38 / 53
村発展編
38話 寄生人草(後編)
しおりを挟む王都にある城の玉座の間。
そこでは王とその側近たちが深刻な顔で話し合いをしていた。
「どうなっておる! なぜ余に逆らう町などできておる! 暗部を放ったし、軍も差し向けたのじゃろうが!」
玉座に座った王は中身の入ったグラスを床にたたきつけ、ワインが絨毯に吸い込まれる。
側近たちはそれを冷や汗をかきながら見ていた。
王のすぐ横に立つ財務卿が口を開く。
「敵対者がかなり強力なのです。救国の乙女と祭り上げられた少女を旗印に、貴族でも裏切り者が出ている始末でして」
「何が救国か! 余に逆らうなど悪でしかない! 即刻滅ぼし、そいつを余の目の前に連れてこい!」
「……現状では難しいでしょう。あの町に出す戦力がありません」
「なんじゃと!」
「ですが一つ方法があります」
財務卿は常人ならば恐ろしく感じるであろう、背筋の凍るような下卑た笑みを浮かべる。
だが王も他の側近たちは気づかない。
「ほう。それはなんじゃ?」
「伝説に伝わりし悪魔を復活させるのです。彼らは恐ろしく強く、そして忠誠心もある極めて優れた生命体。復活させたとなれば、恩義に感じて王の望みを叶えてくれましょう」
「しかし伝説の存在じゃろ? 復活などできるのか?」
「すでに方法も確立しております。実際に蘇った例もありますゆえ」
「そうかそうか! やはりそちは優秀じゃな財務卿!」
王の機嫌が直って側近たちは胸をなでおろす。
だが彼らは最悪の選択をしてしまった。財務卿が再び邪悪な笑みを浮かべるのであった。
~~~~
飛行車にリタを乗せて、寄生人草《パラサイトフラワー》が発生した村へとやってきた。
完全に寂れていて建物などもボロボロだ。
件の植物が現れた時から放置されてるから当然ではあるが。
「ふむ。普通の村だな」
「特に変わった物はないと思うよ。……結局アリアを放置しちゃったけどいいのかな」
「構わん。アリアならば問題ない」
何やら不安そうなリタに宣言する。
護衛としてアダムや暗殺部隊ケチャップズもいるのだ、特に問題はない。
変な植物ということで地面を調査するが、特に種子などの類は落ちていないな。
「寄生人草はどこだ?」
「村の北のほうだよ。……近づいたら寄生された村人たちが襲ってくる」
ゾンビ映画みたいだな。どうせなら夜のほうが盛り上がったのだが。
残念ながら今は昼下がりである。いや寄生人草も植物ならば太陽が出ているほうが動けるか。
ホバーブーツを起動して、昔の映像で見た暴走族に負けぬ爆音を鳴らしながら北へと進む。
「ちょっ……いつもよりうるさくない!? 静かにしないとバレちゃうよ!」
リタが近づいてきて顔を耳元に近づけて小さな声を出す。
いつもよりうるさいのは気のせいではない。普段と違ってノイズキャンセラーを切っているからだ。
植物に音楽を聞かせると成長が促進する話もある。寄生人草も音で獲物を探っているかもしれない。
しばらく北の森の中を進むがまだ件の植物は現れない。
「むしろバレるようにしている。データを採る必要があるからな」
「……そうだよね、スグルなら襲われても勝てるもんね」
「当たり前だ。しかし派手に音を出しても来ないな」
「以前はここらへんで寄生された人を見つけたんだけどね。そこらを徘徊してるから……」
リタが銃を構えながら不安そうな表情でつぶやく。
発見現場で派手に音を立てているが寄ってこない。音では獲物を感知していない可能性があるな。
そうなると他には……。
「リタ、ちょっとそこらで筋トレしろ」
「寄生人草がそこらにいるかもしれない場所で!?」
「汗や体温に反応して寄ってくるかもしれん」
蚊などは二酸化炭素や汗で寄ってくる。以前のリタが気づかれて、今は感知されていない理由はそれかもしれない。
今の彼女は私がいるので、不安そうではあるが落ち着いている。呼吸なども正常の回数だ。
以前に来た時はもっと焦っていたと容易に想像できる。
「早くしろ。しないならば構わないが、その時はマジックハンドでくすぐってやる」
「な、なにか知らないけどわかったよ……何でこんなところで……」
リタは地面に手をつけて腕立て伏せを始めた。それと共にホバーブーツの音を消す。
彼女の呼吸音だけが周りに静かに響く。
少しずつリタの身体に汗が見え始め、呼吸が荒くなってくる。
「……ねえ、あまりまじまじ見ないで欲しいんだけど」
「研究のためだ。それとよかったな、以前よりもわずかだが胸が大きくなっているぞ」
「余計なお世話だ!」
リタが腕立てを続けながら叫ぶ。
せっかく喜ぶ情報を与えたというのに。女は胸の大きさを気にするはずだろう。
「こんなの本当に意味が……ッ!?」
森の茂みから男性が現れてリタは言葉を途中で止める。
服は擦り切れ、髪もボロボロで木くずなどが大量に混ざっている。
においも臭いので全く身体を洗っていないようだ。寄生相手の綺麗さなどに興味はないということか。
顔も死んだように生気がないが、こちらに対して両手を向けて弱々しく構えている。
