354 / 893
第十一章

月砂の嵐を越えて(天竜過去編)

しおりを挟む
 しばらくして、マー 美玲メイリンから連絡が入った。
 アバターのない音声だけの通信だ。
 
『縦穴から、月面車が出て来たわ』
「月面車ですって! どっちへ向っているの?」
『アーニャ、大丈夫よ。月面車は私達の方へ向っている。東に行ったあなた達には気が付いていないようよ。せいぜい牽制して、こっちへ引きつけてやるわ。それと、砂嵐が見えて来たわ。まるでオーロラみたいね』
「ええ」
『敵の数が多いので、私達二人ではいずれ押し切られる。だから、私達のミサイルは月面車攻撃に使ってもいいわね?』
「かまわないわ。ミサイルは一発でも残っていれば十分よ」
『分かったわ。私達は先に《朱雀》に戻る事になると思う。後は頼むわね』
「任せて」

 通信は切れた。
  
 しばらくして、砂嵐の向こうで強烈な発光が二度起きる。
 馬 美玲と柳 魅音がミサイルを使ったのだな。

「二人はもう《朱雀》に戻ったかしら?」

 趙 麗華が上を見上げた。もちろん、そこに《朱雀》の姿は見えないけど……

「白龍君、趙 麗華さん。そろそろ砂嵐が縦穴に差し掛かかるわ。行くわよ」

 僕達は、再び砂嵐の中に飛び込んで行った。

 砂嵐と逆光線のせいか、敵は僕達に気が付いていないようだ。
 地雷からも、月面車からも攻撃はない。
 あったとしても、この濃密な砂嵐の中では効果ないけど……
 やがて、僕達は砂嵐を抜けた。
 僕達の真下に、直径五十メートルはありそうな巨大な縦穴が口を開けている。
 そして、僕達の正面には三機の敵宇宙機が横切るように飛行していた。

 マズイ!

 僕は考えるも早くトリガー引く。
 一機が落ちていった。
 どうやら、向こうは僕達に気づくのに遅れたようだ。
 趙 麗華の放ったレーザーが敵を一機落とす。
 アーニャが撃った時、ようやく敵も撃ち返してきた。

「きゃああ!」

 アーニャの悲鳴!

「アーニャ! 大丈夫か?」
「ごめん。私はここまでのようだわ。後を……」

 アーニャのアバターが消えた。

チャン君! 時間がありませんわ! 私に着いてきなさい!」

 僕達は宇宙機の制御をニュートリノ通信に切り替えた。
 これで縦穴内部でも制御可能だが、これを使用できるのは五分以内。
 
 その前に決着ケリをつける!

 縦穴に照明弾を落としてから、僕達は降下を開始した。
 照明弾の光に照らされて縦穴内の様子が分かる。
 縦穴は自然のもののようだ
 溶岩洞窟の天井を、隕石が貫通してできたのだろう。
 
「線路が見えたわ! 敵はあそこね」

 趙 麗華の言う通り、縦穴の底に線路の様な人造物があった。《天竜》を攻撃した電磁砲レールキャノンは、あれを使って横穴に移動して隠れているのだろう。
 縦穴の底に降りた時、溶岩洞窟から低出力レーザーを撃ってきた。
 ホイップルバンパーにがんがん当たってくるが構う事はない。
 僕達は線路の先に向かってミサイルを放った。
 電磁砲レールキャノンの姿は確認できなかったが洞窟ごと崩してしまえば問題ない。
 溶岩洞窟の奥で爆発が起きた。
 二発のミサイルを受けて、溶岩洞窟は崩落する。
 やがて洞窟は完全に埋まり、敵の攻撃も止んだ。
 
 横を見ると趙 麗華のアバターはなく、そこにあるのは弾痕だらけの球体宇宙機。

「趙さん。無事かい?」

 返事はない。リンクが切れたようだ。
 僕の機体もメインエンジンをやられて飛び立てそうにない。
 
 機体の回収は無理だな。

 僕は自爆装置のスイッチを入れてから、機体とのリンクを切った。 
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

処理中です...