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第十二章
補給部隊
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カルカからの補給部隊が到着したのは、それから二日後のことだった。
北に向かう街道から、土煙を上げて駆けつけてきたのは三台の電動トラックと護衛の騎馬隊。
馬に乗っているという事は亡命帝国人なのだろうなとは思っていたが、僕の知っている男だった。
「ドロノフ!?」
騎馬隊の隊長はアレクセイ・ドロノフだった。
「よお! 兄ちゃん」
ドロノフは僕の前で馬から下りて挨拶する。
「なんで、あんたが?」
「まず、あんたは勘違いしていると思う。俺を盗賊かなにかだと思っていただろう?」
「え? 違うの? 現にレイホーの竜車を襲撃していたじゃないか」
「やっぱり、あの時俺の部下を殲滅したのはあんたか?」
あの時の復讐を考えているのか?
「おっと! 身構えないでくれ。俺は別に復讐する気はない。むしろ感謝しているぐらいだ」
感謝? 部下を殺されたのに?
「俺たちはあの竜車に乗っているのが、レイホーお嬢様とは知らなかったんだよ」
レイホー……お嬢様? 敬っているのか?
「俺の組織は、合法的な商売も非合法な事もやる。わかりやすく言うならグレーゾーンの組織だな」
いやいや、分かりにくいから『グレーゾーン』と言うのだろう。
「だが、有事の際はカルカ防衛隊の指揮下に入ることになっていた」
「なんだって!? じゃあ、なんでカルカシェルター防衛戦に来なかった?」
「招集がかかる寸前にな、戦力の三割を失って立て直しの最中だったものでな」
そうだった。やったのは僕だが……
「しかし、俺たちの手でレイホーお嬢様を殺めていたら、それどころじゃなかっただろうけどな。カルカ防衛隊からは、裏切り者として始末されるところだった」
「では、なんでレイホーの竜車を襲った?」
「騙されたんだよ。ボラーゾフの野郎に」
「ボラーゾフ? ああ! 対立しているギャングだったな」
「ボラーゾフの組織も、日頃は俺と対立していたが、有事の際にはどちらもカルカ防衛隊の指揮下に入って戦うことになっていた。ところがあの野郎、敵のオルゲルト・バイルシュタインと内通してやがったんだ」
内通?
「兄ちゃんはカルカの町を出る前に、ボラーゾフの屋敷をぶっつぶしただろう。あの後、俺たちはボラーゾフをとっ捕まえて白状させた。あの野郎、帝国軍がカルカを落としたら、統治を任せてやるという甘言に乗せられてカルカを裏切って情報を流してやがった」
ううむオルゲルなんたら……かなり有能な奴だったのだな。戦う前に、敵を内部分裂させるとは……敵ながら、あっぱれな奴。
「ドロノフ。それで、ボラーゾフに騙されたってどういう事?」
「ボラーゾフの野郎が内通しているというのは、薄々気が付いていたのだがな。そんな時に、奴がレッドドラゴンの肝を手に入れて帝国軍に売り渡そうとしているという情報が入ったんだ。それで俺はブツを輸送中の竜車を襲うように部下に命じた」
「ところが、その竜車はレイホーの車だったということか?」
レイホーはボラーゾフは囮にされたと言っていたな。そういう事だったのか。
「そういう事だ。ボラーゾフの流したガセネタを掴ませられたのだよ。で、拙いことに襲撃に向かわせた部下たちはレイホーお嬢様と面識がない。兄ちゃんが邪魔してくれなかったら、大変な事になるところだった」
ボラーゾフは、日頃対立しているドロノフの組織を、カルカ防衛隊につぶさせようとしてそんな事をしたのか。それにしても……
「ドロノフ。レッドドラゴンの肝を帝国軍が手に入れるのを阻止したかったという事は、帝国軍に魔法使いがいることは知っていたの?」
「確認は取れていないが、そういう情報は入っていた。実際、奴の屋敷を探したら、レッドドラゴンの肝が出てきた。せっかくだから、お嬢さんに頼んでカルカシェルターに運んでもらったよ」
ミクが作ってもらった魔法回復薬はそれで作ったわけか。
それがなかったら僕も今頃レムに接続されてしまっていたのだな。
と言うことは僕もドロノフに助けられた事になる。
「そうかい。じゃあ、助けられたのはお互い様だな。ははは」
それから、僕らは荷物の搬入を始めた。《水龍》《海龍》に弾薬を積み込んで出航準備が整ったのはその日の夕方。
「ドロノフ。ありがとう。僕たちはこれで出発するよ」
「もう行くのかい? 今夜はゆっくり飲みあかさないか? ロータスには良い酒場があるぜ」
う! 一瞬オーケーと言いそうになったが、背中にPちゃん、ミールら女子たちの視線がグサグサ刺さったような気がして慌てて断る。
「いや、急がないと帝国艦隊に逃げられてしまう。ここでグズグズしていたら、英雄章白竜の復活を待っている人たちにも悪い。今夜中に出発するよ」
「そうかい。まあ、今度カルカで会ったら一杯やろうぜ」
そして、その夜。
ロータスの人たちが手を振る中、僕たちは河川港から出航した。
(第十二章終了)
北に向かう街道から、土煙を上げて駆けつけてきたのは三台の電動トラックと護衛の騎馬隊。
馬に乗っているという事は亡命帝国人なのだろうなとは思っていたが、僕の知っている男だった。
「ドロノフ!?」
騎馬隊の隊長はアレクセイ・ドロノフだった。
「よお! 兄ちゃん」
ドロノフは僕の前で馬から下りて挨拶する。
「なんで、あんたが?」
「まず、あんたは勘違いしていると思う。俺を盗賊かなにかだと思っていただろう?」
「え? 違うの? 現にレイホーの竜車を襲撃していたじゃないか」
「やっぱり、あの時俺の部下を殲滅したのはあんたか?」
あの時の復讐を考えているのか?
