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第十二章

盗聴器

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「ご主人様」

 Pちゃんが僕の膝の上に飛び乗ってきた。

「船長の背中に、盗聴器を貼りつけました」
「ありがとう。Pちゃん」

 そのままPちゃんは僕のポケットに潜り込む。

 小さいって、結構便利だな。

 船長達が店を出たのは、すぐその後……

 僕達も後を追って店を出た。

 と言っても、船長のすぐ後を尾行するわけではない。そんな事をしなくても盗聴器から出る電波で居場所は分かる。
 その盗聴器の電波を、人目に付かないで受信できる場所を探しに出たのだ。

 不意にミールは通りで立ち止まり、一軒の店を指差した。

「カイトさん。それなら、あそこの宿屋に入りましょうよ」
「え? いや、僕は人目に着かない空き地で……」
「空き地では、誰に見られているか分かりませんわ。宿屋が確実です」
「しかし……」

 Pちゃんがポケットから、ひょこっと顔を出した。

「ミールさん。宿屋に入って、また不埒なことを……」
「不埒なことなんて考えていません。あたしはただ人目に付かない場所として、宿屋がいいと言っただけです。どうせ今夜はロータスで一泊しなきゃならないし」
「いや、僕は夜になったら。艦隊に戻るつもりだけど……」
「「え?」」

 なんで二人とも意外そうな顔をする。まあ、なんとなく分かるが……

「カイトさん。ここで一泊するつもりではなかったのですか?」
「ていうか、ご主人様。夜中に帰れると思っていたのですか?」
「そうですよ。夜になったら、ベジドラゴンは飛べません」
「しまったあ! 忘れてた!     なんて言うと思ったか? ちゃんと用意してある」
「「何をですか?」」
「ベジドラゴン用の暗視ゴーグル。こんな事もあろうかと、密かに開発しておいたのさ」
「おお! さすがカイトさん」
「ご主人様『こんな事もあろうかと』を言いたかっただけですね」
「そ……そんな事はない」
「しかし、密かに開発したといいましたが、ベジドラゴン用の暗視ゴーグルなら、ミケ村でも使ったじゃないですか」
「あれを更に改良したのだよ。あの時はちょっと歩いただけで落ちてしまったけど、今度は飛行中でも落ちない」
「そういえば、ルッコラの顔に何かの装置が革紐のような物で固定されていたけど、あれがそうだったのですね」
「そう。だから、必要な情報が集まったら、夜中にでもエシャー達に来てもらって艦隊に引き返すんだ」
「そうですか。では、ロータスでは一泊しないですね?」
「しない」
「そうですか。では」

 ミールはいきなり僕の腕をガシっと掴んだ。

「あの店に、入りましょう」
「ちょ……ちょっと待て! ミール。僕の話聞いてた? 今夜は泊まらないって……」
「ええ、泊まりませんよ。でも、あの店は休憩もできるのです。三時間で銀貨二枚とお得です」
「なんだ? そのラブホみたいな料金設定は?」
「ご主人様。みたいじゃなくて、あの店ラブホですよ」

 え?

「翻訳ディバイスで看板を見て下さい。ナーモ語で、ラブホテルに該当する単語があります」

 Pちゃんに言われて、翻訳ディバイスを翳すと『ラブホテル』という日本語が表示される。

 日本じゃ一度も入った事なかったな。

 高校生の時は金がなくて、大学生、社会人の時は相手がいなくて……

 いや、そんな事はどうでもいい!

 ミールとこういう店に入りたくないか? と言われたら、そりゃ入りたいけど……

「ミール……今はこんな店に入っている場合では……」
「何を言っているのですか? カイトさん。さっきの酒場のような店で、パソコンとか日本製の機械をテーブルの上に並べて盗聴器の電波を受信するつもりですか? 周りから怪しまれて、通報されて帝国軍が駆け付けてきますよ」
「それは困る」
「その点、この店なら誰にも見られません。しかし、この店に一人で入ったら怪しまれますが、あたし達はカップルという設定です。入ってもまったく怪しくありません」
「そういう事なら……」
「ダメです! ご主人様! ここに入ったら、ミールさんは、またご主人様を襲う気です」
「襲ったりなんかしませんよ。誘惑するだけですから」
「ミールさん。やっぱり、そういう事をするつもりでしたね」

 何かを言い返そうとしたとき、不意にミールの表情が強張る。その視線は僕の背後に向かっていた。

 なんだ?

 振り返ると、数名の帝国兵が僕達の方へ向かってくるところだった?

 気付かれたか?

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