仕方ない、拙者が言うでござる。アトラス殿、人を逃がすのは現実的ではござらん」
「まあそうだな、すぐに思いつくことじゃない。時間をかけて考えて……」
「そんな手段、拙者はあるとは思えぬ。なら他の手段を考えるべき」
「他の手段?」
他の手段とはいったい何なのだろうか。
イレイザーの周囲の人間を、移動させずにいなくならせる……。
「簡単でござる。周囲の人間を全て消し飛ばせばよい。ラスペラス国の女王や、カーマ嬢たちの力を使えば可能でござろう」
「発想が怖いわ! 冗談は置いといて……」
そこで俺は違和感に気づいた。
誰も笑ってない、むしろ物凄く真剣な顔をしていた。
「え……本当にそんなこと考えてるのか!? 正気か!?」
「……やりたくはないけど、危険を犯さないで確実に倒せそうな手段だからね」
「……国を確実に守るためなら考えはする。それに……他国でイレイザーを復活させればうちに被害は出ない」
カーマもラークも俺に目を合わせてくれない。
俺はそんな犠牲を強いるような発想、全く頭に浮かべていなかった。
「やりたくはないが手段のひとつでござろう」
「いや待て! いくらなんでも考えが早過ぎるだろ! もっと色々と考えるべきだ! ラスペラス国やベフォメット国とも相談すればきっとよい案が出る!」
俺の言葉に対してセンダイは首を横に振った。
「出るかも知れぬが……千を超える大勢の人間を運ぶ手段などそうそう出るとは思えぬ。それにもしあっても物凄く負担がかかり困難を上げ、イレイザーを倒す作戦の成功率を下げる。ならば……確実な手段を取る。それが国でござろう」
「…………とりあえずラスペラス国やベフォメット国にも話を聞いてみる。何かよい案があるかもしれない」
「好きにするでござる」
俺はラークに頼んでラスペラス国に転移してもらった。
そしてこの件をうわきつ女王と相談しようとして、迎賓室に案内されたところ。
「……何でお前なんだよ、ジジイ」
「女王様は体調が悪いのでな」
「お肌の調子が悪いの間違いだろ」
「何故知っている!?」
俺を待っていたのはランダバルのジジイだった。
……今回ばかりはうわきつ女王のほうがよかったんだがな。
何となくだけどあいつも俺と同じ感性な気がするから。
とはいえ仕方ない。こいつでもよいかとテーブルを挟んで向かい合って椅子に座り、イレイザーの情報を全て伝えたところ。
ランダバルは下卑た笑みを浮かべた。
「なるほど……それはよいな」
「何がよいんだよ」
「実はな、ラスペラス国の北側に争っている帝国がいるのじゃ。そこにイレイザーを放って、大暴れさせて壊滅させてから封じたい。そして帝国が化け物を解放したと責める……我ながら完璧な作戦じゃ」
「……はっ?」
俺はこいつの言ってることが理解できなかった。
敵国で封印を解いて大暴れさせてから? ダメだこいつ、全くもって話にならない。
「そんなことするわけないだろ。女王に会わせろ。お前だと話にならない」
俺が勢いよく立ち上がると、ランダバルはいきなり怒り狂って来た。
「何を言うかっ! 自国に放つのは危険なのだから、敵国に放つのは当たり前じゃ! それに何でワシらだけが世界のために働かねばならぬっ! それでイレイザーの封印で被害を受けて、弱ったラスペラス国が帝国に攻められたらどう責任を持つ! これはラスペラス国の総意じゃっ! 従わぬなら、我らは一切協力せぬ! 帰れっ!」
ランダバルはそう言い残すと、部屋から去っていった。
今のままでは話を聞いてもらえそうにないので、俺もラークの転移でフォルン領へと戻る。
そして今度はベフォメット国のライニールさんに、今度は手紙で情報を記してラークに転移で送ってもらった。
翌日には返事が来たのだが……その内容は恐るべきものだった。
――アトラス殿へ、申し訳ありません。ベフォメット王家にイレイザーの件を伝えたところ、協力をする気は一切なさそうでした。むしろ王はその隙にレスタンブルク国へ攻め込むと、活き込んでおります。
俺はライニールさんの手紙を思わず握りつぶしそうになった。
あ、あのクズ王子めっ……! なんて野郎だ! 下手すれば世界が滅びかねない奴相手に、手を貸すどころか足を引っ張るとは!
怒り狂いそうになるが、手紙には最後に付け足すように続きがあった。
――なおアトラス殿と戦った元王子は出兵に反対しておりました。美しくないと。
……俺、ベフォメットの王家なめてた。まさかクズ王子が一番まともな人間だったなんて……。
あいつ、掃きだめのカラスだったんだな。
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