天才科学者の異世界無双記 ~SFチートで街づくり~

クロン

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村発展編

39話 緊急通信

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 寄生人草を焼却した後、無人の村に戻って寄生された者たちの回復を待った。
 ナノマシンも複合している特殊培養液に全身を浸していたが、最低限動けるようになるまで三時間かかってしまう。
 神経系の弱体と栄養失調だった肉体を治すだけにだ。
 もう少し改良の余地はありそうだ。理想は注入すれば一瞬で身体を治すレベルである。
 ようやく全員が意識を取り戻し、移動にも耐えられそうなので私たちの町へ戻ることにする。

「ここに転移ポータルを置くメリットは薄いな。大勢となると携帯転移装置では厳しいので、ヴィントで運ぶことにする」
「あの巨大なやつ? でも全員乗り込むのは無理じゃないの?」
「コンテナを曳かせるから問題はない」

 論より証拠。ヴィントとそれに劣らない大きさの牽引用のコンテナを近くに転送させる。
 村人たちは巨大なモノが急に現れたことに恐れおののく。

「ひいっ!? あ、あれは……!?」
「か、神じゃ! 伝説に伝わりし巨神様じゃ!」
「な、なんと!?」

 彼らは地面に膝をつけて祈り始めた。
 私のヴィントを神に見間違うとは。二十五メートルの巨体では仕方ないのか。
 だが以前の敵兵どもよりはよっぽど見る目がある。
 私はコンテナの入り口である扉を指さした。

「あそこからあのコンテナの内部に入れ。ヴィントが貴様らを運んでやる」
「きょ、巨神様が我々をお救いに……!? あ、貴方は寄生人草から我らをお救いしてもくださった……神の使い様ですじゃ!」

 老人が私に対しても拝み始めて他の者もそれに続く。
 うーむ……必要以上に神格化してもらう必要はないのだが。
 どうせならアリアが神扱いしてもらえたほうが都合がいい。
 
「リタ、勘違いを解いて……何をやっている」

 リタも他の村人と同じように膝に地面をつけて拝んでいた。
 私の言葉に彼女は愛想笑いを浮かべる。

「あはは……ボクもスグルが神様なんじゃないかと思い始めて」
「お前は今まで何を見てきたのだ。私は……」
「科学者、でしょ?」
「わかっているならばいい。さっさと村人をコンテナに乗せろ」

 リタは頷くと村人たちをコンテナ内部へと案内していく。
 おっと、どうせならばこの村人たちに都合のいい認識を植え込んでおこう。

「待て。私はとある者に遣わされてこの村を救った。貴様らを救ったのはアリア、今から向かう町の長だ」
「アリア様というお方が我らを……」

 村人たちは心に刻み込むようにアリアと呟き始める。
 よし、これで救国の乙女作戦が一歩進んだ気がする。
 聖女というより神様的に崇められそうだが、誤差の範囲としよう。
 その様子を見ていたリタがボソリと声を出す。

「アリアが聞いたら怒りそう……」
「致し方ない。あの町に二人も祭られる存在は不要だ」

 私まで神扱いされてしまっては、下手をすれば勢力が二分化されかねん。
 それに何より神扱いされるなどごめん被る。
 そんなことをしている間に村人たちはコンテナに乗り込んだ。
 これでヴィントが発進すれば牽引ができる。紐などでくくられてはいないが、超磁力によってヴィントとコンテナは繋がっているのだ。
 リタの腕を掴んでヴィントの操縦席に転移する。

「よし。では戻る……む? アダムからの通信か」

 ヴィントの操縦席のモニターにアダムの姿の映像が出る。
 何かあったのは確かだ。アンドロイドであるアダムが、暇つぶしなどで通信をしてくることはな い。
 というか通信してくるのに内心かなり驚いている。アリアの護衛を命じていたが、何かあれば連絡しろとは言ってなかったのだが。

「何があった?」
「マスターにご報告。アリアが変態して消えた」
「……本当に何があった」

 アダムは多少は命令への対応力なども上がったが、伝える能力や認識力は基本的にはまだ人間に劣る。
 たまに二千年代の翻訳機のような言葉を繰り出すのだ。
 彼女から真相を聞き出すのは骨が折れる。
 どうするか考えているとリタが横から口を挟んできた。

「アダムって難しい子だよね……うまく命令聞いてもらえないし、質問しても返ってくる内容がよくわからないし」
「それはお前が使いこなせていないだけだ。どういうことか映像を送れ」
「えっ!? それずるくない!?」

 ずるいわけないだろう。わかれば何でもいいのだから。
 アダムから送られてきた映像がモニターに流れる。
 走っているアリアの後ろ姿が見える。どうやらアダム視点の映像でアリアを追いかけているようだ。
 当然だがアダムが本気を出せば、そこらの少女が走る速度など相手にならない。
 護衛のためについていってるだけだろう。

「アリアどこまで走る? 町の外まで出てしまっている」
「……わからない。どうすればいいと思う?」

 アリアは足を止めて立ち止まった。
 その目にはわずかに涙が溜まっている。おそらくだが私と別れてすぐの映像、今から一時間前あたりだろう。
 アダムは黙ってアリアを見つめていたが、急に空中へと視点が変わった。
 
「アリアまずい。悪魔と呼称される存在が多数こちらに近づいてる、町に逃げることを提案」
「えっ……悪魔が多数って……具体的な数は?」
「三十いる。あれに襲われたら守り切れない可能性がある」

 アリアはその言葉に珍しく表情を強張らせた。
 三十体の悪魔となると厄介だな。私でも手こずるかもしれない。
 
「……スグルは町にいる?」
「今はいない。リタと一緒に遠く離れた場所にいる」

 ……私がいない間にこんなことが起きていたとは、何ともタイミングが悪い。
 確かに悪魔を復活させる方法は簡単だ。そこそこの魔法使いを数人集めて、魔法を使わせれば場所次第で蘇生する。
 だが三十体もまとめてやってくるならば、何かしらの前兆があると踏んでいた。
 そこから迎撃すれば間に合うと思って、リタを連れて遠出してしまった。
 これは私のミスだ。
 
「アダムは悪魔三十体に勝てる?」
「不明」

 アダムは戦闘に特化させていない。
 数体なら楽勝だが大勢が相手となると実際勝敗は予想できない。
 そして彼女はさらに報告をする。 

「警告。悪魔たちは真っすぐこちらに向かってきている。すぐに逃げることを推奨」
「……町ではなくてこちらに真っすぐ? 私かアダムを狙ってきている?」

 以前の悪魔たちの言葉を思い出す。奴らはアリアを見て、王の復活の苗床と言った。
 アリアを狙うことにメリットがあるのだろう。
 その言葉もあってアダムを護衛につけたのだが、三十も悪魔が襲撃してくるのは想定外だ。
 
「ミツケタ」

 上から声がする。映像に上空にいる大量の悪魔たちが映し出された。
 黒い身体を持った者たち、だが一体だけ真っ白な色をした個体がいる。
 アルビノなどの特殊な存在だろうか。 

「……あなたたちの狙いはなんですか?」
「オマエダ、ムカエニキタ」

 声の震えているアリアの問いに投げ返したのは白い悪魔。
 やはり狙いは彼女か。
 
「逃走は不可能と判断。迎撃する」
「アダム、待って。ここで貴女と悪魔が暴れたら町にも被害が出る……!」

 アリアは戦闘態勢に移行したアダムに制止の声をかける。
 彼女の言葉は正しい。ここで三十の悪魔とアダムが全力で戦えば、スグル町は甚大な被害を受けるのは確実だ。
 避難誘導もできていないので人的被害も酷いことになる。
 だがどうするつもりだというのか。

「……私が大人しく捕まったら、あの町に被害を出さないですか?」
「アクマはケイヤクを守ル。テイコウしなイなら町襲わナイと約束スる」
「なら私を連れていきなさい。アダム、貴女も彼らに攻撃しないで」
「分かった」

 分かるなよ馬鹿者が。町はいくらでも立て直せるが、アリアのスペアはないのだぞ。
 だが映像相手に心の声が伝わるわけもなく、白い悪魔に両腕を掴まれて空へと運ばれていくアリア。
 彼女は小刻みに震えていた。どうやら柄にもなく怖がっているらしい。

「……大丈夫。きっとスグルが助けてくれるから……これが最善」

 悪魔たちはアリアを連れて遥か上空へ飛び立っていき、そこで映像は途切れた。
 どうやらこれがことの真相か。
 …………これは完全に私の失態だ。悪魔のことを心のどこかで希少種と思っていた。
 一匹見れば三十はいるとゴキブリのように考えておけば、こんなことにはなっていない。

「スグル! アリアを助けないと!」

 リタが操縦席に座った私の身体を揺すってくる。
 そんな当たり前のことは言わなくていい。
 常にGPSを持たせていたため、アリアの位置はわかっている。
 現在は……王都のようだ。

「リタ、お前はヴィントを使って村人たちを町へ運べ。私はアリアの元へ向かう」

 返事は聞かずにヴィントの操縦席から王都に転移する。
 転移ポータルがある場所にいるのは幸いだった。
 この非常事態では村人のことなど後回しだ。

「えっ!? ボクこいつの操縦方法なんて知らないけど!?」

 何やらリタが騒いでいたが知らん。
 操縦方法はいくつかあるので、てきとうにやっていれば何とかなるはずだ。
 今回は私の失態だが取り返しはまだきくはずだ。何としてもアリアを奪還してやる。
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