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イレイザー最終決戦編
第193話 クズの箱舟
しおりを挟む俺が【異世界ショップ】に入店すると、ミーレが客席の椅子に座って待ち構えていた。
そんな彼女に向かい合うように、俺は正面にある椅子に腰を下ろす。
だがセバスチャンがいない。あいつも待っていると思ったのに。
「セバスチャンはどこだ?」
「彼なら君の返答次第でいつでも動けるように準備中だよ」
ミーレは真面目な顔で俺を見つめてくる。
どうやら俺がよい案を思いつかなければ、すぐにでもイレイザーを殺すように動くみたいだ。
即断即決のセバスチャンならば平常運転と言えるだろう。
「その態度、何かよい案を思いついたのかな?」
「もちろん。俺は宣言したことはやる主義なんだよ」
俺はミーレに対して、巨大な船を用意してそれに大勢の人間を乗せる。
そして船を大陸から離れた場所に移動させて、そこでイレイザーを蘇らせて戦うと説明した。
これならば船に乗った人間以外は周囲にいない。そして船が離脱すればイレイザーから人を遠ざけることができる。
この作戦ならば成功率はかなり高い。理論上も破綻はない。
ミーレは俺の説明を聞き終えた後、しばらく黙り込むと。
「……この作戦なら成功率は高いかもしれないね」
「どうだ! ざまぁいったか!」
「ざまぁいったかってそんな言葉初めて聞いたよ……でもね、この作戦よりも周囲全て焼き払ったほうがより失敗は少ない。この作戦は船が避難する時間を稼がないとだけど、核でも落とせばすぐだ。成功率ならば君の作戦よりも確実なものがある」
ミーレは真剣な顔で俺に問いかける。
彼女の言いたいことはわかる。世界の命運を握るのだから、少しでも成功率を上げるべきだと。
だが俺は彼女に対して大きく首を振った。
「確かにお前の言うことはわかる。だが……やってはいけないことがある。取り返しのつかないことがある。少なくとも可能性があるなら俺はそれにかけたい」
「その船誘導とやらが失敗したら?」
「絶対成功させる、とは言わない。その時は責任をとる……未来の兵器とか買えるんだろ? 以前に俺の寿命を使えばって言ってたもんな。それで何とかなるだろ」
未来の兵器のことはミーレから少し聞いたのだがトンデモ兵器もかなりある。
周囲の人間を一定時間仮死状態にする音波爆弾とか、そういうのを使えばたぶん何とかなる。
そんな決意を胸に俺はミーレをにらみつける。
しばらく互いに見合った後……彼女はため息をついた。
「……ああもう。わかった、わかったよ。アトラス、君の勝ちだ。この船誘導作戦は成功率も高いし反対はしないよ」
「よし!」
俺は思わずガッツポーズをしてしまう。
ミーレは少し呆れた顔をしてまたため息。
「でもさ、この船に誰を乗せるの? 八千人くらいは必要だし危険なことに巻き込むわけで……」
「え、レザイ領民に決まってるけど?」
「す、少しの迷いもない……」
本当は民間人じゃなくて軍人で人数を揃えたかった。
でも今の俺が動員できるのはフォルン領兵とレザイ領民全てのみだ。
兵士はイレイザー作戦の戦闘員として運用するので、選択肢は元からないに等しい。
「……もちろん無料働きはさせない。今回のレザイ領民の働きによって、レザイ領の莫大な借金を全てゼロにする」
「借金で命をかけさせるのもどうなの?」
「……レザイ領の借金なんだけどな。昔から返済拒否とか踏みたおしてたのが発覚した分などで、金貨十万枚以上あるんだよ」
「うそでしょ? それ国家予算とかのレベルじゃない? 日本だと軽く兆円の単位だよね? たかが小さな一領地が持っててよい借金じゃないよね?」
ミーレが珍しくガチで動揺している。
俺も借金の合計額聞いた時は開いた口が塞がらなかった。
ちなみに俺がジャイランド討伐時にもらった報酬金が金貨千枚な! 王家がケチすぎるのもあるけど!
まあそういうわけではっきり言って、今のレザイ領は借金地獄と言い表すのも生ぬるい。
領民全員奴隷で売り飛ばしても借金返済不可能な状況になってる。
それを何とかするには王家に徳政令――借金無効の号令を出してもらうしかない。
だがそんなものを無条件で出したら王家の信用は失墜する。
民意が文句を言えないほどの何かを成し遂げない限りは……。
イレイザーに対して命をかけて戦うことで、レザイ領民全員が殊勲を上げればそれができる。
「そもそも王家もレザイ領民大嫌いだからな……今までずっと税払ってなかったし。ここで何かしないとあいつらは永遠に国のつまはじき者だ。近い将来、数減らしで戦争の捨て駒にされかねん」
「世知辛いなぁ……」
そんなわけでレザイ領民に身体で払って……もとい、体をはってもらうことにした。
もちろん彼らを犠牲にするつもりはない。それとあいつらさ、なんか悪運強そうだからという理由もあったりする。
こう煮ても焼いても死なない感があるというか。
「ま、まあいいけどね……でも海で戦うなら船とか大量に必要だよね? 動かす人員やお金は?」
「人員は【異世界ショップ】で知識を買う。金はもちろんこれだ」
俺は以前に造ったフォルン領紙幣を懐から取り出す。
フォルン領のみで使える専用紙幣。かつ他所にばら撒く予定のない実質紙切れ。
法律上有効な子供銀行券みたいなものだ。だがこれも明確に金なのだ。
ちなみにお値段は日本円で一枚一兆円なり。フォルン領では法律上、一兆円の価値で使えるので【異世界ショップ】でも一兆円で使える!
これこそが対イレイザーの切り札! うわきつ女王戦でとっておいたラストエリクサー!
「うわぁ……本当に使うんだ……イレイザー相手の時だけだからね!? 今後は絶対取引拒否するからね!」
「わかってるよ。流石に裏ワザならぬ裏金な自覚はある」
「それはそれで意味が違うような」
ミーレが突っ込んでくるが細かいことは気にしないで欲しい。
「まあそういうことだからセバスチャンに伝えてくれ。イレイザーを倒させるのはやめるようにって」
……今も俺の返答次第で待機してるようだし、放っておいたらそのうち勝手に暴走しかねん。
だがミーレは首を横に振る。
「その必要はないよ」
「いやあるからな? お前はセバスチャンを舐めている! あいつはやると言ったら躊躇なくやるぞ!? 勝手にイレイザーを倒そうって決めたらどうする!?」
本当にセバスチャンを舐めてはいけない。
ストッパー不在のセバスチャンは全身ランダム設定の時限爆弾だ。
いつ何時、どんなタイミングで爆発するかわからん!
「いや大丈夫だよ。だって……セバスチャンさんはすでにアトラスの屋敷で待機しているもの。君が思いついた良案を実行に移すためにね」
「……え?」
「言ってたよ。『このセバスチャン、ずっとアトラス様を見てきました。追い込まれたアトラス様は必ずや、名案を思い付きますぞ。なので不眠不休で動くため、久しぶりに六時間ほど眠ります』って」
ミーレは呆れながらも告げてくる。
……セバスチャンめ、俺のことを完全に信じてくれていたのか。
そういえば最初のフォルン領は俺とセバスチャンだけだったな。
そこからカーマやセンダイ、ラークにエフィルンにセサルに犬と色々と仲間が増えていった。
俺の事を誰より長く見てきたのはあいつだ。
……最初からあいつは、俺を追い込むために演技をしていたのか。
「いや演技じゃなくて君が案を思いつかなかったら、本気で躊躇なくやってたと思うよ」
「いい話にしたいから心読んで突っ込むのやめて。じゃあ俺は屋敷に戻るから!」
「あ、待って。このイレイザーを倒す作戦の名前を決めてよ。こういうのは名称がないと話しづらいから。それにこれは歴史に残るよ!」
ミーレからそう提案されたので考えるが……作戦の名前なぁ。
有名な作戦名だと電撃作戦とか? うーむ、そんな恰好よい名前は思いつかない。
「そこで私によい案があるんだけどね。船で人を運ぶと言えばノアの方舟。今後の人間の生き残り命運を担うんだし、レザイの方舟ってのは」
「そんなよいもんじゃない。せいぜいクズの箱舟だろ。よしこれでいこう」
「えっ。いやもう少し恰好いい名前を……まあいいか、ある意味で君らしいし」
諦めたような顔をしたミーレがバイバイと手を振って来る。
イレイザーの作戦実行準備のため、俺は【異世界ショップ】を退店した。
まあ本音を言うとだ、こんな民間人を危険に晒す作戦に恰好よい名称なんて不要だ。
むしろ後世に伝わるならば、こんな作戦を取らざるを得なかったことを非難されて欲しい。
命をかけた人間が賞賛されるのはよいが、命をかけさせた側が褒めたたえられるのは違う。
そんな意味があるのと、ノアの方舟に対して無礼過ぎるのでこの名称にした。
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