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第十三章

かつての仲間5

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『このエッチ!』

 やっとの事で、芽衣ちゃんは自由になる足で矢部機を蹴り飛ばした。反動で両機は離れていく。

『しまった。両足も拘束しておくのだった』
『矢部さん。絶対に許しません』

 機体を拘束していたワイヤーを外しながら、芽衣ちゃんは矢部を睨みつける。

『イナーシャルコントロール プロモーション スリーG』

 おい! ツーG以上の加速は……
 
 そのまま芽衣ちゃんは矢部に体当たり……

 ガイイイイン!

 二つの機体は反動で離れるが、芽衣ちゃんはすかさずワイヤーガンを矢部機のバックパックに撃ち込み機体を手繰り寄せた。

『うりゃあ! ブースト!』

 ブーストパンチがバックパックにめり込む。同時にその勢いで、両機を固定していたワイヤーは外れ、矢部の機体は落下していった。

 そのまま大きな水しぶきを上げてマオ川へ沈んでいく。

 バックパックには重力慣性制御装置があるはず。

 と言うことは、もう浮いてこないな。

『北村さん。申し訳ありません。私のICパックに不具合が発生しました』

 二G以上の加速をかけたからな。

「芽衣ちゃん。こっちはもう大丈夫だ。《水龍》に戻ってくれ」
『はい。帰還します』

 夕闇の中、桜色の機体が《水龍》に向かってふらつきながら飛び去って行った。

『「こっちはもう大丈夫」とは……ずいぶんと余裕ですね。北村さん』

 つかみ合いになった状態で古淵は言った。

『不具合が出たとは言っても、芽衣ちゃんの機体はすぐに落ちるわけじゃない。この膠着こうちゃく状態で背後から僕を攻撃すれば決着は付いた。そんな事をしなくても、僕ごとき余裕で倒せるという事ですか?』
「芽衣ちゃんの機体が、どの程度痛んでいるか僕には分からない。リスクは避けたいのさ」
『あなたらしい考えだ。だが、それだけじゃないでしょう』
「どういう事だ?」
『芽衣ちゃんが矢部さんを許さなかった気持ちは、僕にもよく分かります。矢部さんは女性の敵ですからね。だが、あなたはどうです? 僕と矢部さんを殺したいですか?』
「殺したいから殺すではない。必要だから殺す」
『では、なぜ今すぐ僕を殺さないのです?』
「何を言っている。今は互いに手が出せない状態だろう」
『嘘ですね。あなたは、いつでもこの膠着状態を崩しすことができるはず。だが、あなたはそれをしたくない。だから、芽衣ちゃんを帰らせたのですね』
「何を言っている? 僕には、そんな余裕なんてないぞ」
『僕にそんな嘘は通じませんよ。あなたは隊長の性格を引き継いでいる。あの人は無益な殺生を何よりも嫌った。あなたは今、僕を殺す事を躊躇ちゅうちょしている』
「そんな事はない。今の僕は人の死に何も感じなくなっている」
『隊長もそう言っていた。だが、僕は知っている。隊長は戦いの後、誰も見ていないところで涙を流していた』

 う……それは……

『そして、その悲しみを酒で誤魔化していた』

 ……

『黙り込んだところを見ると、あなたもそうしているのですね?』

 確かに、こいつの言う通りだ。

 僕はいつも戦いの後、いつも一人になって泣いていた。

 みんなの前では平気そうな顔をしているけど……
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