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第十三章
逃げるんだ!(回想)
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矢部の方を振り向いた。
矢部の身体は、アリのようなマイクロマシンの群がびっしりと覆いつくしている。身体はピクリとも動かない。
矢部に意識はあるのか? 生きているのか? いや、そもそもあのマイクロマシンに覆い尽くされた人は、どうなってしまうのか?
死ぬのか?
どうなるのかは分からないが、ろくな事にならないのは確か。
もう一つ確かなことは、数秒後には自分も矢部と同じようにマイクロマシンに覆い尽くされる。
「橋本さん! 何やってるんです! 逃げて下さい」
横から小淵の叫び。
だが、逃げられない。
恐怖に身が竦んで、動けないのだ。
そうしている間に、マイクロマシンの群は一メートル手前まで迫っていた。
……もうダメ……
そう思ったとき、小淵が彼女を庇うようにマイクロマシンの群の前に立ちはだかった。
「小淵さん! なにを……」
マイクロマシンの群は、小淵を標的に変更した。
小淵の身体は瞬く間に、アリの群のようなマイクロマシンに覆い尽くされていく。
群が首に達する前に、小淵は振り向いた。
「橋本さん! 君だけでも逃げるんだ!」
「で……でも……」
「逃げるんだ! そして、このことを報告……」
そこまで言ったところで、小淵の顔はマイクロマシンに覆い尽くされた。
「ごめんなさい! 小淵さん、矢部さん」
ようやくの事で、彼女は逃げ出した。
それから、どこをどう通ったか分からない。
リトル東京内を彷徨い歩いた末、橋本晶が防衛隊本部にたどり着いたのは、それから一時間後の事だった。
しかし……
「小淵さん! 矢部さん! どうして?」
本部には、小淵と矢部が先に到着していたのだ。
まったく無傷な状態で……
矢部は橋本晶の方を見ると、放心したような表情で答える。
「まんまと騙されたよ」
「騙された?」
「あのマイクロマシンは、まったく無害だったんだ」
「え?」
小淵が説明を引き継ぐ。
「あれは除染作業ロボットだったのです。人間の身体を覆い尽くして、表面にある放射性物質のチリを回収する機械なのですよ」
「除染作業ロボット? しかし、なぜそんな物を?」
「単なる足止めですよ。あの場所で賭け麻雀をやるというのは嘘です。矢納は、あそこでカルル・エステスと情報交換をするつもりだったのでしょう。だが、我々に疑われている事に気がついた。だから、逃げる事にしたのでしょう」
「しかし、あんな物で足止めしなくても……」
「おそらく、彼らは他に武器らしい武器を持っていなかったのでしょう。苦し紛れに、そこにあった除染作業ロボットを使ったのでしょうね。何も知らない人間からすれば、いきなり身体中をマイクロマシンに覆われたら、何か起きたのか分からないでパニックに陥るでしょう。その隙に彼らは逃げたのでしょう」
そうなのだろうか? 何か腑に落ちない物があった。
しかし、小淵がそんな嘘を言うとも思えない。
「あの……逃げたという事は、カルル・エステスのスパイ容疑は?」
「ほぼ、確定しました。今、保安部がやっきになって探しています。ほどなく捕まるでしょう」
だが、保安部の捜索にも関わらず、矢納とカルル・エスエスの姿はその日を最後に、リトル東京から消えた。
その際、倉庫に保管されていた大量のマテリアルカートリッジも盗み出されていたのである。
そして、数日後。
小淵と矢部もリトル東京から姿を消し、さらに数日後、補給基地が陥落して初代北村海斗が戦死したのである。
矢部の身体は、アリのようなマイクロマシンの群がびっしりと覆いつくしている。身体はピクリとも動かない。
矢部に意識はあるのか? 生きているのか? いや、そもそもあのマイクロマシンに覆い尽くされた人は、どうなってしまうのか?
死ぬのか?
どうなるのかは分からないが、ろくな事にならないのは確か。
もう一つ確かなことは、数秒後には自分も矢部と同じようにマイクロマシンに覆い尽くされる。
「橋本さん! 何やってるんです! 逃げて下さい」
横から小淵の叫び。
だが、逃げられない。
恐怖に身が竦んで、動けないのだ。
そうしている間に、マイクロマシンの群は一メートル手前まで迫っていた。
……もうダメ……
そう思ったとき、小淵が彼女を庇うようにマイクロマシンの群の前に立ちはだかった。
「小淵さん! なにを……」
マイクロマシンの群は、小淵を標的に変更した。
小淵の身体は瞬く間に、アリの群のようなマイクロマシンに覆い尽くされていく。
群が首に達する前に、小淵は振り向いた。
「橋本さん! 君だけでも逃げるんだ!」
「で……でも……」
「逃げるんだ! そして、このことを報告……」
そこまで言ったところで、小淵の顔はマイクロマシンに覆い尽くされた。
「ごめんなさい! 小淵さん、矢部さん」
ようやくの事で、彼女は逃げ出した。
それから、どこをどう通ったか分からない。
リトル東京内を彷徨い歩いた末、橋本晶が防衛隊本部にたどり着いたのは、それから一時間後の事だった。
しかし……
「小淵さん! 矢部さん! どうして?」
本部には、小淵と矢部が先に到着していたのだ。
まったく無傷な状態で……
矢部は橋本晶の方を見ると、放心したような表情で答える。
「まんまと騙されたよ」
「騙された?」
「あのマイクロマシンは、まったく無害だったんだ」
「え?」
小淵が説明を引き継ぐ。
「あれは除染作業ロボットだったのです。人間の身体を覆い尽くして、表面にある放射性物質のチリを回収する機械なのですよ」
「除染作業ロボット? しかし、なぜそんな物を?」
「単なる足止めですよ。あの場所で賭け麻雀をやるというのは嘘です。矢納は、あそこでカルル・エステスと情報交換をするつもりだったのでしょう。だが、我々に疑われている事に気がついた。だから、逃げる事にしたのでしょう」
「しかし、あんな物で足止めしなくても……」
「おそらく、彼らは他に武器らしい武器を持っていなかったのでしょう。苦し紛れに、そこにあった除染作業ロボットを使ったのでしょうね。何も知らない人間からすれば、いきなり身体中をマイクロマシンに覆われたら、何か起きたのか分からないでパニックに陥るでしょう。その隙に彼らは逃げたのでしょう」
そうなのだろうか? 何か腑に落ちない物があった。
しかし、小淵がそんな嘘を言うとも思えない。
「あの……逃げたという事は、カルル・エステスのスパイ容疑は?」
「ほぼ、確定しました。今、保安部がやっきになって探しています。ほどなく捕まるでしょう」
だが、保安部の捜索にも関わらず、矢納とカルル・エスエスの姿はその日を最後に、リトル東京から消えた。
その際、倉庫に保管されていた大量のマテリアルカートリッジも盗み出されていたのである。
そして、数日後。
小淵と矢部もリトル東京から姿を消し、さらに数日後、補給基地が陥落して初代北村海斗が戦死したのである。
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