「おっと! 身構えないでくれ。俺は別に復讐する気はない。むしろ感謝しているぐらいだ」
感謝? 部下を殺されたのに?
「俺たちはあの竜車に乗っているのが、レイホーお嬢様とは知らなかったんだよ」
レイホー……お嬢様? 敬っているのか?
「俺の組織は、合法的な商売も非合法な事もやる。わかりやすく言うならグレーゾーンの組織だな」
いやいや、分かりにくいから『グレーゾーン』と言うのだろう。
「だが、有事の際はカルカ防衛隊の指揮下に入ることになっていた」
「なんだって!? じゃあ、なんでカルカシェルター防衛戦に来なかった?」
「招集がかかる寸前にな、戦力の三割を失って立て直しの最中だったものでな」
そうだった。やったのは僕だが……
「しかし、俺たちの手でレイホーお嬢様を殺めていたら、それどころじゃなかっただろうけどな。カルカ防衛隊からは、裏切り者として始末されるところだった」
「では、なんでレイホーの竜車を襲った?」
「騙されたんだよ。ボラーゾフの野郎に」
「ボラーゾフ? ああ! 対立しているギャングだったな」
「ボラーゾフの組織も、日頃は俺と対立していたが、有事の際にはどちらもカルカ防衛隊の指揮下に入って戦うことになっていた。ところがあの野郎、敵のオルゲルト・バイルシュタインと内通してやがったんだ」
内通?
「兄ちゃんはカルカの町を出る前に、ボラーゾフの屋敷をぶっつぶしただろう。あの後、俺たちはボラーゾフをとっ捕まえて白状させた。あの野郎、帝国軍がカルカを落としたら、統治を任せてやるという甘言に乗せられてカルカを裏切って情報を流してやがった」
ううむオルゲルなんたら……かなり有能な奴だったのだな。戦う前に、敵を内部分裂させるとは……敵ながら、あっぱれな奴。
「ドロノフ。それで、ボラーゾフに騙されたってどういう事?」
「ボラーゾフの野郎が内通しているというのは、薄々気が付いていたのだがな。そんな時に、奴がレッドドラゴンの肝を手に入れて帝国軍に売り渡そうとしているという情報が入ったんだ。それで俺はブツを輸送中の竜車を襲うように部下に命じた」
「ところが、その竜車はレイホーの車だったということか?」
レイホーはボラーゾフは囮にされたと言っていたな。そういう事だったのか。
「そういう事だ。ボラーゾフの流したガセネタを掴ませられたのだよ。で、拙いことに襲撃に向かわせた部下たちはレイホーお嬢様と面識がない。兄ちゃんが邪魔してくれなかったら、大変な事になるところだった」
ボラーゾフは、日頃対立しているドロノフの組織を、カルカ防衛隊につぶさせようとしてそんな事をしたのか。それにしても……
「ドロノフ。レッドドラゴンの肝を帝国軍が手に入れるのを阻止したかったという事は、帝国軍に魔法使いがいることは知っていたの?」
「確認は取れていないが、そういう情報は入っていた。実際、奴の屋敷を探したら、レッドドラゴンの肝が出てきた。せっかくだから、お嬢さんに頼んでカルカシェルターに運んでもらったよ」
ミクが作ってもらった魔法回復薬はそれで作ったわけか。
それがなかったら僕も今頃レムに接続されてしまっていたのだな。
と言うことは僕もドロノフに助けられた事になる。
「そうかい。じゃあ、助けられたのはお互い様だな。ははは」
それから、僕らは荷物の搬入を始めた。《水龍》《海龍》に弾薬を積み込んで出航準備が整ったのはその日の夕方。
「ドロノフ。ありがとう。僕たちはこれで出発するよ」
「もう行くのかい? 今夜はゆっくり飲みあかさないか? ロータスには良い酒場があるぜ」
う! 一瞬オーケーと言いそうになったが、背中にPちゃん、ミールら女子たちの視線がグサグサ刺さったような気がして慌てて断る。
「いや、急がないと帝国艦隊に逃げられてしまう。ここでグズグズしていたら、英雄章白竜の復活を待っている人たちにも悪い。今夜中に出発するよ」
「そうかい。まあ、今度カルカで会ったら一杯やろうぜ」
そして、その夜。
ロータスの人たちが手を振る中、僕たちは河川港から出航した。
(第十二章終了)
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