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イレイザー最終決戦編

第196話 対イレイザー作戦の立案

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「これより対イレイザー作戦の立案を行う!」

 俺は執務室にみんなを集めて、用意したホワイトボードを手で叩きながらそう宣言した。

 イレイザーに対してクズの箱舟を囮に、戦艦などで戦っていくのはすでに決まっている。

 だが具体的にどういう戦法をとるかなどはまだだ。
 
 まあだいたい俺の頭の中では決まっているのだが、やはり相談して決めておくべきだろう。

「まずこの軍を率いるのはセンダイ……でいいか? 船の指揮に自信がないなら」
「アトラス殿、拙者を舐めないでもらいたい」

 センダイは酒を飲みながら自信満々に告げてくる。

 特に懸念がないならこいつに任せたい。船の素人でもフォルン領兵の玄人だ。

 ……正直言うと他から船の指揮ができる奴連れて来ても、フォルン領兵を率いるのは無理だと思っている。

 戦闘中に酒飲む兵士見たら、そいつの頭の血管ブチギレそう。

「拙者、自慢ではないが。そこらの船乗りよりも酔った回数では負けぬ!」
「本当に何の自慢にもならないなおい……」
「いやいや。フォルン領の防衛隊長は、兵士よりも酒を飲めなければ務まらぬ。酒飲めない奴の言うことたぶん聞かぬ。まあ些細なことでござるが」
「えっ? なにそれ? 今俺、自軍の超致命的な欠陥聞いたんだけど?」
「大丈夫でござる。ほら次の話に」

 センダイの恐ろしい暴露。知りたくなかった事実。

 ま、まあいい……今回の作戦では影響ないし……ないし。

 気を何とか持ち直してカーマたちのほうに視線を向ける。

「今回はレスタンブルク国からも無理やり魔法使いを借りてきた。そいつらはひとつの戦艦に乗せる」
「なるほど。戦艦の大砲に合わせて、魔法使いたちをひとつの船に集中させて大火力でござるな」
「まあイレイザー相手だと魔法無効化されるけどな……地形破壊とか潮の流れ変えたりとかくらいはできるだろ。本音を言うとそこまで期待していない」

 レスタンブルク国の魔法使い部隊……それは弱卒で有名だ。

 あの魔導大国のラスペラスどころか、ベフォメットにすら歯が立たない可能性が高い。

 カーマやラーク相手にも全員合わせても間違いなく蹂躙されるほどだ。

 つまり戦艦に魔法使い全員集めるのは、クズひき肉を無理やりミンチにして合わせたら食えないかと……。

 苦肉の策だが何とか役に立って欲しいものだ……期待してないけど。

「カーマとラークとエフィルンは船に固定しない。空飛んで魔法撃ってくれ、まあようは遊撃だ」
「わかったよ」
「ん」
「承知しました」

 カーマとラークとエフィルンが俺の言葉にうなずく。

 彼女らの魔法なら何か役に立つこともあるだろう。

 特にラークの氷魔法で水上を凍らせれば、戦艦が沈没とかになっても止められるかもしれない。

 エフィルンの風魔法も同様だ。それに戦艦などに追い風を与えて速度上昇なども考えている。

 カーマ? ……まあなんかこう、あれだ。

 ……イレイザーに魔法が効果ない上に、海上での炎の使い道が思い浮かばん。

 まあそれでもレスタンブルクのミンチたちよりは使えるだろう。

 念のため言っておくが、カーマとラークは同格の魔法使いである。

 俺の戦法や戦場の環境が、とことんまでカーマと合わないだけで……。

「……ボク弱くないもん」

 カーマが俺の心を呼んですねてしまった。

 是非もなし……まあカーマのほうが使えるだろう戦場もあるさ。

 例えば延暦寺焼き討ちとか、焦土作戦とか。

「それで作戦は単純明快。イレイザーが蘇ったら包囲して戦艦の大砲や飛行機の爆撃で集中砲火。レスタンブルク魔法部隊は今のところ、とりあえず用意したが使い道は思いついてない」
「て、てきとう……」
「戦場は何が起こるかわからん。イレイザーは分からないことも多いし、もしかしたら役に立つかもしれない」

