243 / 893
第八章
Pちゃん再起動
しおりを挟む
「Pちゃん、壊れていないかな?」
「今、診断しますね」
芽衣ちゃんは、Pちゃんの頭にPCを繋いだ。
「腕のアクチェーターが、いくつかダメになっていますが、この程度なら自動修復システムで治ります。他に壊れているところはありません」
よかった。
「今度は、大丈夫でしょうね?」
ミールが疑わしそうな目で見守る中、Pちゃんは目を点滅させて再起動していた。
「大丈夫です。たぶん……」
「たぶんて……」
Pちゃんの目の点滅が止まった。
「P0371 システム起動しました」
再び、Pちゃんは周囲をキョロキョロと見回した。
また、視線を僕に固定する。
「ご主人様。どうかなさいましたか?」
「え? なんで?」
「いえ。ご主人様が、何かを警戒されている目をされていましたので」
「いや、なんでもないんだよ。なんでも……」
どうやら治ったようだ。
不意にPちゃんのアンテナがピコピコと動いた。
「ご主人様。母船から連絡です」
「え? そういえば、そろそろ来るころだったな」
「映像を出します」
トレーラーの壁に、Pちゃんはプロジェクションマッピングで映像を出した。
そこに現れたのは少し老けた僕……
『やあ。そっちの香子には会えたかい?』
「まだだ。芽衣ちゃんには会えたが」
『そうか。それを聞いたら船長が喜ぶだろうな』
「ついでに言うと、矢納課長とも接触した」
『なに?』
僕はかいつまんで経緯を話した。
『そうか。大変だったな』
「そっちは、何か分かった?」
『矢納課長がデータを取った経緯は聞いたな。その後、電脳空間の住民になった矢納課長はずっと僕の近くにいながら、復讐の機会を狙っていたらしい』
「気が付かなかったのか?」
『全然気が付かなかった。ただ、以前から『変なおじさんを近くで見かける』とミクが言っていたが、ミクを狙った変質者かと思っていた。今、ミク本人に矢納課長の写真を見せたらこいつだと』
「二百年も、付け狙われていて気が付かなかったのか?」
『面目ない。向こうも気づかれないように慎重に行動していたようだ』
「《イサナ》では、どうだったの?」
『《イサナ》の電脳空間でも、最初から活動していた。休眠状態なんかになっていない。《イサナ》の航路が外れたのも、あの人の工作だった。しかも、僕がやったように見せるために巧妙な偽装工作をやって』
「濡れ衣を着せられたのか?」
『それがさ、あまりにも巧妙すぎて、誰もそれを破壊活動とは気が付かないで、単なる事故だと思っていたんだ』
「なんで、今頃になってそれが分かったの?」
『さっき、本人を捕まえて、白状させた。というより、記憶を強制的に抽出したのだが。これから、裁判にかけられることになるが、よくて永久休眠、悪けりゃ強制削除は免れないな』
無期懲役か死刑って事か。
『だから、矢納課長のコピーがこれ以上現れる事はない。そっちのコピー人間さえ片付ければ完全にいなくなる』
「そうか」
『ただし、矢納課長はコピーを三人作っていた事が分かったから、そのつもりでいてくれ』
「一人でも多すぎるのに……まだ二人もいるのか?」
『ゴキブリよりマシと思えばいい』
ゴキブリの方がマシだ……
『それと矢納課長が僕を恨んだ理由だが、概ね君の聞いた通りだけど、若干違うところがある』
「違う? どこが?」
『僕のSNSへの書き込みが原因というのは本当だが、パワハラは原因じゃない。そもそも抗議が殺到したというのは嘘だ。会社名を隠して書いたのだから、殺到するほどの抗議はこない』
確かに会社名は書かなかったが、鬼女さん達が特定したのかと思っていた。
『以前に矢納課長から『俺の奢りだ』と言って飲みにつれて行かれただろ』
「ああ。奢りとか言いながら、伝票を僕に渡して会社の会計に適当な理由つけて経費で落とせと言われたが……」
結局、あの時の飲み代は僕が自腹を切ったのだ。
『それを社長が読んでしまって『他にもやっていないか調べろ』という事になったんだ。その結果、矢納課長はその手口で総額五千万の金を会社から横領していたことが発覚した』
そりゃあクビになるな。
『その後、矢納課長は懲戒解雇の後、会社に横領で告訴されて執行猶予つきの懲役刑を食らった。データを取ったのはその直後さ』
「データを取った直後に、僕のSNSを読んだ人に殺されたと言っていたけど……」
『それも嘘。本当は酒飲んで行きずりの相手と喧嘩して殺されただけ。君に罪悪感を抱かせるために、そんな事を言ったのだろう』
「そうだったのか。しかし、二百年も恨み続けるなんて……」
『それは、そうと。さっき君が言っていた中の人だが、こっちでも確認された。被洗脳者の中に別人格が入り込み、元の人格を支配下に置いていたんだ』
「やはりそうか。では、多重人格の治療法で治せないか?」
『それは僕には分からない。心理学者たちが検討しているところだ』
「そうか」
それからしばらく、僕らはいくつか打ち合わせをして通信を終えた。
