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第十二章

あきらめの悪い人だな……

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 それにしても、エラが謝罪したいなんて、にわかには信じがたいが……

 僕はキラの方を振り向いた。

「キラ。エラともっとも付き合いが長いのは君だ。その君の目から見て、エラNo.1はどう思う?」

 キラは、しばらく考え込んでから口を開いた。

「私は、エラ・アレンスキーが人に謝る姿など見たことがない。正直言って、私の知っているエラとはどこか違う」

 やはりそうか。となると、考えられる原因は……

 僕はレイラ・ソコロフの方を向いた。

「ソコロフさん。同時複数再生されたコピー人間の間では、シンクロニシティが起きているというのはご存じですか?」
「シンクロニシティ? どういう事です?」

 シンクロニシティでは意味が伝わらないようだ。

「ええっとですね。先日、他のエラと戦ったときにエラ本人が言っていたのですが、同時複数再生されたコピー人間同士の間だけで、テレパシーのように情報のやりとりがあるそうなのです」
「テレパシー! なるほど。確かに、テレパシーのような現象が起きているという報告はありました。ただ、確認ができていないのですよ。それが起きているのはアルファケンタウリやバーナードです。地球にいる人間が調査しに行く事は……」

 無理だろうな……

「ただ、それが本当なら同時複数再生されたコピー人間同士の間では、脳間通信機能が常時接続状態になっていると考えられます。精神異常の原因はそれかもしれません」

 そうだな。寝ても覚めても四六時中、他人の思考が入り込んでいたら、そりゃあおかしくもなるだろう……ん?

 ということは、レムはどうなるんだ?

「ソコロフさん。レム・ベルキナ博士の事はご存じですか?」
「ええ。ここでその名前を出したという事は、あなたも知っているのですね。レム神の正体があの男だという事も、かつて、あの男は全人類の精神を融合して、超生命体に進化させる計画を実行しようとしたという事も……」
「ええ。もし、その計画が実行されていたら、全人類は……」
「おそらく、超生命体への進化などなく、全人類が狂人の集団となるだけだったでしょう」

 やっぱり……そもそも他人に自分の思考をのぞかれるなんて恥ずかしくてかなわんだろうに。僕だって、エロい妄想をミールやPちゃんや香子や芽依ちゃんやミクに見られた日には、軽く死ねる自信がある。

 あ! Pちゃんには、とっくにのぞかれていたんだったな。

 しかしなんだって、レムはそんな簡単な事に気がつかないんだ?

「実を言うとレムは、そのことに気がついているのですよ」

 え?

「気がついても、今更やめられないのですよ。一度初めてしまった以上」

 あきらめの悪い人だな……

「レムは打開策を探るために、マトリョーシカ号のコンピューターに眠っていた心理学者や脳科学者などの学者を出力して研究をさせました。私もその中の一人です。ちなみに私の専門は脳科学」
「それで打開策は見つかったのですか?」
「見つかった事は見つかりました。安全に精神融合を行う手段は。ただし、精神融合を進めて行ったところで、最終的に超生命体に進化できる保証はまったくありません。そもそも、精神を融合していけば超生命体に進化できるという論理的根拠がないのです。レムの妄想に過ぎないのでは? と私は思っています」
 
 そんな妄想に付き合わされる人は、たまったものじゃないだろうな。

「そのことはレムには隠さず伝えたのですが、レムは都合の悪いことには聞く耳を持たず、精神融合を続けていったのです。続けていれば、いつかは神になれるとでも思っているようですね」

 そうなると宗教だな。もはや、科学者のやることじゃない。ところで、一つ疑問が……

「ソコロフさん。あなたたち研究者は、ブレインレターによる洗脳は受けなかったのですか?」
「洗脳?」

 どうしたのだろう? レイラ・ソコロフは怪訝な顔をして黙り込んでしまったけど……僕は何か変な事を言ったのだろうか?
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