天才科学者の異世界無双記 ~SFチートで街づくり~

クロン

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村発展編

50話 元の世界に

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 アリアとの国一周旅行を終えて二人で自宅に戻ると、リタがすでに家の中でくつろいでいた。
 最後の一日はリタも再びやってくると聞いていたが……。
 そもそも個別面談の予定だったのだが、やってることはデートのようなものだったな。
 そして最後の日は何をするのかと思っていたが……。

「スグル、農作物の育て方や肥料を教えて」
「このデータを送って……通信端末を持っていなかったな。しかたない、紙に書きだしたレポートを作ってやる」
「兵士を強くする方法とかないの? それと優れた戦術とか」
「歴代の優れた戦術一覧や兵士鍛錬のデータをやる」

 どうやら富国強兵のための情報収集のようだ。
 私はデータベース扱いで様々なことを調べさせられた。
 やはり彼女らはしたたかである。様々な情報を書類、もしくは本として印刷したのでかなりの力になるだろう。
 知は力である。ましてや中世ほどの文明の世界だ、未来の知識は恐ろしく有効だ。
 うまく活用すれば他の国に対して文明レベルに差をつけられる。
 そうこうしている間に日も暮れて夜の十一時となった。
 残り一時間、それで私は元の世界に帰る。
 ずっとデータを見て疲れたので、椅子に座って一息つき眼球休養用の目薬を使用する。
 結局今日は一日中自宅にいたな。最後くらいは外を見回ってもよかったのだが。

「スグル、ありがとう。もらった情報は必ず役に立てる」
「当然だ、そうでないなら私が徒労になってしまう」

 アリアが近くに寄ってくる。
 まさか最後の最後にこき使われるとは思っていなかった。
 これでムダにされたら時間を返せと言いたくなる。
 
「情報の管理はしっかりしておけ。この時代ならば金山よりも価値がある」
「わかってる。ケチャップズに守ってもらうつもり」

 私が洗脳もとい調教した諜報集団ケチャップズか。
 奴らならば裏切ることはないから問題ないだろう。驚いたのだが今の奴らは洗脳ではなく、自らの意思で従っている。
 試しにリーダーの洗脳を解いてみたが裏切らなかった。
 むしろ本人の希望でまたかけ直したくらいだ。
 今の給料と待遇に満足しているらしい。
 アリアたちは信用できる部下はいないに等しいので、ケチャップズが決して裏切らないのは嬉しい誤算だ。
 
「ボクも軍隊訓練とかの本を読みこんで頑張るよ。隊長とかあまりガラじゃないけど……」

 確かにリタの言う通りだ。
 まさか彼女が近衛騎士団の隊長になるとは思わなかった。
 適正的には部隊長あたりが限界と思っていたが……やってやれないことはないと踏んでいる。
 優秀ではないが無能でもない――並の指揮官程度はできるはず。

「問題ない。木偶の棒を大量に作って数で蹂躙すれば、指揮能力が多少低かろうが勝てる」
「それって隊長としてどうなの……」
「勝てればいいだろう。木偶の棒なら壊れようがすぐ作れる」
「……そうだね。でもボクももっと強く、賢くなってみせるよ」

 拳を握りながら宣言するリタ。
 故郷の村を救った後も強くなるモチベーションはあるようだ。
 これならば心配ない。

「期待している。ではそろそろタイムマシンを用意するか。室内では転送できないので外に出るが、お前たちはどうする? もう遅いからここで別れても」
「「最後まで見送る」」

 ついてくるらしいので二人をつれて自宅を出る。
 少し歩いて町の外にある近くの森にやってきて、開けた場所にタイムマシンを転移させた。
 見た目は完全に自動車であるタイムマシンが目の前に現れる。
 元々は小舟の形をしていたが修理時に今の形におちついた。
 車デザインな理由はたまたま持っていた車体のガワだけ再利用したためだ。

「……本当に帰っちゃうんだね」
「ああ。またいつか来る予定だが」

 今度この世界に来る時はもっと様々な物を持ってこよう。
 戦闘用ロボットや衛星兵器、薬物の類も多種多様に用意するか。
 必要最低限しか用意しなかったせいで、かなり大変な目にあったからな。
 まさか木でロボットもどきを作る羽目になるとは思わなかった。
 わりと面白かったのでいいのだが。

「リタ、お前は銃も上達したし指揮も問題ない。アリアをカバーしてやれ」
「……うん」

 リタが目を手でこすりながら返事をする。
 やはり泣かせてしまっている。どうすればよかったのだろうか。
 身体の水分を抜く装置でも作っておけば……それでは干からびてしまうか。
 
「アリア、お前は王を遂行してみせろ。リタやケチャップズを使ってな」
「わかってる」

 アリアは私の目を見て答える。
 無表情のようだがやはり目に少し涙が溜まっていた。
 もう話す時間はないので運転席の扉を開いて乗り込む。
 アダムにも乗るように指示を出そうとすると、すでに私の横の助手席に乗り込んでいた。
 ……勝手に判断するとは。本当に成長しているな。
 少し驚きつつもタイムマシンを起動し、時空跳躍装置を発動させる。
 
『タイムワープを開始。空間歪曲を開始します、跳躍まで残り三百六十秒』

 アナウンスと共にタイムマシンの周りに、強力な電磁波が展開される。
 人が触れば一瞬で黒焦げになって死ぬほどの力だ。
 この時点でもうタイムワープの取り消しは出来ない。
 事前に伝えていたので、アリアとリタは遠巻きにこちらを見守っている。
 私は窓を開いて、そんな彼女らに改めて話しかける。

「ではこれで失礼する。……最後に、この世界に来たこと。そして君たちに出会えたことは私にとって……」
 
 最後の別れの言葉を告げようとする。
 だが――それを遮るように、タイムマシンからけたたましい警告音が鳴り響く。
 それと同時に夜の空が、月が真っ赤に染まった。

「な、なに!?」

 リタが焦りながら銃を手に取って周囲を警戒する。
 夜の闇は消えて周りの風景は赤に照らされる。
 日食の現象だろうか、だが今は夜な上にそんな周期でないことは確認済みだ。
 そんな磁場が乱れそうな時に帰還を試みはしない。
 つまりこれは……私の理解の埒外の事象。おそらく魔法による何かだ。
 様々なセンサーを最大出力で起動し可能な範囲の情報を探る。
 磁場、気温、海温異常なし。空気中の酸素濃度異常なし。
 その他様々な内容を計測すると、二つのセンサーにおかしな反応が出た。

「……空気中の魔力濃度、異常値を計測。悪魔センサーに千体の反応あり……か」

 ……この二つの異常値から推論するならば、魔力が世界に充満して眠っていた悪魔が大量に蘇ったということか。
 どうやって行ったのか……いや、そんな推察をする時間はない。
 私の作った装置に誤作動はあり得ない。ならば悪魔たちが大量に出現した。
 奴らはアリアに執着を持っていたので守らなければならない。
 だがすでにタイムワープは行われている。
 中断はできないしタイムマシンから降りることもできない。
 時空跳躍のために捻じ曲げられた電磁波は、人間の身体では到底耐えられない。
 例え電磁障壁があっても無理だ。
 可能性があるとするならば……私は横にいるアダムに命令しようとする。

「……アダ……ム」

 すでに私の横の席は無人だった。
 外を確認すると全身が黒焦げになり煙をあげて、更に片腕を失くしたアダムがタイムマシンにそばに立っている。

「マイマスター、これよりアリア様とリタ様の護衛に入ります」
「……任せた」

 驚きで少し遅れつつも返事をする。
 ……フルスペックのアダムなら悪魔相手に後れを取りはしない。
 しかし今の彼女の損傷を見ると甘く見積もっても四割の力だ。
 大量の悪魔に襲われれば守り切れない。
 それでも、木偶の棒とは比べ物にならない戦力だ。アダムの判断は決して間違っていない。

『時空跳躍まで残り十秒』

 時空転移が更に進行し、タイムマシンからこの世界に滞在できる――彼女たちに話せる残りの秒数が報告される。 
 もうやり取りする時間はない。窓からアリアたちに方へと向いてこちらから一方的に命令、いや願いを告げる。

「アリア、リタ。必ず戻る。一秒でも長く生き残れ」

 それと同時に時空跳躍が発動し、周囲が完全に闇に包まれる。
 彼女らの返答は聞けなかった。だが――最後に頷いたように見えた。
 ……どうやらすぐに戻る必要性が出来てしまったようだ。
 磁場が安定しない時代は無理では済ませない。
 必ず彼女らの元へと向かうのだ。
 
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