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イレイザー最終決戦編
第194話 フォルン領兵は火属性?
しおりを挟む俺達は今、とある海岸の砂浜にいる。
ここはレスタンブルク国唯一の港にして、海に面した領地――クラー領。
レスタンブルク国で基本的に海産物が出回ってないのは、ここの領地しか港がないためである。
王都までは馬車で数週間かかる立地なので、魚なんて運んでいる間に腐ってしまう。
干物にして持っていくにしても王都がそこまで遠いと、運ぶ費用で赤字になりかねないし。
つまりレスタンブルク国の人間にとって、海や魚はほぼ縁がないに等しい。
そんな陸戦用の人間が海で戦う……それを俺は甘く見ていた。
とりあえずフォルン領の主要メンバーと兵士を連れて、この港の海岸にやってきたのだが……。
よい、実によい。
何が良いかと言われれば決まってるだろう。水着だ。
カーマやラークやエフィルンが水着を着ている。
全員ビキニ……と言いたいところだが、エフィルン以外はワンピースだ。
俺が最初にビキニ水着を渡したら下着を渡すなと怒られた……理不尽である。
おっと海に来たのは決してやましい気持ちが理由ではない。
純粋に陸地でしか戦ってこなかった俺達が、海に慣れるための訓練だ。
考えて欲しい。イレイザーとは船上で戦う以上、海に落ちたり脱出のために飛び込む可能性もある。
そんな時、カナヅチでは話にならない。
そんなわけでみんなに海に慣れてもらうため、まずは普通に海で遊ばせているのだが……。
「アトラス様! メル殿が溺れているでござる!」
「なにぃ!? なんで足の届かない場所までいかせた!? どこだ!? 指をさせ! 助けに行ってくる!」
「あそこでござる!」
俺は叫びながら浮き輪を引っ張る紐を手に取って海にはいり、メルが必死にばしゃばしゃともがぐそばまで泳ぐ。
そして浮き輪を差し出すと、メルはその浮き輪に抱き着いて何とか事なきを得た。
「なにやってんだお前!? 足届くところにいろと言ったろ!?」
「ひっぐ……お、思ったより深いところがあって……」
海だからそりゃ深いところもあるに決まって……いやメルたちは海の知識がいっさないからそんな常識もわからないのか。
……これは思ったより大変そうだな。
フォルン領にも海はなくとも湖や川はある。なので泳げる人間もいるとは思うが……大多数はこのメルと同レベルかもしれない。
とりあえずメルごと浮き輪を引っ張って、海岸へと連れて行って海から出ると。
「アトラスざまぁぁ! 死ぬかとおもいまじたぁぁ!」
「ええい! ビキニ姿で抱き着いてくるな! 俺が海の日差しじゃなくて炎で焼かれかねん!」
カーマやラークが俺を責めるような目で見てくるが不可抗力だろう!?
てかメルめ、俺がカーマたちに用意した水着を着てやがる!
俺がメルを引きはがそうとしていると、少し離れたところでフォルン領の兵士の野郎どもが海に慣れようとしている。
野郎どもを見る趣味はないので、どうでもよいかと思っていたが。
「海ってすげぇな。水に困らねぇよ、飲み放題じゃん。それにこの水、酒と一緒に飲んだらいけるかも」
「なんだ? この透明なへんなのは? 触ったらなんか痺れるんだけど」
「センダイ隊長! 海にいるとなんか身体が寒くなってきました! 追加で酒を飲みたいです!」
「それはいかん。もっと酒を飲むでござる!」
「やめんかバカども! 海で飲酒すると脱水症状になるぞ!」
聞こえてくる声だけでヤバイので、俺は拡声器をつかって酒飲みバカどもに叫ぶ。
……まあそんな感じでイレイザー対策の予想外のところで苦戦している。
水軍が欲しいなぁ! そもそも海の素人が海戦は無謀なのでは?
だがないものねだりをしてもどうしようもない。
クラー領の水軍を借りたいと期待したが少数しかおらず、せいぜいが海賊退治程度のお仕事しかしてないらしい。
どう考えても兵数が足りないので諦めて、フォルン領兵士を海で慣れさせる作戦を取っているが。
はっきり言おう。うちの酒飲み兵士と海の相性が最悪過ぎる……っ!
なんかあれだよ、常に炎まとってるタイプの奴らを水で戦わせる愚業に思えてきた。
マジで弱ったぞ。本来なら兵士はこのまま放置して海に慣れさせて、主要メンバーはクズの箱舟や戦闘用の船を見せるつもりだった。
だが……ここで俺が目を離すと死人が出そう。
「みんな大変そうだねー」
「大変」
カーマやラークが他人事のように話している。
だが……こいつらずっと砂浜で遊んでるんだけど。
「お前たち、海にはいれよ」
「え、いやー……これでもお姫様なので、皆と同じようにはしゃぐのはダメかなって。別に海が怖いとかではなくてね!?」
「人は水には浮かばない」
カーマとラークは俺から目を逸らす。
ダメだ、フォルン領は金具の名産領だ。
まともに泳げるのは俺だけかっ!? クラー領の水軍借りて海の指南でもしてもらうかっ!?
「アトラス君! お困りのようだね!」
そんな恐ろしい発想をしていると、ふんどし姿のセサルがキメポーズをしていた。
やめろよ、ふんどしはお前じゃなくてセンダイだろ。
「うん、本当に冗談抜きでお困りなんだが。水中で呼吸できる魔道具とか作れない?」
「作れるサッ。でも泳げないなら沈んでいくだけだが」
「海底まで落ちたら誰も助けられんな……」
結局泳ぎは必要なわけか。いや救命道衣を用意しておけば……?
もう常時ライフジャケットを着させておけばいいのでは?
「でもどんな対策を取るにしろ。海への知識は必要サッ! そんなわけで海の知識がある者だが、ミーとエフィルンはある。伊達に長く生きてはないサッ!」
「お任せください。それとセバスチャン様も泳げるそうです」
いつの間にかやってきていたエフィルンも、魅惑の谷間を揺らしながら告げてくれる。
よかった……泳げるのが他にもいて本当によかった……。
俺がつきっきりでフォルン領兵士の海中訓練を指導せねばならないところだった。
これで一安心だ……。
「ところで何でセバスチャンは泳げるんだ?」
「身体能力でゴリ押ししてたサッ」
セサルは少し呆れ顔だ。
もうセバスチャンについては深く考えないようにしよう。
そんなわけで海に兵士たちを海に慣れさせた後、戦艦を購入して兵士たちを乗せて沖へと進んだのだが。
「うぇっぷ……アトラス殿! 我が軍すでに壊滅状態でござる! 全員、やられもうした!」
「お前ら禁酒しろ! 敵と戦ってすらいないのに戦闘不能になる軍がどこにいるよ!?」
あまりの前途多難さに俺は飛行船で空から戦うことを考えることにした。
いや船に比べて兵器が貧弱過ぎて流石に無理か……。
結局セサル特製酔い止め薬を用意したのだが……。
「酔い止め!? ふざけるな! 横暴だぇっぷ!」
「俺達へべれけフォルン軍! 酒は飲んで飲まれる! 酔いを止めてなるものか! うぇっ!」
「酒のない我らなど、種のないリンゴのようなものだっ! おえええぇぇぇぇ!」
「お前ら少しは妥協しろよ!? なんで船で吐きながらそんなセリフをほざけるんだ!?」
結局、せめて船の上では酒飲むな。代わりに任務達成後には高級酒をしこたま飲ませる約束になった。
……こいつら、酒で釣らないとどうにもならん。
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