 つまりが転ばぬ先の杖、折りたたみ傘ということだ。

 念のため置いておけば、まかり間違って役に立つかもしれない。

 対イレイザーの成功率を上げるためならば、しておいて損ではないはずだ。

 そして俺はホワイトボードにペンで、ベフォメットという文字を大きく書く。

「いいか! イレイザーを倒す時、ベフォメット国が攻めてくる可能性がある! 下手をすれば俺達の邪魔をしてくる可能性もな!」

 俺はベフォメットの上にゴミクズと書き加える。

 ライニールさんからの続報で、ベフォメットがイレイザー作戦に合わせてレスタンブルク国に進軍してくるのは確定している。

 陸から攻めてくるならばフォルン領にはたどり着けないだろうが、海上から俺達の邪魔をしてくることは容易に考えられる。

「で、でもイレイザーが解き放たれたら世界の危機だよ? それはあの人たちもわかって……」
「甘いぞカーマ! クズの思考回路を予想するなっ! 最悪のそのまた最悪を考えて動け! そうすれば奴らはその一段下あたりをついてくる!」
「もうそれ地盤沈下してない?」
 
 俺はカーマの言葉にうなずいた。

 ベフォメット王家を舐めてはいけない。それはライニールさんからの警告だ。

「ライニールさんからの手紙にな。ベフォメット王家の中では、あの王子ですら聖人となりえると書かれてあった」
「「「???」」」

 この場にいたみんなが困惑の表情を浮かべる。

 あのゲスクズ王子が比較されたら聖人とか、ベフォメット王家は妖怪一家か何か?

 そんな恐ろしい情報を得てしまったので、ベフォメット国がなにをしてきてもおかしくはない。

 下手したらレスタンブルク国を倒すためなら、世界を道連れに! とかいいかねん。

 クズにはクズをと俺の元弟に、ベフォメット王家の動きを読んで欲しいと依頼したらこう手紙で返って来た。

 ――僕とはクズのベクトルが違うから無理。

 クズのベクトルとはいったい何なのだろうか。まあ間違いなく下方向への向きを持つのは確定だが。

 あれかな? 地下に沈むベクトルと地獄に向かうベクトルの違いみたいな?

「そういうわけでベフォメットには常に注意しろ。魔法部隊は最悪、ベフォメットに全部ぶつけてもかまわない」
「わかったでござる」
「ちなみにラスペラス国は流石に攻めてこないだろう。ランダバルもあの女王も、イレイザーの脅威は知ってるし……」
「でもあの女王の考えも分からんでござるが」

 センダイの言ってることはもっともだが、あのうわきつBBAと俺にはひとつだけ同じ志がある。
 
 なるべく無血、血を流さないようにするという意思。だから攻めてくることはないだろう。

「それで最悪へ……いや最終兵器はセバスチャンだ。いざとなったら力を使ってもらう」
「承知しましたぞ!」

 セバスチャンがドンと自分の胸を叩いた。

 極力、彼には力を使って欲しくない。

 セバスチャンが【異世界ショップ】の力を使うのは、寿命を削ると言うことだ。

 だがことここに至っては、使ってはダメとまでは言えない。

 イレイザー退治に失敗したら人類滅亡まであるのだから。

「よし。大雑把な説明はこれで終わりだ。何か質問は?」
「あ、作戦の質問ではないんだけど……メルちゃんは? ここに集まってないけど」

 カーマが手をあげて質問を投げてくる。

 メルが軍事作戦にいること自体本来おかしいのだが、あいつは屋敷内で皆が集まって来ると必ず紛れ込むからな。

 なんでいないのかは気になるところなのだろう。

「あいつが船に乗っても何の役にも立たない。なら億が一、役に立てると本人が自称することをやらせようとな」
「え? メルちゃんに何をさせるの?」
「聞いて驚くなよ? 間諜だ」

 俺がそう言い放った瞬間、みんなの顔色が変わった。

「そんな無茶な! メルちゃんがそんなのできるわけないよ!」
「今すぐ戻すべき」
「無理ですぞ! 迷子になって帰って来ませんぞ!」
「アトラス殿! 無理な命令を部下にするのは上官としてダメでござる!」
「仕方ないだろ!? 本人が絶対やるって勝手に逃げてったんだからっ!」

 俺は悪くない! 

 つい独り言でベフォメット王家やラスペラス国に、妨害工作できる奴を探さないとって呟いただけだ!

 そしたらメルが、自分の仕事だとか言って勝手に出て行ったんだ!
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