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第十一章
不時着(天竜過去編)
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今のは、夢だったのだろうか?
程なくして僕の感覚が戻ってきた。
最初に覚えた感覚は、激しい喉の乾き。
続いて蒸し暑さ。
どういう事だ?
《朱雀》のキャビンは、常に快適な温度と湿度が保たれているはずなのに……
聴覚が戻ってくる。
「章君! 章君! 返事をして」
この声は、趙 麗華。
いったいどうしたのだろう?
「ああ………あううう……」
あれ? なんだ、このしわがれ声は……
喉の乾きが非道くて、まともに声が出ないんだ。
視覚が回復して、ようやく今の状態が分かった。
保護カバーの上が砂に覆われているのだ。
「た……あうう……」
助けて、と言おうとしたのに、声がまともに出ない。
だが、趙 麗華には聞こえたようだ。
「中にいるのね。今、上の砂をどけるから、無理に保護カバーを開けちゃ駄目よ。砂が中に流れ込むから」
砂が流れ込む? どういう事だ? なぜこんなところに砂が?
ザッザッっと、箒か何かで砂を祓う音が聞こえる。
「章君。重力がかかっているのは分かるわね?」
重力? 無重力状態じゃない事には気が付いていたけど……加速しているわけじゃないのか?
「《朱雀》は惑星に降りたみたいなのよ。だけど、私がリンクを解除したときには章君以外誰もいなかったの。どうやら、私達が意識を取り戻さないうちに、みんなは船外に出て行ったみたいなのよ」
保護カバーの上の砂が払いのけられて、キャビン内の明かりが差し込む。
まぶしい!
もう一度目を開くと、保護カバーは開かれていた。
「はい。これ」
趙 麗華の差し出したペットボトルを受け取った時、礼を言おうとしたのに上手く声が出ない。
「無理に喋らなくていいわ。水はうがいするように飲むのよ。飲んだら、この薬を舐めていなさい。飲むのじゃなくて舐めているのよ。しばらくしたら、声が出せるようになるわ」
趙 麗華のくれた薬は飴の様に甘かった。いや、飴じゃないのか?
「あ……ありがとう……趙さん」
ようやく、声が出せるようになった。
「それにしても、この暑さはいったい……エアコンは?」
「壊れているわ。今、自動修復中だけど……でもね、船内はまだマシよ。外はもっと暑いわ」
「外? 見てきたの?」
「外は砂漠だったのよ」
「砂漠に不時着したの?」
「そうよ。何があったのか分からないけど、宇宙機のリンクを切ってから感覚が戻るまで何時間もかかったみたいなのよ」
「なぜ?」
「知らないわよ。私が聞きたいぐらいだわ。とにかく、私が気付いた時には、魅音もアーニャもデブもいなくて、章君だけがGシートの上でリンクしたままだったのよ」
「リンクしたまま?」
「そうよ。章君も宇宙機が壊れているだろうから、すぐに戻ってくると思っていたのに……今まで何をしていたの?」
夢じゃなかった。
程なくして僕の感覚が戻ってきた。
最初に覚えた感覚は、激しい喉の乾き。
続いて蒸し暑さ。
どういう事だ?
《朱雀》のキャビンは、常に快適な温度と湿度が保たれているはずなのに……
聴覚が戻ってくる。
「章君! 章君! 返事をして」
この声は、趙 麗華。
いったいどうしたのだろう?
「ああ………あううう……」
あれ? なんだ、このしわがれ声は……
喉の乾きが非道くて、まともに声が出ないんだ。
視覚が回復して、ようやく今の状態が分かった。
保護カバーの上が砂に覆われているのだ。
「た……あうう……」
助けて、と言おうとしたのに、声がまともに出ない。
だが、趙 麗華には聞こえたようだ。
「中にいるのね。今、上の砂をどけるから、無理に保護カバーを開けちゃ駄目よ。砂が中に流れ込むから」
砂が流れ込む? どういう事だ? なぜこんなところに砂が?
ザッザッっと、箒か何かで砂を祓う音が聞こえる。
「章君。重力がかかっているのは分かるわね?」
重力? 無重力状態じゃない事には気が付いていたけど……加速しているわけじゃないのか?
「《朱雀》は惑星に降りたみたいなのよ。だけど、私がリンクを解除したときには章君以外誰もいなかったの。どうやら、私達が意識を取り戻さないうちに、みんなは船外に出て行ったみたいなのよ」
保護カバーの上の砂が払いのけられて、キャビン内の明かりが差し込む。
まぶしい!
もう一度目を開くと、保護カバーは開かれていた。
「はい。これ」
趙 麗華の差し出したペットボトルを受け取った時、礼を言おうとしたのに上手く声が出ない。
「無理に喋らなくていいわ。水はうがいするように飲むのよ。飲んだら、この薬を舐めていなさい。飲むのじゃなくて舐めているのよ。しばらくしたら、声が出せるようになるわ」
趙 麗華のくれた薬は飴の様に甘かった。いや、飴じゃないのか?
「あ……ありがとう……趙さん」
ようやく、声が出せるようになった。
「それにしても、この暑さはいったい……エアコンは?」
「壊れているわ。今、自動修復中だけど……でもね、船内はまだマシよ。外はもっと暑いわ」
「外? 見てきたの?」
「外は砂漠だったのよ」
「砂漠に不時着したの?」
「そうよ。何があったのか分からないけど、宇宙機のリンクを切ってから感覚が戻るまで何時間もかかったみたいなのよ」
「なぜ?」
「知らないわよ。私が聞きたいぐらいだわ。とにかく、私が気付いた時には、魅音もアーニャもデブもいなくて、章君だけがGシートの上でリンクしたままだったのよ」
「リンクしたまま?」
「そうよ。章君も宇宙機が壊れているだろうから、すぐに戻ってくると思っていたのに……今まで何をしていたの?」
夢じゃなかった。
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