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イレイザー最終決戦編
第202話 ラストアタック
しおりを挟む「まずは足止めだ! イレイザーの足を狙って動きを止める! そしてカーマの転移魔法で敵を真っ二つだ! 転移先は地上で頼むぞ!」
「アトラス君。転移魔法で真っ二つっておかしいと思わないのかい?」
「仕方ないだろ、事実なんだから」
俺が甲板で全員に指示を出すと、セサルからツッコミが入ってしまった。
確かにおかしいと思うがアレだよ。人体切断マジックの成功例だと思えばいいんだよ。
種も仕掛けもありません! 本当に真っ二つになりましたってな!
「じゃあボクはしばらく魔法の準備をするからね。イレイザーをあの場から動かさないでね」
「わかった、任せろ!」
カーマは甲板から飛び立つとイレイザーに向かって行く。
……魔法なのに敵に近づく必要があるのか。もう魔法の利点ないな……。
そんなことを考えていると、エフィルンが甲板の上から詠唱を開始した。
「潮に眠りし数多の命よ。彼の者の自由を奪え」
詠唱と共に海から大量のワカメが生えてきて、イレイザーの足に絡みついた。
どうやらエフィルンの植物魔法も海バージョンのようだ。
あれか、海だと普通の植物は育つ環境にないから……育つやつを使ったってことか。
ワカメの分厚さが人くらいあるので正直不気味である。
「ルオオオオオオォォォォォォ!?」
イレイザーは驚いて暴れ出すが、巨大ワカメに足をとられてその場を動けない。
エフィルンは魔法を維持したままこちらのほうを向くと。
「主様、ちなみにあのワカメは食べられます」
「……いらないなぁ」
絶妙に不要な情報を教えてくれた。
あんな異常成長したワカメが美味いとは思えない……。
いやそんなことは重要じゃない! イレイザーの動きを封じるにはワカメだけではたぶん足りないのだ!
意外と弾力性のあるワカメで引きちぎられてないが、流石にこれだけでは無茶だろう。
敵の動きを阻害する……その第一人者と言えば、今更言うまでもないだろう。
ラークは俺の横に立っている。イレイザーを見据えて、すでに魔法の発動準備をしていた。
「氷壁、豹変、雹河の自在。凍らざる者あるべきや。汝に零度をもたらす」
ラークが呪文を唱えると、イレイザーの下半身と足元の海が完全に凍り付いた。
ワカメもついでに凍り付いた。ありがとうワカメ。
「ルオオオオオォォォォォォ!?」
イレイザーは今までよりも大きな悲鳴をあげて、上半身を必死に動かし始めた。
それと共にやつの周囲に蒸気が発生していき、氷が少しずつ溶け始める。
「むむっ! イレイザーは動いて身体を温めて氷を溶かすつもりだぞ、アトラス君!」
「運動程度で温まるなと言いたいんだが!?」
更にイレイザーは足元の氷に指を食いこませて無理やり掴みとると……俺達に向けて投げてきた!?
家ほどある巨大な氷がこちらの船へと飛んでくる。もうあれ氷というか小さな氷山では……?
嘘だろ!? お前そんな飛び道具なんて使う頭持ってたのかよ!?
いかん防がなければ! 目の前にビル召喚で壁にすればいけるか……!?
いや海底から生えてくるなら高さが足りないか!?
「ここは拙者に任せるでござる」
センダイは鞘に入った剣で居合の構えを見せる。
……ん? いったい何をするつもりだ?
