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第十一章

休憩中の出来事(天竜過去編)

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 リンクを切っても、すぐには身体の感覚は戻ってこないと聞いていた。

 実際に今の僕には五感が全くない。

 最初に戻ってきたのは触覚。

 背中にGシートの感触を感じる。重力は感じない。《朱雀》は慣性航行中なのだろう。
 誰かが僕の両肩を掴んでいるのが分かった。

 誰だろう?

 聴覚が戻ってきた。

「白龍君、聞こえる? 白龍君」

 この声はアーニャ? では僕の肩を掴んでいるのはアーニャなのか?

 視覚が回復した。

 瞼を開くと、アーニャが僕の肩に掴まって宙に浮いていた。

「アーニャ?」
「白龍君。おかえり」
「ただいま」
「やったわ。最後の攻撃で、敵のレーザー機を一機潰したわ」
「よかった」
「護衛機も半分ぐらい潰した。もう、奴らは次の攻撃を防げないわ」
「そうか。じゃあ、僕も予備機とリンクを……」
「待って。脳への負担が大きいから、三分は休まなきゃだめよ」
「三分?」

 アーニャはBMIのコントローラーを取って僕に見せた。

 『129……128……127……』

 コントローラーのディスプレイで、カウントダウンが進んでいた。

「この数字が0になるまで、再接続しちゃだめよ。というより、できないけど」
「できないの?」
「安全システムがあって、三分経過しないと機械が繋いでくれないの」
「聞いてないよ」
「ゴメンね。説明をしていなかった。それじゃあ、私は先に行くから……」

 その時、キャビン内にブザーが鳴り響いた。
 このブザーって!

『これより、エンジンを点火する。船内の者はGに備えよ』

 楊さんの声……

 ちょっ! ま……! この状況で加速はマズい!

 と、言う間もなく唐突にGが発生した。

 宙に浮いていたアーニャの身体が、僕に覆いかぶさるように落ちてくる。

 アーニャの顔が僕の眼前に迫った。

 わあ! 近い! 近い! 近い!

「うぐ!」

 僕の唇に、アーニャの柔らかい唇が触れた。
 すぐに離れると思ったが、アーニャはそのまま僕にしがみ付いてくる。
 
 ちょっと……離れないとヤバイよ。R18になっちゃう!

 離れるどころか、アーニャはさらに強く僕を抱きしめてくる。

「プハ!」

 ようやく、アーニャは僕から口を離した。

「アーニャ……その……」
「ごめんね。白龍君」
「え? なんで謝るの?」

 アーニャは僕の質問に答えることなく、自分のGシートに戻って行った。

 今のって、事故だよね? いや、最初に触れたのは事故かもしれないけど……その後は……

 は! 今の、誰かに見られていないだろうか?

 Gシートから身を起こしてみたが、誰も見ていなかった。

 おっと! もうとっくにカウントダウンが0になっている。

 モヤモヤした気持ちを抱えたまま、僕は予備機とリンクして戦場に戻った。 
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