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第十二章
辞任要求なんかしている場合か!
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「ナンモ解放戦線!? なんでこんなところに?」
そう言ったのは、キラ。
「キラ。知っているの?」
ミールの質問にキラは答える。
「はい、師匠。ナンモ解放戦線は昔から帝国内にいる反乱組織の一つです。悪魔のハンマーが落ちた頃は、最大規模の反乱勢力でしたが、最近は鳴りを潜めていました」
悪魔のハンマーか。たしか、隕石攻撃の事を帝国ではそう言っていたな。
カルカの酒場でアレクセイ・ドロノフから、隕石攻撃後、帝国各地でいくつもの反乱軍が蜂起したと聞いていたが、ナンモ解放戦線というのはその中の一つという事か。
「ミール」
ミールが僕の方を向いた。
「ひょっとしてカミラ・マイスキーが言っていたゲリラ組織が……」
「おそらく、そうでしょう。刑務所からリーダーを取戻した後、この近くまでやってきたと言っていましたね。その後で、周辺の盗賊を併合したのではないかと」
しかし、短期間で五千人も集まるものだろうか?
「キラ」
キラが僕の方を向いた。
「蜂起した当時のナンモ解放戦線の人数はどのぐらいだったのだい?」
「たしか、五万人ぐらいだったかな?」
「蜂起した後、どうなった?」
「一年もしないうちに鎮圧された。その後は散り散りになって各地に潜伏したと聞いている」
という事は……
「統合した盗賊と言うのは、散り散りになったかつての仲間ではないのか?」
「ああ、そうかもしれない。確かに盗賊化した元反乱軍というのは多いからな」
刑務所からリーダーを助け出したのは、かつての仲間を集めるのに、そのカリスマが必要だったという事か。
そこまでして、仲間を集めた目的はやはり帝国に再び反旗を翻すためだとすると、ロータスに突きつけた要求は……?
「町長。ナンモ解放戦線から、いったい何を要求されていたのだ?」
議員達に問いつめられて、町長は渋々口を割った。
「同盟関係です」
同盟?
「ナンモ解放戦線は、帝国と戦うためにロータスと同盟を結びたいと言ってきました」
それを聞いて議員の一人が食って掛かってきた。どうやら、この男は反町長派のリーダーらしい。
「町長。そんな大切な事をなぜ、我々に黙っていた?」
「そんな事を言ったら、あなた達は要求を受け入れろと言うでしょ」
「当たり前だ」
「分かっているのですか? ナンモ解放戦線は同盟などと言っていますが、奴らの目当てはロータスの富です。同盟なんか結んだら、法外な軍資金を要求してくるのは目に見えています」
「このまま町に攻め込まれたら、それこそ根こそぎ富を持って行かれるぞ。同盟を結べば、まだ値切る余地もあるのに……」
「何を言っているのです。ロータスの町は、今まで中立を保つことで発展してきたのですよ。ここで反帝国勢力に組みしたら、中立は失われます。帝国を敵に回すことになるのですよ」
「それがどうした?」
「どうしたって? このまま中立が失われたら、ロータスは帝国軍に攻め込まれるのですよ」
「町長。あんたは勘違いをしているぞ。帝国がロータスを放置していたのは、補給地点として好都合だったからだ。占領して統治するよりも、わしら商人に自治を任せておいた方が楽だからだ。だが、帝国がカルカや東方諸国を制圧したら、どうなる? 補給地としてのメリットがなくなったとたんにロータスは占領されるぞ」
「そんな事は分かっています。だから、帝国軍が勝ちすぎないように、東方諸国やカルカにも物資を送り、帝国軍の情報も流して……」
ここへ来る前に一応、ロータスの町は商人による自治で運営されているという事は予備知識として頭に入れてあったが、そういう蝙蝠外交もやっていたのか。
「町長。あんたの言いたい事も分かる。確かにロータスは帝国にも、反帝国側には物資を売って儲けてきた。だが、そんな危ういバランスを保つことなどいつまでもできん。もし、バランスが崩れたら、すぐに優勢な方に着かないとロータスは滅びる」
