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第十七章
カルル奪還
部屋の片隅に置かれたベッドに、カルルは横たわっていた。
顔色はそれほど悪くはない。
ベッドの横に置かれた椅子へ、イリーナは腰掛ける。
『エステス様』
イリーナは、カルルの掌を握りしめた。
『今日、私の母から手紙が届きました。カルル様に描いて戴いた絵を見て、家族みんなが喜んでくれたようです』
それに対して、カルルは何も答えない。
しかし、カルルもまんざらではないような顔をしている。
『ミハルコフ中尉』
不意に女性兵士が、イリーナに呼びかけた。
『本部から通信です』
女性兵士は、カルルのベッドとは反対側に面した壁に置かれた通信機を操作している。
もう一人の男性兵士も、その通信機を覗き込んでいた。
『なんなのよ。もう』
イリーナは席を立ち、通信機の方へ向かう。
カルルの傍らには誰もいない状況が、たった今できた。
チャンス!
僕は、昆虫型ドローンから送られてきた映像から目を離して一言叫ぶ。
「作戦開始!」
まず最初に芽衣ちゃんが、光学迷彩で姿を隠していたドローンを操作して、入り口を警備している兵士の足にぶつけた。
「な……なんだ!?」
警備兵が何事かと、足下に視線を向けた瞬間……
「アクセレレーション!」
橋本晶は、一瞬にして間合いを詰めた。
警備兵には、おそらく自分に何が起きたのか認識もできなかったのだろう。
いや、見ていた僕も、正直何が起きたのかほとんど理解できなかったけど……
ただ、さっきまで僕の傍で待機していた彼女が、瞬時にして二十メートル先にいる警備兵の背後に移動し、直後に警備兵は崩れるように倒れたのだ。
よく見ると、さっきまでは鞘に収まっていた刀が、いつの間にか橋本晶の手に握られている。
あまりにも早すぎて、動きがまったく見えなかった。
「安心せえ。峰打ちよ」
ああ、峰打ちだったんだ。
昆虫型ドローンを操作していた古淵が、僕の方を振り向いたのはその時。
「隊長。カルル・エステス氏に、麻酔を打ちました」
よし! 麻酔の効果が切れるまでの二十分間が勝負だ。
「橋本君、やってくれ」
「はい」
橋本晶は刀を構えた。
「チェースト!」
かけ声とともに、刀が目にも止まらぬ早さで動く。
彼女が刀を鞘に戻した後、鉄の扉には人が一人通り抜けられそうな穴が開いていた。
「突入! 拉致被害者安全確保を第一に行動せよ!」
橋本晶を先頭に、僕達は次々と室内に駆け込んでいく。
突然の乱入に、イリーナ達が対応できないでいる間に、僕達はカルルのベッドを取り囲んだ。
「カイト・キタムラ! いつの間に……」
イリーナは驚愕の表情を浮かべ、僕を見つめている。
「イリーナ。カルルは返してもらうぞ」
「く!」
イリーナは拳銃を構えた。
「無駄な事はやめろ。そんな小さな拳銃で、ロボットスーツの装甲を貫けない事は分かっているだろう」
イリーナの前に、二人の部下が立ち塞がった。
「ミハルコフ中尉、我々が時間を稼ぎます」「お逃げ下さい」
い……意外と人望あるんだな。
「馬鹿な事言わないで。あなた達を残して、逃げられるわけないでしょ」
まあ、ここで『ではお言葉甘えて』と逃げ出すような奴なら、人望は得られないだろうけどね。
イリーナは僕を睨み付ける。
「どうせ逃げ道は、塞いであるのでしょ? カイト・キタムラ」
「もちろんだ。この地下道出入り口は、一個中隊で封鎖してある」
まあ、嘘だけどね。
「で、私達をどうするつもり? 殺すならさっさと殺しなさい」
「無駄な血は流したくない。武器を捨てて降伏するなら、捕虜としての待遇を約束する」
「捕虜!?」
イリーナの前にいた女性兵士が、顔を引きつらせて拳銃を自らの喉元に突きつけた。
何か妙な誤解をしているみたいだな。
「汚らわしい! おまえらの慰み者になるぐらいなら、死を選ぶ」
やっぱし……
「ああ、大丈夫だから。捕虜虐待は禁止されているから……」
そう言っても、彼女は中々信じてくれそうにない。
どうすっか?
「海斗……?」
ん? 声の方へ振り向くと、カルルはまだ目を開いていた。
麻酔がまだ利いていないのか?
「海斗なのか?」
「そうだ。僕だ。助けに来たぞ」
「海斗……俺は……」
カルルの瞼が閉じ出す。
ようやく麻酔が効き始めたようだ。
「カルル。済まないが麻酔を打った」
「麻酔……なぜ……?」
「接続されている可能性があるので、予防処置だよ」
「接続? いや……それは……俺では……」
そこでカルルは眠りに落ちた。
さてと……
「な!?」
再び、イリーナ達の方へ目を向けると、それはあった。
「ワームホール!」
顔色はそれほど悪くはない。
ベッドの横に置かれた椅子へ、イリーナは腰掛ける。
『エステス様』
イリーナは、カルルの掌を握りしめた。
『今日、私の母から手紙が届きました。カルル様に描いて戴いた絵を見て、家族みんなが喜んでくれたようです』
それに対して、カルルは何も答えない。
しかし、カルルもまんざらではないような顔をしている。
『ミハルコフ中尉』
不意に女性兵士が、イリーナに呼びかけた。
『本部から通信です』
女性兵士は、カルルのベッドとは反対側に面した壁に置かれた通信機を操作している。
もう一人の男性兵士も、その通信機を覗き込んでいた。
『なんなのよ。もう』
イリーナは席を立ち、通信機の方へ向かう。
カルルの傍らには誰もいない状況が、たった今できた。
チャンス!
僕は、昆虫型ドローンから送られてきた映像から目を離して一言叫ぶ。
「作戦開始!」
まず最初に芽衣ちゃんが、光学迷彩で姿を隠していたドローンを操作して、入り口を警備している兵士の足にぶつけた。
「な……なんだ!?」
警備兵が何事かと、足下に視線を向けた瞬間……
「アクセレレーション!」
橋本晶は、一瞬にして間合いを詰めた。
警備兵には、おそらく自分に何が起きたのか認識もできなかったのだろう。
いや、見ていた僕も、正直何が起きたのかほとんど理解できなかったけど……
ただ、さっきまで僕の傍で待機していた彼女が、瞬時にして二十メートル先にいる警備兵の背後に移動し、直後に警備兵は崩れるように倒れたのだ。
よく見ると、さっきまでは鞘に収まっていた刀が、いつの間にか橋本晶の手に握られている。
あまりにも早すぎて、動きがまったく見えなかった。
「安心せえ。峰打ちよ」
ああ、峰打ちだったんだ。
昆虫型ドローンを操作していた古淵が、僕の方を振り向いたのはその時。
「隊長。カルル・エステス氏に、麻酔を打ちました」
よし! 麻酔の効果が切れるまでの二十分間が勝負だ。
「橋本君、やってくれ」
「はい」
橋本晶は刀を構えた。
「チェースト!」
かけ声とともに、刀が目にも止まらぬ早さで動く。
彼女が刀を鞘に戻した後、鉄の扉には人が一人通り抜けられそうな穴が開いていた。
「突入! 拉致被害者安全確保を第一に行動せよ!」
橋本晶を先頭に、僕達は次々と室内に駆け込んでいく。
突然の乱入に、イリーナ達が対応できないでいる間に、僕達はカルルのベッドを取り囲んだ。
「カイト・キタムラ! いつの間に……」
イリーナは驚愕の表情を浮かべ、僕を見つめている。
「イリーナ。カルルは返してもらうぞ」
「く!」
イリーナは拳銃を構えた。
「無駄な事はやめろ。そんな小さな拳銃で、ロボットスーツの装甲を貫けない事は分かっているだろう」
イリーナの前に、二人の部下が立ち塞がった。
「ミハルコフ中尉、我々が時間を稼ぎます」「お逃げ下さい」
い……意外と人望あるんだな。
「馬鹿な事言わないで。あなた達を残して、逃げられるわけないでしょ」
まあ、ここで『ではお言葉甘えて』と逃げ出すような奴なら、人望は得られないだろうけどね。
イリーナは僕を睨み付ける。
「どうせ逃げ道は、塞いであるのでしょ? カイト・キタムラ」
「もちろんだ。この地下道出入り口は、一個中隊で封鎖してある」
まあ、嘘だけどね。
「で、私達をどうするつもり? 殺すならさっさと殺しなさい」
「無駄な血は流したくない。武器を捨てて降伏するなら、捕虜としての待遇を約束する」
「捕虜!?」
イリーナの前にいた女性兵士が、顔を引きつらせて拳銃を自らの喉元に突きつけた。
何か妙な誤解をしているみたいだな。
「汚らわしい! おまえらの慰み者になるぐらいなら、死を選ぶ」
やっぱし……
「ああ、大丈夫だから。捕虜虐待は禁止されているから……」
そう言っても、彼女は中々信じてくれそうにない。
どうすっか?
「海斗……?」
ん? 声の方へ振り向くと、カルルはまだ目を開いていた。
麻酔がまだ利いていないのか?
「海斗なのか?」
「そうだ。僕だ。助けに来たぞ」
「海斗……俺は……」
カルルの瞼が閉じ出す。
ようやく麻酔が効き始めたようだ。
「カルル。済まないが麻酔を打った」
「麻酔……なぜ……?」
「接続されている可能性があるので、予防処置だよ」
「接続? いや……それは……俺では……」
そこでカルルは眠りに落ちた。
さてと……
「な!?」
再び、イリーナ達の方へ目を向けると、それはあった。
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※更新は不定期です。小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
※3/15~3/19 は投稿を休みます。