554 / 893
第十四章

吸血虫

しおりを挟む
 微かなローター音が聞こえてきた。

 ドローンのようだ。

「Pちゃん。この音はドローンかい?」

 僕の質問に、胸ポケットから半身を出しているPちゃんが答える。

「飛行船タイプドローンの音と一致します。音の方向は樹木に遮られていて、音源を視認できません」
「マイクロ波は?」
「キャッチできません」

 とりあえず一安心だな。向こうも逆探知を警戒してレーダーを使っていないようだが、僕たちの方は使われたら一発でアウトな状況。

 どんな状況かと言うと、浮き島に偽装した小舟で川を下っている途中。
 本物の浮島は泥炭などからできていて、その上に草や木が生えていたりするものだが、これは舟の屋根に草を積み重ねて浮島に見せかけたもの。
 上から見たらただの浮き島が川に流されているようにしか見えないから、ドローンから見られても安心だが、横から見たら小さな舟に僕とミール、ライサ、ナージャが乗っていてほとんど身動きもとれない状況が丸見え。この状況でレーダーを使われると非常にまずい。

 もちろん、木造の舟や草の集まりがレーダーに映るはずはないが、その後に隠れている銃器などの金属製装備は確実にレーダーに映ってしまう。

「後、どのくらいで到着する?」

 僕の質問にライサが時計を見て答える。

「一時間ほどです」

 一時間か。長いなあ。

「長いですねえ」

 そう言って、ミールが僕の背後から両腕を回してくる。

「ミール……その、背中に胸が当たっているのだけど……」
「ですからカイトさん。これは当たっているのではなく、当てているのですから、何も問題はありません」

 そ……そうなの……

「ミールさん。ご主人様に、必要以上に密着しないで下さい」
「狭い舟の中なのだから、しょうがないじゃないですか」
「密着するほど、狭くはありません。それに人目というものもあるのですよ。ナージャさんやライサさんも見ているのに……」
「ああ、私は気にしないから好きにやっていて」

 そう言って、ナージャはそっぽを向く。

 一方ライサは、目を皿のようにしてこっちを見ていた。

「私の事は気にせず、続きをどうぞ。私はここでしっかり見守っていますから」
「それではお言葉に甘えて」

 ミールは僕の前に回り込んで抱きついてきた。

「ミ……ミール、今はこんな事をしている時では……」
「カイトさーん。どうせ現地に着くまでは、することはないし……キャ!」

 不意にミールが悲鳴をあげた。

「Pちゃん! あたしの背中で、何をやっているのですか!?」
「え? 私は何もしていませんよ。まだ」

 って事は、これから何かやるつもりだったのか?

「じゃあ、今あたしの背中に乗っかっているのは?」
「ミールさん。じっとしていて下さい」

 Pちゃんがミールの背中に回り込む。

「ミールさん。捕まえました」
「捕まえたって? 何を捕まえたのですか?」
「大きな虫です。種類は私のデータにありませんが、念のため電撃で殺しておきました」

 Pちゃんが持ってきた虫の死骸は、長さ十センチほどの角のないカブトムシのような姿をしていた。

「これは!?」
「ミール。知っているの?」
「吸血虫です! 他にもいるかもしれません!」
「きゃ!」

 ライサが悲鳴を上げる。

 見ると彼女は手にしていたアーミーナイフを、床を這っている吸血虫に突き立てていたところだった。

「こっちにもいた!」

 舟の天井を這っていた虫を、ナージャがナイフで突き刺す。

 どうやら舟は、吸血虫の群が飛んでいるところを横切ってしまったらしい。虫は次々と進入してくる。

「この! この!」

 僕もアーミーナイフやスタンガンを使って虫を駆除していった。

 だが、退治しても後から後から入ってくる。切りがない。

「ミール! こいつらに噛まれたらどうなるんだ?」
「死ぬほど痒くなります」
「それはイヤだな」

 僕もミールも夢中でナイフをふり続けた。

 Pちゃんも十二体総動員で、進入する虫を電撃で倒していく。

 三十分ほどして、ようやく虫の進入は止まった。

 舟の底には虫の死骸が貯まっている。

 幸いな事に誰も噛まれる事はなかったが、全員へとへとだった。

「虫の死骸は私が片づけておきますから、みなさんは休んでいて下さい」
 
 疲れを知らないミニPちゃんたちは、せっせと虫の死骸を運び出して川に捨てていく。

 途中、虫の死骸を餌に魚を釣ったりしているうちにベイス湾の基地に到着した。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

処理中です...