「現れたな。やはり体温の類で感知しているようだな」
「お父さん……」
二十人ほどの村ならば、寄生された人間は全てリタの知り合いだろう。
すごいな、私はこんな状態になった知り合いなど判別できる自信がない。
寄生された男は掠れたような声を出して、こちらに襲い掛かってきた。
自動展開された電磁障壁に阻まれるが、見えない壁を気にせずにこちらに近づこうともがいている。
どうやら知性はかなり低いようだ。電磁障壁のことを認識できていない。
「うぅ……優しかったお父さんが……」
「感傷に浸っている暇があったらよく見ておけ」
空中にコンソールを展開して叩くことで、寄生された人間の周りに高重力を発生させる。
男は立っていられずに地面に膝から崩れ落ちてうつ伏せに倒れる。
その隙に身体を完全スキャンすると、後頭部と首の間の箇所に小さな植物が生えているのが確認できた。
これが脳髄などに影響を及ぼしているのだ。当然と言えば当然の箇所だ。
私はその箇所に注射器を投げ、狙い通りの箇所に針が刺さった。
「えっ……何をしたの?」
「すでに寄生人草は分析した。人体には無害な除草剤で草だけ殺す」
注射器から薬品が投入されていく。男はか細い悲鳴をあげると動かなくなる。
それと共に生命反応が急激に下がっていく。
寄生主が死ねば身体の生命活動も停止するのだろう。だがそれでは困るので、倒れた男に小さな手のひらサイズの袋を投げた。
それは大きく広がって男を包み込み、内部に培養液を充満させる。
「な、なにこれ……」
「超強力な栄養剤などを含んだ培養液だ。これに包まれていれば死にはしない」
寄生されていたことで自身での生命活動の維持機能がマヒしている。
だがしばらくすれば動き始めるはずだ。生物の力は思ったより強い。
本来は悪魔に寄生された人間を死なせないためのモノだったが。
リタは袋に包まれた男を見ながら、地面にへたりこんで涙ぐんでいる。
「感傷に浸るなと言っている。全て捕獲してからだ」
「うん……うん……!」
リタは拭っても止まらない涙を流しながら返事をする。
しかし弱ったな。サンプルに一体くらいは確保したいが、脳髄にまで浸食していては摘出時に寄生先の身体は死ぬ。
この村の人間はリタの知り合いだ。摘出すれば彼女の不興を買ってしまう。
……寄生人草のサンプルとリタの忠誠。天秤にかければ後者のほうが重要か。
しかたがないので寄生人草は諦めるとしよう。
茂みから更に複数の人間が現れた。リタが泣いていることで、二酸化炭素などが多く吐かれて格好の獲物になっているようだ。
「後は繰り返すだけの単純作業だな」
次々とやってくる人間たちを先ほどと同じように処理。
襲撃が終わった後にはちょうど村の人口の二十人を処置した。
「これで村人は全員か?」
リタは感極まって喋る余裕もないようで、必死に頷き返してきた。
彼女の願いはかなえられた。今後は私に恩義を感じて大抵のことでは離れないだろう。
そんなことを考えていると、森の木々をかき分けて全長四メートルはあろうかという花が移動してくるのが見える。
信じられないことに根を百足の足みたいに動かして歩いている。
「こいつらに種子を植え付けた植物はあいつか?」
「う、うん……! あれが寄生人草《パラサイトフラワー》の本体だよ!」
巨大な花はこちらに向けてツルを伸ばしてくる。
うーむ……何というか。食虫植物ならぬ食人植物か?
いつものように電磁障壁に防がれるが、そこで驚く行動をしてきた。
何と電磁障壁に種子を植え込もうとしてきたのだ。無論、その程度で破れるわけがないので種子は地面に落ちる。
「ふむ。種子があるならばお前は不要だな。どちらにしてもこんな植物を育てる自信はない」
コンソールを叩いて兵器を呼び出す。
先端がラッパのような形状をした特徴的な砲台が、そばの地面に出現した。
「拡散熱線放射器だ。植物ならばよく燃えるだろう」
私の命令に従って砲台から強烈な熱波が発射された。
それは寄生人草の本体を飲み込み、一瞬で蒸発させて跡形も残さない。
大きくて動いたとしてもしょせんは草である、植物である。
寄生人草《パラサイトフラワー》が存在していた箇所を茫然と見つめるリタ。
そんな彼女に私は口を開いた。
「これでお前の悩みは解決した。村人は我々の町で暮らせるようにしてやる」
「あ、ありがとう……本当に、これしか言えないけど」
「礼を言う必要はない。私にとっても都合がいいだけだ、この借りはお前の身体で払ってもらう」
「……わかった」
リタが親や同じ村人が住む町を捨てることはないだろう。
つまりは彼女をアリアの元に完全に縛れる。今まで育成のためにそそいだリソースがムダにならないということだ。
リタを今後もずっとアリアの護衛としてつけさせられる。
ずっと礼を言ってくるリタを流しながら、狙い通りの結果に満足するのだった。
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる