3 / 31
逃げ延びた先のレーム村
第3話 ゴーレムを召喚しよう
しおりを挟む俺がペガサスを召喚して金貨五枚を得た後、村での扱いは一変する。
まず宿が小さなみずぼらしい掘っ立て小屋から、村長の自宅へと移らないかと提案があった。
この村に宿はないため彼らなりの最高待遇である。
更に村の談合に呼ばれて発言を求められた。なのでイヤミったらしく言ってやった。
「我らはバルガスの非道な暴力に抵抗しなければならない! ……ないとは思うが、まさかペガサス様に逆らう者はいないな?」
「「「は、ははっ!」」」
「今の言葉、しかとペガサス様にお伝えする。もし反すれば……それは神に逆らうに等しく、天罰が降るとしれ!」
彼らにもくぎを刺しておいたので、そうそう裏切ることはないだろう。
この村もアダムス教の教会があり、ペガサスも神聖な魔物として教えられている。
下手に逆らえば天罰、そう思う者は多いはずだ。
ペガサス様を足にして商売で儲けるのはよいのかって? たぶん大丈夫なはずだ。
アダムス教では商売を否定してないし……たぶんいけるはず。
ちなみに普段寝る場所に村長の自宅を勧められた件だが、断ってこれまでの掘っ立て小屋で寝ることにした。
村長の自宅だと誰に話を聞かれるかわからないからな……。
そんなわけでサーニャと二人、いつもの小屋で秘密の会議を行っていた。
「サーニャ。今後のために、俺の召喚魔法について教えておく」
「…………(コクコク)」
「召喚魔法自体はアルダ家の血筋の者ならば誰でも使える。ここまではいいな?」
サーニャは再度うなずく。召喚魔法自体はアルダ家しか使えない、逆にアルダ家の血を引いていれば誰でも扱える。
「では何故うちの親父は、ペガサスを召喚しなかったのか。それは簡単だ、魔力が足りなくてできなかったからだ。覚えているか? 親父が村の皆の前で、ゴブリンの頭だけ召喚して見せたことを」
「…………(コクコク)」
この召喚魔法は物凄く魔力を必要とする。
並みの魔法使いどころか、才能にあふれた天才魔法使いであっても足りない量を。
親父の魔力も並みより多めだったが、それでもゴブリンの頭だけ召喚するのが精いっぱいだった。
対して俺の魔力は凄まじい量がある。親父がバケツ一杯程度の量なら、俺は最低でも25メートルプール分はある。
はっきり言って魔力の量だけなら、世界トップクラスであろう。だからこそ召喚魔法がまともに発動できる。
逆に言うとそれほどの魔力がなければ召喚魔法は使えない。
なのでこれまでのアルダ家に召喚魔法を実用的に使える者はいなかったわけだ。
「何ならドラゴンだろうが、それこそ神と呼ばれる魔物でも召喚自体は可能だ。だが今の俺達はするわけにはいかない、何故かわかるか?」
「…………(コクコク)」
「前に話したのを覚えていたか。魔物は……召喚したら死ぬまで面倒を見る必要がある。彼らの毎日の食事や寝床は、基本的に俺達が用意せねばならない」
これが凄まじくネックなのだ。
考えてほしい。巨大なドラゴンを召喚したとする。
街をも焼き尽くす恐ろしいドラゴン、今の状況を簡単に打破できるはずだ。
だが……エサはどうする? 大きいため当然大量のエサが必要。
毎日牛一頭以上いるだろう。そんな金はない。
ドラゴンの場合、住処に関してはそこらの山に放し飼いとか許されるかもしれない。
だがその山を所持しているのが俺でなくては、討伐隊など用意される恐れもある。
そうなれば契約不履行として、俺はドラゴンに食われてしまうだろう。
ペガサスをためらいなく召喚できたのは、エサも住処も馬とあまり変わらないからだ。馬ならこの村でも飼ってるから、住む場所もエサもとりあえずある。
本人……いや本馬がお気にめすかは置いといてだが。
「召喚魔法とはあくまで召喚であって、契約はかなり軽いものだ。気を悪くした結果、魔物側が契約を破棄してくることもある……とまあ、これが召喚魔法の問題点だな。ご清聴ありがとうございました」
サーニャはパチパチと俺に向けて拍手をする。
簡単にまとめると、魔物を召喚するなら食と住を用意してからだな。
それと彼女には言ってないが……俺はこの世界にいない魔物も召喚できる。
例えば妖怪など地球産のものも呼べたりする。
「さてと。それで改めてだが……もう一体、魔物を召喚したいと思う」
「…………!」
俺の言葉にサーニャは驚きの表情を浮かべる。