「そんな事は分かっています。でも、今はその時ではありません。はっきり言ってナンモ解放戦線では帝国に勝てません」
「なぜ、そう思う?」
「実は私はナンモ解放戦線のアジトへ出向いて、リーダーと会談したのです」
「なんだと?」
「確かに、解放戦線の首脳部は教養のあるエリート揃いでした。この人達となら手を組めるとも思いました。しかし、アジト内を見分してみると、末端の兵士はごろつきの寄せ集めばかりです。統率もまるでできていません。解放戦線の首脳部は、兵隊の頭数を揃えただけで、その集団を扱い切れていないのです。そんないい加減な組織と手を組めますか?」
「なるほど、それは分かった。しかしだ、それは町長一人で決めてよいことか?」
「それは……」
「要求を断るか受け入れるかは、わしらと協議した上で決めるべきであろう」
「それは……」
「大方、日頃から反帝国派だったわしが『同盟を結ぼう』と言い出すと思って黙っていたのだろう。確かに個人的に帝国は嫌いだが、勝ち目のない戦いをするほどわしは馬鹿ではない。ナンモ解放戦線が烏合の衆と分かっていたら、手を組もうなどとは思わん」
「……」
「町長。ナンモ解放戦線から要求があったことを隠蔽していたことについては、どう責任を取るおつもりか?」
「うう……」
「町長の辞任を要求する」
その一言を合図に反町長派から一斉に『町長辞めろ』コールが始まった。
一方で町長派からは擁護する声が……
どうでもいいが、時間がないのですけど……
「馬鹿じゃないの? この人達……」
ミクがあきれ顔で言った言葉は、翻訳機を切ってあったので彼らに聞かれないですんだ。
「これが、衆愚政治というものですよ。ミクさん」
と、Pちゃんが説明する。
「ミケ村でも、おじいちゃんと村長の政争は非道かったけど、ここよりはマシだと思います」
そういえば、ミールの祖父さんも帝国軍がいつ戻ってくるかもしれない状況で村長と喧嘩していたな……
よし、ここはあの時と同じように空砲で黙らせ……
ズキューン!
僕が拳銃を抜くより先に、右隣で銃声が鳴り響いた。
銃声の方を見ると、アーニャが顔に怒りの形相を浮かべ、拳銃を握った右腕を真上に向けている。
その銃口からは硝煙が立ち上っていた。
天井には小さな穴が……おいおい、空砲じゃなくて、実弾か!?
コワいぞ。この人……
そう言ったのは、キラ。
「キラ。知っているの?」
ミールの質問にキラは答える。
「はい、師匠。ナンモ解放戦線は昔から帝国内にいる反乱組織の一つです。悪魔のハンマーが落ちた頃は、最大規模の反乱勢力でしたが、最近は鳴りを潜めていました」
悪魔のハンマーか。たしか、隕石攻撃の事を帝国ではそう言っていたな。
カルカの酒場でアレクセイ・ドロノフから、隕石攻撃後、帝国各地でいくつもの反乱軍が蜂起したと聞いていたが、ナンモ解放戦線というのはその中の一つという事か。
「ミール」
ミールが僕の方を向いた。
「ひょっとしてカミラ・マイスキーが言っていたゲリラ組織が……」
「おそらく、そうでしょう。刑務所からリーダーを取戻した後、この近くまでやってきたと言っていましたね。その後で、周辺の盗賊を併合したのではないかと」
しかし、短期間で五千人も集まるものだろうか?
「キラ」
キラが僕の方を向いた。
「蜂起した当時のナンモ解放戦線の人数はどのぐらいだったのだい?」
「たしか、五万人ぐらいだったかな?」
「蜂起した後、どうなった?」
「一年もしないうちに鎮圧された。その後は散り散りになって各地に潜伏したと聞いている」
という事は……
「統合した盗賊と言うのは、散り散りになったかつての仲間ではないのか?」
「ああ、そうかもしれない。確かに盗賊化した元反乱軍というのは多いからな」
刑務所からリーダーを助け出したのは、かつての仲間を集めるのに、そのカリスマが必要だったという事か。
そこまでして、仲間を集めた目的はやはり帝国に再び反旗を翻すためだとすると、ロータスに突きつけた要求は……?
「町長。ナンモ解放戦線から、いったい何を要求されていたのだ?」
議員達に問いつめられて、町長は渋々口を割った。
「同盟関係です」
同盟?
「ナンモ解放戦線は、帝国と戦うためにロータスと同盟を結びたいと言ってきました」
それを聞いて議員の一人が食って掛かってきた。どうやら、この男は反町長派のリーダーらしい。
「町長。そんな大切な事をなぜ、我々に黙っていた?」
「そんな事を言ったら、あなた達は要求を受け入れろと言うでしょ」
「当たり前だ」
「分かっているのですか? ナンモ解放戦線は同盟などと言っていますが、奴らの目当てはロータスの富です。同盟なんか結んだら、法外な軍資金を要求してくるのは目に見えています」
「このまま町に攻め込まれたら、それこそ根こそぎ富を持って行かれるぞ。同盟を結べば、まだ値切る余地もあるのに……」
「何を言っているのです。ロータスの町は、今まで中立を保つことで発展してきたのですよ。ここで反帝国勢力に組みしたら、中立は失われます。帝国を敵に回すことになるのですよ」
「それがどうした?」
「どうしたって? このまま中立が失われたら、ロータスは帝国軍に攻め込まれるのですよ」
「町長。あんたは勘違いをしているぞ。帝国がロータスを放置していたのは、補給地点として好都合だったからだ。占領して統治するよりも、わしら商人に自治を任せておいた方が楽だからだ。だが、帝国がカルカや東方諸国を制圧したら、どうなる? 補給地としてのメリットがなくなったとたんにロータスは占領されるぞ」
「そんな事は分かっています。だから、帝国軍が勝ちすぎないように、東方諸国やカルカにも物資を送り、帝国軍の情報も流して……」
ここへ来る前に一応、ロータスの町は商人による自治で運営されているという事は予備知識として頭に入れてあったが、そういう蝙蝠外交もやっていたのか。
「町長。あんたの言いたい事も分かる。確かにロータスは帝国にも、反帝国側には物資を売って儲けてきた。だが、そんな危ういバランスを保つことなどいつまでもできん。もし、バランスが崩れたら、すぐに優勢な方に着かないとロータスは滅びる」
「そんな事は分かっています。でも、今はその時ではありません。はっきり言ってナンモ解放戦線では帝国に勝てません」
「なぜ、そう思う?」
「実は私はナンモ解放戦線のアジトへ出向いて、リーダーと会談したのです」
「なんだと?」
「確かに、解放戦線の首脳部は教養のあるエリート揃いでした。この人達となら手を組めるとも思いました。しかし、アジト内を見分してみると、末端の兵士はごろつきの寄せ集めばかりです。統率もまるでできていません。解放戦線の首脳部は、兵隊の頭数を揃えただけで、その集団を扱い切れていないのです。そんないい加減な組織と手を組めますか?」
「なるほど、それは分かった。しかしだ、それは町長一人で決めてよいことか?」
「それは……」
「要求を断るか受け入れるかは、わしらと協議した上で決めるべきであろう」
「それは……」
「大方、日頃から反帝国派だったわしが『同盟を結ぼう』と言い出すと思って黙っていたのだろう。確かに個人的に帝国は嫌いだが、勝ち目のない戦いをするほどわしは馬鹿ではない。ナンモ解放戦線が烏合の衆と分かっていたら、手を組もうなどとは思わん」
「……」
「町長。ナンモ解放戦線から要求があったことを隠蔽していたことについては、どう責任を取るおつもりか?」
「うう……」
「町長の辞任を要求する」
その一言を合図に反町長派から一斉に『町長辞めろ』コールが始まった。
一方で町長派からは擁護する声が……
どうでもいいが、時間がないのですけど……
「馬鹿じゃないの? この人達……」
ミクがあきれ顔で言った言葉は、翻訳機を切ってあったので彼らに聞かれないですんだ。
「これが、衆愚政治というものですよ。ミクさん」
と、Pちゃんが説明する。
「ミケ村でも、おじいちゃんと村長の政争は非道かったけど、ここよりはマシだと思います」
そういえば、ミールの祖父さんも帝国軍がいつ戻ってくるかもしれない状況で村長と喧嘩していたな……
よし、ここはあの時と同じように空砲で黙らせ……
ズキューン!
僕が拳銃を抜くより先に、右隣で銃声が鳴り響いた。
銃声の方を見ると、アーニャが顔に怒りの形相を浮かべ、拳銃を握った右腕を真上に向けている。
その銃口からは硝煙が立ち上っていた。
天井には小さな穴が……おいおい、空砲じゃなくて、実弾か!?
コワいぞ。この人……
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