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第十二章

ロータスの路地

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 大きな町には、たいてい人目にはつかない路地がある。

 このロータスにも、そんな路地がいくつかあった。ここも、その一つ。

「さあ、お客さん、こちらですよ」

 娼婦の姿をした女に誘われ、一人の帝国軍の男が路地に入ってくる。
 男の目は、すっかりスケベ色に染まっていた。

「でへへ……姉ちゃん。いくらでやらしてくれるんだい」

 ちなみに娼婦は、ミールの分身体。通りを一人で歩いていた帝国兵を誘惑して、ここへ連れ込んで来たのだ。

 何のためにかって? それは……

「ギャ!」

 男は小さな悲鳴を上げて倒れた。

 前のめりに倒れた男の首筋には、Pちゃんがしがみ付いている。

 背後から男の首筋に飛びついて電撃を使ったのだ。

「さてと」

 横道に隠れていた僕とミールが出てきて男の側に寄った。
 男の身体を仰向けにする。

「ミール」
「なんでしょう?」

 男の懐に手を入れながらミールは振り返った。

「今回は、損害賠償はなしって言ったよね」
「あははは……つい、いつもの癖で……」

 ミールは仰向けに倒れている男の胸に木札を乗せた。

 そのまま、男の横で結跏趺坐して呪文を唱える。

 程なくして、男の身体から幽体離脱でもするように、分身体が起きあがった。

「上着とズボンを脱ぎなさい」

 ミールに言われるままに男の分身体は、軍服の上着とズボンを脱いだ。その服を僕がまとう。続いて、ホロマスクの顔を、ナーモ族から帝国人の顔に変更した。

「どうだい? ミール」
「完璧な帝国兵です」
「じゃあ、ミール達は隠れていて」
「はーい」

 ミールは分身を連れて横道に隠れた。

 それを確認すると僕は男の身体を揺さぶる。

「おい! しっかりしろ」

 程なくして男は目を覚ました。

「あれ? 俺はなんでこんなところに?」
「しっかりしろ。君はここに倒れていたんだ」

 ううん……最近、僕も嘘がうまくなってきたな。いいことなのか、悪いことなのか……

「倒れていた? ええっと、確か女について路地に入って……その後、何があったっけ?」
「何か、ビリっと痺れるようなショックを受けなかったか?」
「そうだ! そんなショックを受けて……その後の記憶が……」
「やはりそうか! 君をやったのはエラ・アレンスキーだ」
「なに!? 雷魔法の? しかし、あの女は変態ではあるが、帝国の軍人だろ」
「知らないのか? あいつは軍法会議にかけられそうになって脱走したんだ」
「なんだって?」
「僕は、さっきこの路地から奴が出てくるのを見かけたのでね。路地で何かをしていたのではないかと、見に入ったんだ。そしたら、君がここに倒れていた」
「しかし、エラ・アレンスキーが脱走したとして、なんで俺が襲われるのだ?」

 いけない。考えてみれば、エラがこいつを襲う理由がない。ここは、どうするか……

「はっ! まさか」

 どうしたのだろう? この男、自分の懐に手を入れて何を……

「ああ! 財布がない!」

 え? さてはミール……さっき財布を抜いたな。

 まあ、これでこの男が襲われた理由ができたが……

「ちくしょう! エラめ! 俺の財布返せ!」
「君。この事を報告……」
「当然だ! ちくしょう! エラめ! 憲兵に言いつけてやる」

 男は路地から、走り出していった。

 これで……いいのだろうか?

 まあ、これでエラは身動きが取りにくくなるだろうけど……

「カイトさん。見事な演技でした」

 ミールが横道から出てくる。その右手には小さな巾着が……

「ミール。その財布は?」
「え! あら? いつの間に、こんな物が……嫌ですわ。ほほほほ」
 
 わざとらしい……
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