211 / 220
イレイザー最終決戦編
第199話 クズの裏切り者
しおりを挟むクズ王子はライニールさんの魔法で宙に浮くと、俺達の船の甲板へと飛んできた。
その間にもベフォメットの船からは、魔法攻撃が絶え間なくイレイザーに撃たれている。
……うちの魔法兵士よりも練度高いなあれは。
「アトラス様! ベフォメット王家を見限って援軍に来ました! 今後のことは何卒よろしくお願いいたします!」
ライニールさんが剥げた頭を俺に下げてくる。
初手から頭を下げられたが今後に何をしろと言うのか……。
困惑しているとクズ王子が髪を手でかきあげた。
「私たちはベフォメットを裏切ってここにいる。なのでイレイザーを倒したら、ベフォメットに攻め込んで国を盗る」
「ここにいる戦力は数こそ少数ですが、ベフォメット総戦力の六割超えです! それでレスタンブルク国に向かう時に考えたのですよ。あれ? これベフォメットの国と戦争できるのでは? と」
ライニールさんがケラケラと笑い始めた。
この世界では魔法使いの戦力は極めて大きいので、その大部分を連れてきたなら確かに戦力の六割以上も過剰ではないのかもしれない。
でもひどい、クズ王子は平常運転だが……ライニールさんまで発想がクズになってしまった。
いや俺からすれば好都合なんだけども。
「私もベフォメット王家だ。今の王宮を占領すれば王になる資格も大儀もある」
「このライニール、勝ち確の博打には乗ります! ここで勝てれば私は永遠に魔法隊長になれます! もう天才若手の台頭に怯えなくてすむ!」
「それに我が強敵と書いて友と呼ぶ君と、手を組むのも一度くらいは面白いと」
「恐ろしいこと言うなよ!? 鳥肌立ったんだが!?」
こんな奴と友達になるくらいなら、ゴキブリを飼った方がまだ……いや同じくらいか。
「しかしクズ王子は平常運転として……ライニールさん思いきりましたね。ギャンブルとか嫌いそうなのに」
ライニールさんには窓際族のイメージが強すぎて、得たものを失うリスクは犯さないと思っていた。
だが彼は笑い声をあげると。
「ははは。このライニール、危ない橋はわたりません! レスタンブルク国と戦争など勝てるわけもなし。イレイザーの件が片付いたら、反撃されて終わるに決まってます。ならば最初から寝返った方がよいのです」
彼の言っていることは正しい。
俺にカーマにラークにエフィルン、誰かひとりだけでも今のベフォメットの戦力なら戦えるくらいに戦力差がある。
俺達に対抗できる優秀な魔法使いがベフォメットにはいないからな……。
ひたすらヒットアンドウェイで敵に打撃与えて、少し下がって休んでまた攻撃としていけば余裕だ。
「……理屈はわかった。でもこのクズ王子がベフォメット王になるのか? ものすごく嫌なんだけど」
俺はクズ王子に殺意を混ぜた視線を向ける。
こいつが王になったらまたレスタンブルク国に攻めてきそうだし……。
「ご安心ください! 確かにこの王子はクズでクソです! ですが今の王家はよりクズでクソです! 例えるならこの王子は性格をいっさい考慮しなければ優秀です! あの王家どもは性格も能力もゴミクズです! 同じクズでもまだマシです!」
ライニールさんの宣言に唖然としてしまう。
この王子よりクズなのか現ベフォメット王家……いや確かに対イレイザーに妨害仕掛けてくるような奴らだが……。
なんか最近クズがインフレしてんな……元カール領主とかもうクズレベルはゴミじゃん。
そんな謎のインフレして欲しくないんだけど。
……まあいいや。今日この瞬間だけは、対イレイザーで一致団結すべきだ。
「わかったよ。イレイザーの退治に協力しろ。そうしたらベフォメット国のクーデターに手を貸してやる」
「ふっ、感謝する」
「ありがとうございます!」
極めて悪寒……いや遺憾だが仕方がない。背に腹は代えられない。
思いがけない援軍が入ったおかげで、イレイザーへの対応も可能に……そう思っていた時期が俺にもありました。
徐々にベフォメット船からのイレイザーへの魔法攻撃が減っているのだ。
「ライニールさん、ベフォメット船の魔法攻撃の弾幕薄いんだけど」
「ペース配分全く考えずに撃ってますので……残り数分で魔力切れます」
「えぇ……」
ここまで期待させておいてそれは微妙じゃない!?
