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村発展編
18話 次の敵
しおりを挟むアリアたちを木偶の棒以下に認定した後、王都から自分たちへの村へと戻った。
出店についてはまたそのうち改善案を考える。とりあえず飲み物を商品に追加はした。
そこから数日経って家で実験をしていると、アリアが一枚の封筒を持ってきた。
「スグル、近くの町の領主があいさつに来いって手紙が来た」
「近くの町……ここと王都の間にあるところか」
たしか名前はジュラだったか。
人口二千ほどの普通の町で特筆すべきところもない。
特に交易するメリットも見つからなかったので、完全に頭から消し去っていた。
アリアに背を向けて実験を続けたまま答える。
「今後もよろしくするつもりはない。行く意味はないな」
「おそらくだけど文章を見る限り、こちらを完全に下に見てる。献上品を出せと書いてあるし」
「なおくだらん。破いておけ」
「待って。この村に来ている商人に圧力をかけられるかも」
……それは面倒だな。どうとでもなるがまた新しい人脈を作るのが。
私にデメリットが生まれそうな話なので実験の手を止める。
「ならばしかたない。滅ぼすか」
「発想が極端」
ジュラの町はおそらく私の村を見て手紙を出したのだろう。
立体実物作成機によって、すでに宿屋や酒場の建物がいくつか完成している。
金を絞れる対象と見たか、こちらの発展の速度に恐れを感じたかは知らないが。
私たちを利用して成り上がる発想ではなく、自らを滅ぼすことを選択した者の町など不要だ。
「言っておくが私は誰が相手であろうと、頭を下げるつもりはない」
「一度会ってみるべき。そこで判断する」
「……やれやれ。有事の際に転移ポータルを置くメリットはあるか」
時間の浪費にしか思えないがしかたない。
どうせなら最初から侵略しに来てくれればいいものを。そうすれば合法的に殴り返せるのに。
行政に関わる者はだいたい話が回りくどいし、遅々として進まないから嫌いなのだ。
「どうせ俗物の類だ。私の顔写真を貼り付けた木偶の棒に向かわせても、気づかないのではないだろうか」
「スグル、諦めて行こう」
「……しかたない。アダムを連れて向かうか」
「アダムはダメ。暴走する可能性がある」
「いいではないか。そのほうがおもしろい」
アリアから睨まれてしまった。別に怖くもなんともないが。
しばらくの議論の後、アダムは留守番になった。あいつが暴走すればそれはそれで一興なのだが。
しかたがないのでリタを代わりに呼び、村の入り口へとやってきた。
「リタ、お前はアダムの代わりだ。ジュラの町で暴走しろよ」
「命令おかしくない!? 大人しく護衛しろじゃなくて!?」
「お前に私の護衛が務まるわけないだろ。寝言は寝て言え」
「うわーん! アリアァ!」
若干涙目なリタに抱き着かれたアリア。彼女は抱き着いてきた相手をよしよしとなだめている。
「事実を言っただけだろうが」
「真実は時として傷つける。スグルは少し気を付けるべき」
「……ボクはアリアの言葉もつらいよ」
そもそもリタは私ではなく村の護衛だ。
別に私を守ってもらう必要も期待もしていない。
飛行車を目の前に転送し、彼女たちに乗る様に促して私も運転席のドアを開けた。
「ではジュラの町へ向かうぞ」
アリアとリタが乗り込んだのを確認して操縦桿を握った。
だがリタが挙動不審に周りをキョロキョロと見ている。
「ほ、本当にこれって空を飛ぶの……?」
「高所恐怖症か? それなら処置するが」
「しょ、処置って……」
「意識がなければ恐怖もあるまい」
「ボクはスグルが怖いよ!? 空を飛んだことないから、ちょっとドキドキしてるだけ!」
どうやら特に問題はないようだ。もし戻しそうになったら気絶させよう。
車を動かしてジュラの町へ向けて飛び立つ。
馬車で三日ほどの距離なので飛行車ならば五分でついた。
町の近くに車を着陸させて、全員降りた後に異空間へと転送した。
「す、すごいね……あんな鉄の塊が空を飛ぶなんて。しかもすごく速いし」
「飛ぶように作っているのだから当たり前だ。それよりも攻撃目標についたぞ」
「交渉に行くんだよね!?」
交渉も攻撃みたいなものだ。血が流れるか金が流れるかの違いである。
力を見せつける意味でホバーブーツを起動し町の門へと向かった。
一応は二千人の町だけあって、ちゃんと門番がいる。装備自体は王都のほうがよさそうだが。
私たちに気づいて近づいてくる。
「ここはジュラの町です。何の御用でしょうか?」
「この町に攻撃しに」
「町長に呼び出されてきました。スグル村の者と伝えてもらえれば分かると思います」
私の言葉を遮るようにアリアが声を出す。
門番は話を聞いていたようで、町長の屋敷へ行ってくださいと言われる。
道を教えてもらって町に入り、言われた通りに進んでいく。
「やはり王都のほうが店も多いな」
「そうだね……ところでスグルが浮いてることで注目を集めてるんだけど」
「私の科学技術を目の前にすれば、凡人はどうしても見てしまうからな」
別に目立ったところで問題はない。
どうせなら王都みたいに誰か仕掛けてこないだろうか。そうすればこの町に対して、正当に反撃できるのだが。
「スグル、魔術師に仕掛けてくる人はいない」
「それは残念」
しばらく彼女らと歩いていると、町長の屋敷に到着する。
それなりの屋敷の門前にいる二人の護衛にアリアが話しかけた。
「スグル村の者です。町長にお目通りしたいのですが」
「しばし待て」
護衛の片方が屋敷へと入っていく。しばらくすると戻ってきて、こちらに対して偉そうな目と言動で声を出す。
「町長はお会いになるようだ。だが予定よりも早くてご立腹だ、これだから田舎者は」
門番のくせに偉そうな態度だ。少しばかり仕置きをしようと右手を動かすと、アリアが手を添えて首を横に振ってくる。
仕方がない。今回はアリアに従うか、こいつの顔を覚える価値はないが写真にとっておこう。
門番について屋敷の中に入り、廊下を歩いて金属性の大きな扉を持つ部屋の前へと案内された。
「町長様! スグル村の者たちがやって参りました!」
「入らせろ」
門番はその言葉に頷いてここから離れていく。
おおよそ高さ三メートルの金属製の分厚い扉を開けて入れということのようだ。
「えっ……僕たちより大きい金属の扉を自力で開けろって……そんな無茶な」
「くだらんな」
こんな扉を置いてる部屋を普段から使うわけがない、凡人には開けるのも大変だろう。
完全に嫌がらせ用で準備しているのだ。
右手にのみ外部装甲を展開し、扉の取っ手を掴んで無理やり引っ張る。
装甲により増強された力によって、扉は付け根から壁に外れた。
それを軽く廊下に放り投げる。地響きを鳴らしながら扉が床に叩きつけられた。
扉がなくなったことで中にいる者が見える。ちょび髭金髪で少し太り気味の中年男性が、少しばかり豪華な椅子に座っていた。
服装がそれなりなことを見ると町長だろう。
扉を投げ飛ばした私を指さして唖然としている。
「なっ、なっ」
「……こんにちは。スグル村の者です、本日はお招きありがとうございます」
アリアが少しばかり不機嫌そうに言葉を述べる。
彼女も先ほどからの態度は少し不愉快なようだ。
しかし私の村の近辺にはろくな集落がないな。隣村といいジュラの町といい、まともな長がいない。
中年の男は焦っていたが落ち着いたようで、私たちを見て咳払いをした。
「ようこそ、ジュラの町へ。私は町長のステゴノ・ジュラだ。長旅で疲れただろう、お茶を用意しよう」
中年男はメイドを呼んで、紅茶を用意するように指示した。
私の力を見て怯えているのだろう。単純だがここで逆らわないだけ、救いようのない馬鹿ではないらしい。
「ど、どうぞ。そこの椅子にお座りください」
中年男と机を挟んで対面する座席を、男が座るように言ってくる。
逆らう必要もないので、私とアリアは席に着いた。リタは護衛のため傍で立っている。
話し合いと言う名の交渉が開始された。
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