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第十一章

撹乱幕を突破せよ(天竜過去編)

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 レーザーは確かに命中した……はずだった。しかし……

「効いてない」「そんな……」

 ん? 変だ。こっちのレーザーが届くなら向こうのレーザーも届くはず。それなのに敵はレーザーを撃ってこない。

チャン君! 私の後に戻って!」
「え?」

 言われた通り、僕はマー 美玲メイリン機の後に戻った。

「レーザー攪乱膜よ。ここから撃っても通じないわ。敵は私達が来る前に、レーザー攪乱膜を張っていたのよ」

 馬 美玲の言う通り、レーダーには、僕達と敵の間に雲のような影が横たわっている様子が映っていた。これが、レーザー攪乱膜?

 だから、向こうはレーザーを撃ってこないのか。

「いったい、どうすれば……」
「奴を仕留めるには、レーザー攪乱膜の内側に入らなきゃならない。でも、その前に奴らは電磁砲レールキャノンを撃ってくる。並んで行ったら、二人ともやられてしまうわ。だから、最初の予定通り私が盾になって章君を守る。章君は何としても攪乱膜の内側に入って、奴を仕留めて」
「分かった」

 僕達は金属箔の漂う宙域に入った。

「これが、レーザー攪乱膜?」
「そうよ。敵はこの辺りの宙域に、金属箔を撒いたのね……しまった!」
「どうしたの?」

 馬 美玲機がエアバックを展開した。敵が電磁砲レールキャノンを撃ってきたのか?

「章君。絶対に私の後から出ないで。出たら、あなたもやられてしまう」
「え?」

 そうか! 薄い金属箔と言っても、真空中では破壊力のあるデブリだ。
 この相対速度ではホイップルバンパーももたない。

「章君。聞いて。私の機体は、デブリでかなりダメージを受けた。もうすぐコントロール不能になる」
「なんだって?」
「章君は加速を止めて慣性航行に入って。もうこれ以上速度を上げる必要はないわ」

 僕はメインエンジンを停止させた。

「私の機体からは、爆発の危険がある燃料と推進剤はすべて投棄したわ。今は自力では動けないただの盾よ。章君は私の機体を盾にして、攪乱膜を突破して」
「分かった」
「奴を必ず仕留めてね。《天竜》で会いましょう」

 馬 美玲のアバターが消えた。

 とうとう僕一人だけ。

 今は物言わぬ球体となってしまった馬 美玲の機体が切り開いてくれる空隙を僕は進んでいた。この空隙から少しでも外れたら、僕の機体は破壊される。
 いつまで、この状態が続くのだろう?
 レーダーの画面は真っ白。攪乱膜の影響で、レーダーも効かないようだ。
 今、電磁砲レールキャノンを撃ってこられても、僕には分からない。
 突然、先行している球体が大きく揺れた。
 電磁砲レールキャノンを受け止めたのだろうか?

白龍パイロン君」

 唐突にヤンさんの声が聞こえた。

「楊さん。どこ?」
「今はアバターを出せないけど、声だけで我慢してね」
「はい」
「状況を伝えるわ。先ほど《天竜》から連絡が入ったの。敵の前衛部隊を殲滅したわ。《天竜》は無事よ」
「よかった」
「後は私達よ。もうすぐ、予備機による包囲も完成するわ」
「それじゃあ、僕はもうそっちへ戻っても……」
「いいえ」
「え?」
「白龍君には一機でもいいから、レーザー機を潰してほしいの。嫌な予感がするのよ」
「分かりました」

 攪乱膜を突破したのはその時だった。
 スラスターを噴射して馬 美玲機の陰から出ると、敵のレーザー機が丸見えだった。
 照準を合わせる。
 トリガーを引いた。
 シリンダー状のレーザー機は白熱していく。
 やがて爆発した。
 次の瞬間、僕の機体に敵のレーザーが雨のように降り注ぐ。
 僕は機体とのリンクを切って、《朱雀》に意識を戻した。
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