【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

文字の大きさ
205 / 220
イレイザー最終決戦編

第193話 クズの箱舟

しおりを挟む

 俺が【異世界ショップ】に入店すると、ミーレが客席の椅子に座って待ち構えていた。

 そんな彼女に向かい合うように、俺は正面にある椅子に腰を下ろす。

 だがセバスチャンがいない。あいつも待っていると思ったのに。

「セバスチャンはどこだ?」
「彼なら君の返答次第でいつでも動けるように準備中だよ」

 ミーレは真面目な顔で俺を見つめてくる。

 どうやら俺がよい案を思いつかなければ、すぐにでもイレイザーを殺すように動くみたいだ。

 即断即決のセバスチャンならば平常運転と言えるだろう。

「その態度、何かよい案を思いついたのかな?」
「もちろん。俺は宣言したことはやる主義なんだよ」

 俺はミーレに対して、巨大な船を用意してそれに大勢の人間を乗せる。

 そして船を大陸から離れた場所に移動させて、そこでイレイザーを蘇らせて戦うと説明した。

 これならば船に乗った人間以外は周囲にいない。そして船が離脱すればイレイザーから人を遠ざけることができる。

 この作戦ならば成功率はかなり高い。理論上も破綻はない。

 ミーレは俺の説明を聞き終えた後、しばらく黙り込むと。

「……この作戦なら成功率は高いかもしれないね」
「どうだ! ざまぁいったか!」
「ざまぁいったかってそんな言葉初めて聞いたよ……でもね、この作戦よりも周囲全て焼き払ったほうがより失敗は少ない。この作戦は船が避難する時間を稼がないとだけど、核でも落とせばすぐだ。成功率ならば君の作戦よりも確実なものがある」

 ミーレは真剣な顔で俺に問いかける。

 彼女の言いたいことはわかる。世界の命運を握るのだから、少しでも成功率を上げるべきだと。

 だが俺は彼女に対して大きく首を振った。

「確かにお前の言うことはわかる。だが……やってはいけないことがある。取り返しのつかないことがある。少なくとも可能性があるなら俺はそれにかけたい」
「その船誘導とやらが失敗したら?」
「絶対成功させる、とは言わない。その時は責任をとる……未来の兵器とか買えるんだろ? 以前に俺の寿命を使えばって言ってたもんな。それで何とかなるだろ」

 未来の兵器のことはミーレから少し聞いたのだがトンデモ兵器もかなりある。

 周囲の人間を一定時間仮死状態にする音波爆弾とか、そういうのを使えばたぶん何とかなる。

 そんな決意を胸に俺はミーレをにらみつける。

 しばらく互いに見合った後……彼女はため息をついた。

「……ああもう。わかった、わかったよ。アトラス、君の勝ちだ。この船誘導作戦は成功率も高いし反対はしないよ」
「よし!」

 俺は思わずガッツポーズをしてしまう。

 ミーレは少し呆れた顔をしてまたため息。

「でもさ、この船に誰を乗せるの? 八千人くらいは必要だし危険なことに巻き込むわけで……」
「え、レザイ領民に決まってるけど?」
「す、少しの迷いもない……」

 本当は民間人じゃなくて軍人で人数を揃えたかった。

 でも今の俺が動員できるのはフォルン領兵とレザイ領民全てのみだ。

 兵士はイレイザー作戦の戦闘員として運用するので、選択肢は元からないに等しい。

「……もちろん無料働きはさせない。今回のレザイ領民の働きによって、レザイ領の莫大な借金を全てゼロにする」
「借金で命をかけさせるのもどうなの?」
「……レザイ領の借金なんだけどな。昔から返済拒否とか踏みたおしてたのが発覚した分などで、金貨十万枚以上あるんだよ」
「うそでしょ? それ国家予算とかのレベルじゃない? 日本だと軽く兆円の単位だよね? たかが小さな一領地が持っててよい借金じゃないよね?」

 ミーレが珍しくガチで動揺している。
 
 俺も借金の合計額聞いた時は開いた口が塞がらなかった。

 ちなみに俺がジャイランド討伐時にもらった報酬金が金貨千枚な! 王家がケチすぎるのもあるけど!

 まあそういうわけではっきり言って、今のレザイ領は借金地獄と言い表すのも生ぬるい。

 領民全員奴隷で売り飛ばしても借金返済不可能な状況になってる。

 それを何とかするには王家に徳政令――借金無効の号令を出してもらうしかない。

 だがそんなものを無条件で出したら王家の信用は失墜する。

 民意が文句を言えないほどの何かを成し遂げない限りは……。

 イレイザーに対して命をかけて戦うことで、レザイ領民全員が殊勲を上げればそれができる。

「そもそも王家もレザイ領民大嫌いだからな……今までずっと税払ってなかったし。ここで何かしないとあいつらは永遠に国のつまはじき者だ。近い将来、数減らしで戦争の捨て駒にされかねん」
「世知辛いなぁ……」

 そんなわけでレザイ領民に身体で払って……もとい、体をはってもらうことにした。

 もちろん彼らを犠牲にするつもりはない。それとあいつらさ、なんか悪運強そうだからという理由もあったりする。

 こう煮ても焼いても死なない感があるというか。

「ま、まあいいけどね……でも海で戦うなら船とか大量に必要だよね? 動かす人員やお金は?」
「人員は【異世界ショップ】で知識を買う。金はもちろんこれだ」

 俺は以前に造ったフォルン領紙幣を懐から取り出す。

 フォルン領のみで使える専用紙幣。かつ他所にばら撒く予定のない実質紙切れ。

 法律上有効な子供銀行券みたいなものだ。だがこれも明確に金なのだ。

 ちなみにお値段は日本円で一枚一兆円なり。フォルン領では法律上、一兆円の価値で使えるので【異世界ショップ】でも一兆円で使える!

 これこそが対イレイザーの切り札! うわきつ女王戦でとっておいたラストエリクサー!

「うわぁ……本当に使うんだ……イレイザー相手の時だけだからね!? 今後は絶対取引拒否するからね!」
「わかってるよ。流石に裏ワザならぬ裏金な自覚はある」
「それはそれで意味が違うような」

 ミーレが突っ込んでくるが細かいことは気にしないで欲しい。

「まあそういうことだからセバスチャンに伝えてくれ。イレイザーを倒させるのはやめるようにって」
 
 ……今も俺の返答次第で待機してるようだし、放っておいたらそのうち勝手に暴走しかねん。

 だがミーレは首を横に振る。

「その必要はないよ」
「いやあるからな? お前はセバスチャンを舐めている! あいつはやると言ったら躊躇なくやるぞ!? 勝手にイレイザーを倒そうって決めたらどうする!?」

 本当にセバスチャンを舐めてはいけない。

 ストッパー不在のセバスチャンは全身ランダム設定の時限爆弾だ。

 いつ何時、どんなタイミングで爆発するかわからん!

「いや大丈夫だよ。だって……セバスチャンさんはすでにアトラスの屋敷で待機しているもの。君が思いついた良案を実行に移すためにね」
「……え?」
「言ってたよ。『このセバスチャン、ずっとアトラス様を見てきました。追い込まれたアトラス様は必ずや、名案を思い付きますぞ。なので不眠不休で動くため、久しぶりに六時間ほど眠ります』って」

 ミーレは呆れながらも告げてくる。

 ……セバスチャンめ、俺のことを完全に信じてくれていたのか。

 そういえば最初のフォルン領は俺とセバスチャンだけだったな。

 そこからカーマやセンダイ、ラークにエフィルンにセサルに犬と色々と仲間が増えていった。

 俺の事を誰より長く見てきたのはあいつだ。

 ……最初からあいつは、俺を追い込むために演技をしていたのか。

「いや演技じゃなくて君が案を思いつかなかったら、本気で躊躇なくやってたと思うよ」
「いい話にしたいから心読んで突っ込むのやめて。じゃあ俺は屋敷に戻るから!」
「あ、待って。このイレイザーを倒す作戦の名前を決めてよ。こういうのは名称がないと話しづらいから。それにこれは歴史に残るよ!」

 ミーレからそう提案されたので考えるが……作戦の名前なぁ。

 有名な作戦名だと電撃作戦とか? うーむ、そんな恰好よい名前は思いつかない。

「そこで私によい案があるんだけどね。船で人を運ぶと言えばノアの方舟。今後の人間の生き残り命運を担うんだし、レザイの方舟ってのは」
「そんなよいもんじゃない。せいぜいクズの箱舟だろ。よしこれでいこう」
「えっ。いやもう少し恰好いい名前を……まあいいか、ある意味で君らしいし」

 諦めたような顔をしたミーレがバイバイと手を振って来る。

 イレイザーの作戦実行準備のため、俺は【異世界ショップ】を退店した。

 まあ本音を言うとだ、こんな民間人を危険に晒す作戦に恰好よい名称なんて不要だ。

 むしろ後世に伝わるならば、こんな作戦を取らざるを得なかったことを非難されて欲しい。

 命をかけた人間が賞賛されるのはよいが、命をかけさせた側が褒めたたえられるのは違う。

 そんな意味があるのと、ノアの方舟に対して無礼過ぎるのでこの名称にした。

しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

処理中です...