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都市アルダを復活せよ!

第17話 魔女のスイーツ、消費期限は今夜12時

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 俺は屋敷の執務室でオバンドーに問いただしていた。

「オバンドー、この街の住人の不満を解消できるものはないか? 人間をもっと駒にしたい」

 この都市アルダは魔物の街だ。人間よりも魔物を優遇するのは決まっている。

 だが人間相手にも少しは配慮せねばならない。

 人が一揆でも起こすと面倒なので、されない程度には甘い汁を吸わせる必要があるだ。

 ようするに魔物様と崇めさせる代わりに、人間の不満を解消させる何かが必要だ。

 適度にガス抜きさせる何かが欲しい。

 祭りとか考えているがもう一押し何かが欲しい。都市アルダでないと得るのが難しく、

「甘い食べ物ね。港街だけあって塩も魚も豊富ね、味付け塩々マシマシ美味しい。だから恋しい甘みマミマミね。甘い匂いで一発KOね」
「なるほど一理あるな」

 甘い食べ物……それはこの世界においてすごく貴重で高価なものだ。

 砂糖が高級品なので甘いものも必然価値が上がる。

 もし甘い菓子を安定的に都市アルダの住人が食べられたら……かなり強力なガス抜きになるだろう。

 さらにそれを食べられるのは魔物のおかげとして、毎年菓子祭りでもやれば完璧な気がするな。

「わかった。ではさっそくだが菓子を出せる魔物を呼ぼう」
「そんなのいるのね? 金儲けの匂いがするね」
「言っておくがあまり多くの量は出せないぞ。外に売るのは難しい」

 俺はそう言い残して執務室から出ていくと、サーニャがちょこんと部屋の外で待っていた。

 そして彼女は罰金箱を差し出してくる。

「ライ、ぎんかいちまい」
「えっ!? 何か言ったっけ俺!?」

 バカな!? 俺は動物の言葉なんてまったく口に出してないはずだぞ!?

「コマってね、馬の子のことなんだよ」
「まじ?」
「うん」

 俺は銀貨一枚を罰金箱にいれた。

 コマがアウトだなんて……今後はいっそう気を付けなければ。

「というかよくサーニャ気づいたな……」
「本読んで勉強した。次からも頑張って気づく」

 サーニャは得意げな顔をしている。

 でも俺の金が減っていくからできればやめて欲しい。

 正直言わなけりゃ誰も気づかないだろこれ……魔物も絶対気を悪くしないって。

「ま、まあいい。また魔物を召喚するからついてきてくれ」
「うん。次はどんなのを召喚するの?」
「端的に言うと……クソババア?」
「?」

 首をかしげているサーニャと共に、かつてパン屋だった店の中に入る。

 都市アルダに大量にある空き家、主が逃げ出して捨てられた店のうちのひとつだ。

 街の住人たちに掃除をさせているので、かろうじて埃などは落ちてないがお世辞にも綺麗な部屋とはいえない。

 まあ別に構わないだろう、俺が召喚する奴は清潔とか気にしないだろうし。

 そもそもパン屋である必要すらないしな。

「古の契約を遵守せよ。我が血と言葉を以て応ぜよ。求めるは人を超えし者、魔に魅入りられし老《ふる》きもの……」

 床に魔法陣が発生するとともに、中から魔女帽にローブ姿の老婆が現れた。

「ケッケッケ、この私を呼ぶとはお目が高いねぇ」

 老婆はしわがれた声を出した後、俺達を見て舌なめずりをする。

「お、おばあさん? 魔物じゃないよ?」
「いやれっきとした魔物だよ。魔女……人が魔の力を得た存在だ」

 人によっては魔女は魔物ではないと思う者もいるだろう。俺もちょっと疑問に思ったので考えてみた。

 例えば猫又という存在がある。

 猫が百年生きたことで尾が二つに分かれて妖怪になったもので、見た目はあまり猫と変わらない。

 だが猫又はれっきとした妖怪だ。ならば人間でも同じことが言えるはずだ。

 歳取り過ぎてもう半分ミイラなのに、また動いてる老婆の発想でいいんじゃないか?

 もしくは今回の魔女の場合、人間とはかけ離れた超常的な力を持つ化け物だから魔物と考えればいいんだと思う。

 そこ、魔物というよりも妖怪ババアとか言わない。

 ……というかぶっちゃけ、召喚魔法で呼べるから魔物でいいんだよ。

 俺だって詳しいこと理屈知らないよ、呼べちゃうんだから。

 そして俺が魔女を呼んだ理由は簡単だ。魔女は食べ物を魔法で作ったり大きくしたりなどができる!

「ケッケッケ……そうさ、私を人間風情と一緒にされたらたまらないねぇ。ほれ、お菓子をあげよう」

 魔女は足元に落ちていたカビカビのパンを拾って呪文を呟くと、彼女の手の上に大きなクッキーが現れた。

「おかしくれるの?」
「ああもちろんさ、ほれ」

 サーニャは困惑しながらも魔女からクッキーを手渡された。

「あ、ありがとうございます?」
「ケッケッケ……」

 だがこの魔女という存在はものすごく素晴らしい。

 お菓子を魔法で作り出せるのだから! 

「かぼちゃの馬車も出せるよな?」
「もちろんさ。かぼちゃさえあればだけどねぇ」

 おそらくだが色んな魔女の能力がミックスされている存在なのだろう。

「……ちなみにかぼちゃの馬車って耐久力ある?」
「そこらの馬車と一緒にするんじゃないよ。あれが壊れるのは少女の夢が壊れる時さ。つまり絶対に壊れない。つまり馬車がいくらでも用意できるってことさぁ」
「まじかよ! じゃあドワーフに馬車頼まなくてもいけるじゃん!」
「そうさ。私さえいればいくらでも金は儲けられる。なにせ元手が不要だからねぇ」

 上半身裸男性のひくカボチャ馬車とか、ビジュアル最低だし夢も希望もないけど実益的には最高だ!

 いや商売的には夢しかないぞ!? 高級な馬車がいくらでも生産し放題とかもう夢物語じゃん!?

 いや夢が広がるなぁ! もっと早く魔女召喚してればよかった!

「ケッケッケ。夢を叶えるのは魔女ということさ」

 魔女は薄気味悪い笑みを浮かべる。

 誰だよ生産系魔物はドワーフって言ったやつ! 魔女無敵じゃん!

「魔女! これからは魔女便だ! カボチャの馬車とかカボチャの船とか大量生産して大儲けするんだ!」
「いい発想だねぇ、夢が広がるねぇ」

 やはり看板のシンボルは黒猫にする必要があるな!

 そんな歓喜する俺に対して、魔女はニヤリと愉快そうに笑った。

 その瞬間に背中に嫌な汗が出てきた。なんだろう物凄く嫌な予感がする。

「いい夢だねぇ、素晴らしい夢だねぇ」
「そ、そうだろ? 完璧だろ?」
「本当に素晴らしいねぇ……その広がった夢も深夜十二時の鐘で消えるけどねぇ!」
「畜生! そんなことだろうと思ったよ!」

 ……魔女の魔法ってだいたい期間限定だよな。

 とりあえず俺はサーニャの持っていたクッキーを、地面に叩き落とした。

 割れて周囲に散らばるクッキーの欠片。

「あっ……」
「それ食べたらダメだ。深夜十二時に腹の中でカビたパンに戻るぞ」
「ケッケッケ、その通りさ。でもそれまでは美味しいクッキーだからねぇ、普通のパンをクッキーにして食べさせれば甘くておいしい。食べても問題ないだろ?」

 なるほど。つまり食える物を魔法でクッキーに変えれば、食べる時はクッキーとして楽しめるのか。

 食べた後にクッキーがパンに戻っても、味わった後だから関係はない。

「あれだな、消費期限当日限りの食べ物と考えればよいと」
「ケッケッケ、もう少し夢のある言い方はできないものかい? 合ってるけどさ」

 そのうち魔女のスイーツ店がオープンされるのだが、商品はすぐ溶けるのでその場で食べるしかないアイスクリームになったのだった。

 クッキーとか売ったら、絶対持って帰って魔法が切れて文句言うやつ出てくるから仕方ないね。

「ひらめいたんだが、毒薬を魔女の魔法でスイーツにしてさ。政敵に飲ませたら完全殺人できるのでは?」
「だめ、ぜったい」
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