カーマたちのほうに視線を向けるが、彼女たちは甲板の上でぐったりしている。
まだ魔力が回復してなさそうで戦線復帰できるような状態ではない。
だがこれでもベフォメット魔法兵士はマシなのだ。
うちの魔法部隊だけだとイレイザーを抑えられる弾幕すら貼れないし……。
だがここでイレイザーを逃すわけにはいかない。
そしてない袖は振れない……なら魔法使いを用意するしか!
「……よし。ラーク、俺をラスペラス国に送ってくれ!」
ラークは甲板に寝転がったまま、首だけ俺の方を向く。
「……キツイ」
「きつくても頼む! こうなりゃ何としてもあのうわきつBBAを連れてくる! もう手段選んでられねぇ! 極めて不本意だが誘拐でも何でもしてくるから!」
まさか俺があのうわきつBBAを誘拐だなんて……だがここまで来たらやるしかあるまい!
今の俺の力は無限だ! ランダバルとかなぎ倒して連れてきて、無理やり言うこと聞かせるしかない!
「まずいでござる! ベフォメット船の魔法攻撃が……!」
センダイが叫んだ通り、ベフォメット船からの魔法攻撃がやんだ。
彼らは魔力を全て使い果たしてしまったようだ。
イレイザーへの攻撃が戦艦からの砲撃だけになり、纏った障壁の色が点滅ではなくて白一色になる。
まずい! また動き始める!
「もう時間はない! ラスペラス国の王宮に強襲を……」
俺がそう叫んだ瞬間だった。
イレイザーの頭上から巨大な何かが落ちて、桃色になった障壁に激突する。
それは女型の石像だった。特徴的な棘の冠に、右手を上に掲げてたいまつを持っている。
そうそれは……あ、アメリカの自〇の女神像……いやよく見たら顔が違う……。
あの顔は忘れもしない。俺が今から誘拐してこようとした……。
「おーっほっほっほっほ! おーっほっほっほっほ! この決戦に私が参加しないなんてぇありえぬゎいわねぇ!」
上空からけたたましい声がひびく。
その声の主はうわきつBBAだった。魔法で空を飛んでイレイザーを見下ろしている。
つまりあの石像は自由のうわきつBBA像……魔法で作り出したおぞましい産物か!
その横にはあの極悪ランダバルも飛んでいる……顔がアザだらけになった状態で。
「ランダバルぅ! あなたぁ、私にぃアトラスの言葉を隠したんだからぁ……ここで活躍しないと冥土の土産にキスした後に処刑するわよ」
「このランダバル、粉骨砕身で死力を尽くしますゆえ!」
ランダバルのジジイめ、ガチで悲鳴あげてやがる。いい気味だ。
俺は足元に置いていた拡声器を手に取ると。
「よく来てくれたぞ女王! よくランダバルの悪事を見破ってくれた!」
「あらぁ? あなたの使いが教えてくれたんじゃないぃ。ランダバルがイレイザーとの決戦を隠したってぇ」
女王の声が戦場に響く。
だが言ってることがわからない。
俺の使い? そんなもの出してないぞ。この決戦はフォルン領メンバーは総動員みたいなものだし。
「メルって子が王宮の前で兵士に捕らえられてぇ、牢屋で泣きながらこの決戦を看守に伝えたのよぉ! それが私に報告されたわぁ」
……そういえばメルが勝手に間諜しに行ってたな!?
案の定捕まってるあたりメルだが、謎に役に立ってやがる……!?
ま、まあいい! うわきつBBAがいればイレイザーを抑えることも可能なはず!
……レザイ領民の尊い犠牲、クズ王子の魔法部隊、うわきつBBAのチート魔法。
そして生贄のメルとかつての敵が力を貸してくれている。
これでイレイザーに対抗できるのだから素晴らしい。
いや本当思うんだよ。今までの敵にロクな奴いねぇなぁ……って。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる