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「あの」
  握手しながら小太刀の妹はおずおずと言う。
「佐竹さんですよね?」
「ああそうだけど……君かい? 小太刀君の妹さんは?」
「はい、小太刀 めぐみです。あのう……兄から、何か失礼なメールでも来ませんでしたか?」
「え? いや、メールは確かに来たが、特に失礼な内容というものでもなかったよ」
  多少変わってはいたが。
「兄が何を言ってきたか知りませんが、どうか忘れてください」
  忘れろって? 
「あたしが月へ来たのは、成瀬教授の指示で、父の事とは何も関係ないんです」
 ああ、そういう事か。
 小太刀兄妹の父は月で殉職した。言ってみれば英雄だ。その事で周囲から特別視されてきたのだろう。
 だが、それは同時に周囲からの妬みも買う。
 この若さで月基地勤務が決まった事でやっかむ奴もいたのだろう。実力もないくせに、殉職した父親の遺志を受け継ぐ娘という美談で選ばれたとか。
「大丈夫だよ。メールはごく普通の挨拶だ。むしろ友人の職場に自分の妹がくるのに黙っている方がおかしいだろう」
「はあ、そうなんですか?」
「だが、僕は決して君を特別扱いしないから覚悟してくれ。ドジを踏んでも『てへ』と笑ったって誤魔化されないよ」
「あたし、そんな事しません」
「分かっているって」 
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