「もはやあのお方の魔法に剣を振るう機会は永劫失ったと思っていたが……感謝するぞ、礼に拙者の剣技を馳走しよう」
センダイが抜刀した瞬間、飛来してきていた氷山は塵に消えた。
真っ二つなどではない、パラパラと一部の欠片が海に落ちた以外全て消え去った。
「アトラス殿! イレイザーの投てきは拙者が全て防ぐでござる!」
「よし! じゃあ後はイレイザーの上半身をとめれば……!」
「その役目はこのセバスチャンにお任せくださいですぞ」
いつの間にか甲板に出てきたセバスチャンが告げた。
だがこいつは戦わせるわけにはいかない。セバスチャンがイレイザーに攻撃するなら、【異世界ショップ】の力を使ってしまう。
なのでずっと船内に引きこもらせていたのだから。
「セバスチャン、お前は船内に戻れ。戦うなと言ったはずだ」
だがセバスチャンは俺の言葉に首を横に振った。
「ご安心くだされ。ショップの力は使いません」
「それだと流石のお前もイレイザーとやり合うのは無理だろ」
「ご安心くだされ。こんなこともあろうかと……セサル殿!」
「ほいサッ!」
セサルが指を鳴らすと、いきなり甲板に巨大な鉄のブーメランが横たわって出現した。
どう考えてもひとりでは持てない大きさで、実用性皆無としか思えない狂気の武器。
「……こ、これはまさか……セサルと初めて会った時に刺さっていたアレでは……」
「そうでございます。では失礼して……」
力自慢が六人がかりでも持ち上げられるか怪しい鉄の塊。
セバスチャンはそれを両手で軽く持ち上げると、その場でクルクルと回ってジャイアントスイングを行う。
そしてしばらく回転した後に……。
「そりゃぁですぞ」
少し抜けた掛け声とともに鉄の巨大ブーメランが投てきされ、イレイザーへと襲い掛かる。
それはやつの頭に直撃してガンゴンと大きな鈍い音をたてて、船へと勢いよく戻って来る。
そんな恐るべき鉄の凶器をセバスチャンは軽く受け止めると、再びジャイアントスイングでイレイザーに放り投げた。
「このセバスチャン、老骨に鞭うちますぞ!」
……お前の老骨は鉄骨より硬いと思うぞ。鞭程度じゃビクともせんだろ。
セバスチャンの恐るべき力に戦慄するが忘れてはならないことがある。
フォルン領……というかレスタンブルク国が誇るバーサーカーはもうひとりいる。
「アアアアァァァァァァァァ!」
イレイザーのほうからすごい雄たけびが聞こえる。
そこでは……ライナさんが生身でイレイザーの胸部を殴りつけていた。
相変わらず狂ってるがもう慣れた。あの人は放置でいいだろう。
「カーマ! そろそろ準備はできたか!?」
俺が拡声器を使ってカーマに叫ぶ。
イレイザーの頭上をとった彼女は、両手を頭の上にあげて丸を造った。
それと同時にライナさんがイレイザーから素早く離れる。
流石だ、何も言ってなくても野生の勘で逃げてくれる。
彼女はただのバカではない。頭のいい狂戦士なのだ、矛盾している。
「道標、道標、道標。我らが道に足はなく、後さえ残さず道標」
カーマが転移魔法の詠唱を始めた。
それと同時にイレイザーの周囲に超巨大な魔法陣が発生する。
「道標、道標、道標。母なる海から地へと飛び立て」
俺はカーマの言葉を聞き続けながら、ラークのそばに歩いて彼女と手をつないだ。
「……どうだ? カーマの転移魔法は成功しそうか? ここで失敗されたら困るんだが」
「違う。むしろ成功して普通に転移したら困る。失敗しないと真っ二つにできない」
「…………確かに」
「緊張して成功してしまう可能性があるかも」
「もう意味不明すぎる」
切り札魔法の失敗を願うなんておかしな話だなぁ……。
そんなことを考えながら、カーマの魔法の行く末を見守る。
「道標、道標、墓標。我らが祈りを届けたまえ!」
カーマが詠唱を完了すると、イレイザーの周囲の魔法陣が強烈に輝いた。
そして……イレイザーの上半身だけが消えている!
やった! 失敗だ!
「ラーク!」
「わかってる」
ラークが改めて魔法を唱えて、俺と彼女は転移した。
その先は……上半身だけで地上に寝転がっているイレイザーの真上だった。
「ルオオオオオオオォォォォォォォ!!!!!!!」
イレイザーは下半身を失ってもなお、手だけで移動しようとしている。
なんて気持ち悪いやつだ。
やはりな、お前みたいな鬼畜耐久ボスだ。そう簡単に死ぬとは思わない!
これは予想の範囲内だ。だからこいつを地上に飛ばしてもらった……ラストアタックは俺が決める!
「よくも散々やってくれたな! ジャイランドと同じく潰れて消えろ! お前なんぞこの世界に不要だ!」
俺は【異世界ショップ】から大型タンカーを召喚。
タンカーはイレイザーへと落ちていく。
「る、ルオオオオオオォォォォォォぉォォォォ…………!」
イレイザーの断末魔の叫びが、タンカーが地面に落ちた轟音でかき消されていった。
勝ったな……。
「ところで上半身だけで生きてるなら、下半身も生きてるのでは」
「……下半身も潰しに行くか」
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