「今、診断しますね」
芽衣ちゃんは、Pちゃんの頭にPCを繋いだ。
「腕のアクチェーターが、いくつかダメになっていますが、この程度なら自動修復システムで治ります。他に壊れているところはありません」
よかった。
「今度は、大丈夫でしょうね?」
ミールが疑わしそうな目で見守る中、Pちゃんは目を点滅させて再起動していた。
「大丈夫です。たぶん……」
「たぶんて……」
Pちゃんの目の点滅が止まった。
「P0371 システム起動しました」
再び、Pちゃんは周囲をキョロキョロと見回した。
また、視線を僕に固定する。
「ご主人様。どうかなさいましたか?」
「え? なんで?」
「いえ。ご主人様が、何かを警戒されている目をされていましたので」
「いや、なんでもないんだよ。なんでも……」
どうやら治ったようだ。
不意にPちゃんのアンテナがピコピコと動いた。
「ご主人様。母船から連絡です」
「え? そういえば、そろそろ来るころだったな」
「映像を出します」
トレーラーの壁に、Pちゃんはプロジェクションマッピングで映像を出した。
そこに現れたのは少し老けた僕……
『やあ。そっちの香子には会えたかい?』
「まだだ。芽衣ちゃんには会えたが」
『そうか。それを聞いたら船長が喜ぶだろうな』
「ついでに言うと、矢納課長とも接触した」
『なに?』
僕はかいつまんで経緯を話した。
『そうか。大変だったな』
「そっちは、何か分かった?」
『矢納課長がデータを取った経緯は聞いたな。その後、電脳空間の住民になった矢納課長はずっと僕の近くにいながら、復讐の機会を狙っていたらしい』
「気が付かなかったのか?」
『全然気が付かなかった。ただ、以前から『変なおじさんを近くで見かける』とミクが言っていたが、ミクを狙った変質者かと思っていた。今、ミク本人に矢納課長の写真を見せたらこいつだと』
「二百年も、付け狙われていて気が付かなかったのか?」
『面目ない。向こうも気づかれないように慎重に行動していたようだ』
「《イサナ》では、どうだったの?」
『《イサナ》の電脳空間でも、最初から活動していた。休眠状態なんかになっていない。《イサナ》の航路が外れたのも、あの人の工作だった。しかも、僕がやったように見せるために巧妙な偽装工作をやって』
「濡れ衣を着せられたのか?」
『それがさ、あまりにも巧妙すぎて、誰もそれを破壊活動とは気が付かないで、単なる事故だと思っていたんだ』
「なんで、今頃になってそれが分かったの?」
『さっき、本人を捕まえて、白状させた。というより、記憶を強制的に抽出したのだが。これから、裁判にかけられることになるが、よくて永久休眠、悪けりゃ強制削除は免れないな』
無期懲役か死刑って事か。
『だから、矢納課長のコピーがこれ以上現れる事はない。そっちのコピー人間さえ片付ければ完全にいなくなる』
「そうか」
『ただし、矢納課長はコピーを三人作っていた事が分かったから、そのつもりでいてくれ』
「一人でも多すぎるのに……まだ二人もいるのか?」
『ゴキブリよりマシと思えばいい』
ゴキブリの方がマシだ……
『それと矢納課長が僕を恨んだ理由だが、概ね君の聞いた通りだけど、若干違うところがある』
「違う? どこが?」
『僕のSNSへの書き込みが原因というのは本当だが、パワハラは原因じゃない。そもそも抗議が殺到したというのは嘘だ。会社名を隠して書いたのだから、殺到するほどの抗議はこない』
確かに会社名は書かなかったが、鬼女さん達が特定したのかと思っていた。
『以前に矢納課長から『俺の奢りだ』と言って飲みにつれて行かれただろ』
「ああ。奢りとか言いながら、伝票を僕に渡して会社の会計に適当な理由つけて経費で落とせと言われたが……」
結局、あの時の飲み代は僕が自腹を切ったのだ。
『それを社長が読んでしまって『他にもやっていないか調べろ』という事になったんだ。その結果、矢納課長はその手口で総額五千万の金を会社から横領していたことが発覚した』
そりゃあクビになるな。
『その後、矢納課長は懲戒解雇の後、会社に横領で告訴されて執行猶予つきの懲役刑を食らった。データを取ったのはその直後さ』
「データを取った直後に、僕のSNSを読んだ人に殺されたと言っていたけど……」
『それも嘘。本当は酒飲んで行きずりの相手と喧嘩して殺されただけ。君に罪悪感を抱かせるために、そんな事を言ったのだろう』
「そうだったのか。しかし、二百年も恨み続けるなんて……」
『それは、そうと。さっき君が言っていた中の人だが、こっちでも確認された。被洗脳者の中に別人格が入り込み、元の人格を支配下に置いていたんだ』
「やはりそうか。では、多重人格の治療法で治せないか?」
『それは僕には分からない。心理学者たちが検討しているところだ』
「そうか」
それからしばらく、僕らはいくつか打ち合わせをして通信を終えた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる