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「これが録音されたのは、ちょうど空気漏れが始まった時刻なんだ」
 男は通信機のタイマーを指差した。
「という事は、ハンスという男は穴の近くにいたんじゃないのか?」
「私もそう思うんだが、問題はその後だ」
 ゴーと風の音が続いた後、突然人の声がスピーカーから流れた。
『バケモノ!!』
 ハンスの声だった。そして録音はそこで終わっていた。
 バケモノ? ハンスはいったい何を見たんだ?
「例の奴か?」
 僕の質問にカナダ隊の男は首をすくめる。
「分からん。だが、ハンスは何かに襲われたんだ。これ以上先へ進むのは危険だ」
「見捨てるのか?」
「しかたあるまい。我々は武器になるようなものを持って……おい君! よせ」
 男の視線は僕の背後を向いていた。
 振り向くと、小太刀珠が洞窟の奥へと向かうところだった。僕は慌てて追いかけたがなかなか追いつけない。
「小太刀君。よせ、戻るんだ」
 彼女は振り向いて言う。
「なんで戻るんです!? この奥に遭難者がいるんですよ。あたし達は救助に来たんじゃないんですか?」
「そうだけど。今の話を聞いただろ。ハンスは何かに襲われたんだ」
「そうでしょうか? あたしは違うと思います。きっと何かを見間違えたんです」
「なぜそう思う?」
「女の勘です」
「話にならん」
 彼女はかまわず先に進む。
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