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第十三章

スケベ技術

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 どうやら、彼女も僕の姿を見て誤解したようだな。

「違います。橋本さん。この人は……私達の隊長ではなく……」

 芽依ちゃんの説明を、橋本晶は相槌も挟まず無言で聞いていた。

 確かに寡黙な人のようだな。

 説明を一通り聞き終わってから、ようやく口を開く。

『そうでしたね。隊長のオリジナルデータが再生されたという話は聞いてはいたのですが、実際に目の当たりにすると、本人が生き返ったのではないかと思ってしまいました。でもよく見ると、私達の隊長とよく似ていますが、こちらの方は、もっと可愛い顔していますね』

 可愛い!? 童顔という事か……

「橋本さん! それは……」
『え? ああ! 隊長は『可愛い』と言われるのが、お嫌だったのでしたね。失礼しました。それで森田さん。私に何か用があったのでは?』
「そうでした。実は……」

 芽依ちゃんは、小淵からのメッセージを手短に伝えた。

『なるほど。お話はよく分かりました。小淵さんらしいですね』

 そういった後、橋本晶は目に涙を浮かべて俯いた。

「いったい、何があったのです? 私達にはさっぱり」

 芽依ちゃんに問いかけられて、橋本晶は顔を上げる。

『実を言うと、私もつい最近まで何も事情が分からなかったのです。帝国軍がブレインレターを使っていた事を知ったのも、小淵さんと矢部さんがそれによってレムと接続されてしまったのも先日知ったばかりで……』
 
 リトル東京でも、その事はずっと分かっていなかったからな……

『……それまで私は、小淵さんと矢部さんが、ただの裏切り者だと誤解していて……小淵さんには本当に申し訳ないと……』

 矢部には申し訳ないと思わないのか?

「それは仕方ないと思います。帝国軍がブレインレターを使っていたなんて誰も予想できなかったし」
 
 だが、橋本晶は首を横に振る。

『森田さん。私は、ブレインレターの現物を見ていたのです。小淵さんと矢部さんがそれにやられる様子も……それだというのに、その時の私は何が起きているのか理解できませんでした。ただ、金属の円筒から虫のようなおぞましいマイクロロボットの群が出てきて、二人の身体を覆っていく様子を何もできずに見ていたのです』
「それは、いつのことですか?」
『森田さんと隊長が赴任していた補給基地に、三回目の帝国軍による攻撃があった頃でした』
「いったい、なぜそんな事に?」
『事の起こりはその三週間前。補給基地に帝国軍による最初の攻撃が行われた直後の事でした。攻撃のあった後、小淵さんは隊長に呼ばれて補給基地に赴いていたのです』

 補給基地にいた僕が最後の記憶データを母船に転送したのは、最初の攻撃があった直後。だとしたら、ブレインレターで送り込まれた記憶に小淵と会った記憶はないのだろう。

 芽依ちゃんは知っていたのだろうか?

「それは私も知っています」

 知っていたのか。

『そうでしたか。それでは、その時に隊長が小淵さんに、カルル・エステスの事を調べるように頼んでいたことは?』
「それは初耳です。あの時、小淵さんは基地の会議室で二時間ほど北村さんと二人切りで話し合った後、すぐに帰って行きましたので」
『そうでしたか。隊長の依頼を受けた小淵さんは、私と矢部さんに協力を求めたのです』
「あの……なぜ矢部さんまで?」
『隠しカメラを仕掛けることに関しては、エキスパートだったので』 

 矢部のスケベ技術が、そういうところで役に立ったのか。
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