今の話を聞く限り、迂闊に魔物を召喚すれば困ることになる。
エサを用意しきれなかったら、反逆で殺される恐れがあるのだから。
「安心しろ。今回の魔物はエサをほぼ必要としない、物凄くお買い得なやつだ」
「…………?」
不思議がっているサーニャの腕を引っ張って、小屋を出てコッソリと森へと歩いていく。
あえて人のいないところを隠れ通っていたのだが……。
「おや、ライジュール様ではありませんか。森に向かわれるのですか?」
森に向かっている途中で、初老のひげを蓄えた老人に声をかけられた。
彼の名はラマス。この村の長にして、俺を隣領主に引き渡そうと考えていた者だ。
はっきり言って気に食わない奴だが、老練なだけあって油断はならない。
実際今回も森にこっそり向かっているのがバレてしまった。
……出来れば魔物を召喚した後に、談合で見せびらかして話のペースを握りたかったのだがな。
ここで隠したところで今後も森を見張られるだろう。もうコッソリ魔物召喚は無理だ。
「ああ。ちょっと魔物を追加で召喚しようと思ってな」
俺の言葉を聞いた瞬間、ラマスの目の奥が光った気がした。
だが彼は表情を崩さすに飄々とした態度で。
「ほほう。それはそれは……ペガサス様を更にお呼びなされるのですかな?」
「違うな。戦闘力の高い魔物が必要だ。今の俺達に差し迫った脅威への対策としてな」
「脅威ですか? 何を仰いますか。今のこの村にアルダ家の方々を傷つける者はおりませぬが?」
白々しいジジイだ。
おそらくこいつはまだ俺を値踏みしている。そして何かあれば裏切るだろう。
先ほどの集会の流れでこの村の意思は決した。村をペガサスに逆らうようにするのはもう無理だ。
なので村長は普通は俺に手出しできない……だが俺を殺すことでペガサス様を救ったなどと言いかねない。
この村の民が従っているのは、俺ではなくてペガサスの権威なのだから。
「それは喜ばしいな。だがバルガスはいつ攻めてくるか分からないだろ? もし侵攻してきた時、ペガサス様を戦わせるわけにもいくまい?」
「左様でございますなぁ。では村長として、その魔物を見ておく必要がありますな」
……チッ。やはり事前に情報を仕入れようとするか。
以前の村の談合では俺の思い通りに進んだ。それは村……というか村長からすれば全てが寝耳に水で動揺していたからだ。
だがもしあの時、俺がペガサスを召喚したのを知っていたら……。
その時は少し話は変わっていたかもしれない。
例えば教会に話を聞いておく、もしくはペガサスは絶対視する存在か? などと事前に他の仲間に話しておくなどだ。
事前に村人にペガサス絶対視の疑念を抱かせておけば、あの時点で村の意思が確定することはなかったかもしれない。
なので召喚する魔物は秘密にしておきたかった。だがここで隠してしまっては、奴はこう村の民に広めるだろう。
ライジュール様は何やら画策していて、村長たる私にも話せないことがある。
もしかしたら我らに不利益なことをしているやもしれぬ、と。
そんな変な噂を広められるくらいなら、見せたほうがマシというものだ。
「……いいだろう。村長のお前にも一度くらいは、召喚魔法を見せておくべきだな」
「いえいえ、何度でも見ておくべきと存じます」
「いやいや」
「いえいえ」
俺とクソジジイの口争。そして入れずにわたわたするサーニャ。
結局こいつも連れて森に入り、地面に手をかざすと魔法陣が発生する。
それをクソジジイは好奇の目で観察している。
「ほほう……先代領主様と同じなのですな」
「魔法自体は同じだからな。古の契約を遵守せよ。我が血と言葉を以て応ぜよ。求めるは力の土塊、心を持たぬ人の模倣……」
呪文に呼応して魔法陣が爆発し、そこには2メートルほどの巨体。岩を削って不格好な人の形を模した――ゴーレムが立っていた。
ゴーレムはガシガシと右と左の拳をぶつけている。
「ほほう……これはこれは。先代領主様は、ゴブリンの首だけ召喚なされて悦に浸っておりました。討伐報酬の耳によって、銅貨一枚だけ得たので銅貨伯爵と呼ぶ者もいましたが……ライジュール様は違うようですな」
……親父、あんたの行い。皆に覚えられてるぜ、悪い意味で……。
村長はゴーレムを見て驚嘆……いや隠していたが動揺していた。
まるで何か計算外のことがあったかのようだ。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる