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第十四章

ルスラン・クラスノフ博士

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「みんな、よく帰って来られたね」

 森の中で、途中まで迎えに来てくれたアーリャさんと出会えたのは、前進基地を出発して六時間後の事。

 別に案内人なんて必要なかった。爺さんが以前に施設した電話線があるなら、それを辿って帰ればいいだけの事だったのだ。

 電話線が地下に埋められていたらだめだったが、アーリャさんに問い合わせたところ、電話線はすべて地上を通っているとの事。

 途中、電話線が落ち葉に埋もれていたり、谷を越えていたり、大蛇や巨大トカゲに襲われたりもしたが、なんとか全員無事にたどり着けた。

 まあ、あのスケベジジイを頼らなくて済んだのだから、この程度の苦労は安いものだ。

 もう、必要な情報は揃ったし、このまま艦隊に引き上げればあのジジイとも二度と会わなくて済む。

「それで良いの? 爺さんに会わなくて」
「いいんだよ。ナージャ。過去にレムと会った事があるとしても、どうせろくな情報持っていないだろ」

 少なくとも、あのジジイがミールとPちゃんにエロい事をするのを、黙認するような価値のある情報なんてないさ。

 村に帰って一休みした後、僕は《海龍》と連絡を取った。

 最初はアーニャが出たが、すぐにミクと代わってもらう。

『ええ!? 式神が使えない』

 ミクはかなり驚いていた。

「そうなんだよ。ミールの分身体が地下施設に入った途端、コントロール不能になったんだ。おそらく、ミクの式神もそうなると思う」
『そっかあ。でも、あたしが地下施設に入れば、式神は使えるのだよね?』
「それは使えるが……」

 できれば、《海龍》からミクを出すのは避けたいというのに、地下施設の中にまで行かせるなんて絶対に避けたい。それこそレムの思うつぼ。

「それで、ミク。《イサナ》の科学者には問い合わせたのか? 式神のコントロールについて」

 ミクは、困ったような顔をした。

『それがさ、昔、式神について研究した科学者がいたらしいのよね。でも《イサナ》には、その人の残した研究データがないんだって』
「そうか。残念だな」
『ほら。脳間通信機能を研究していた人らしいのよ。その人が言うには日本の式神とか、チベットのタルパとかは、みんな脳間通信機能を使ってコントロールしていたというのよね』
「そうか。なんて言う科学者だ」
『ちょっと待ってね。メモメモ……どこにやったかな?』
 
 Pちゃんの投影するプロジェクションマッピングの中で、ミクはスカートのポケットを探しまくった。

『あ! こんなところに落ちていた』

 床に落ちていた紙切れを拾う。

『ええっとね。ルスラン・クラスノフ博士って言う人』

 ルスラン・クラスノフ博士?

 はて? どこかで聞いたような?

『あれ? ミールちゃん、ナージャさん、どうしたの?』

 え? あれ? 振り向くと、ミールとナージャが床に突っ伏している。

「ミール、ナージャ。どうしたのだ?」

 ナージャは、ガバッと起きあがった。

「どうしたって? 今、あの子、ルスラン・クラスノフ博士って言ったでしょ」
「言ったね。誰だっけ?」
「誰だっけって? あんた」
「ナージャさん。カイトさんを攻めないであげて下さい。カイトさんは、長い名前を覚えるのが苦手なのです」

 あれ? ひょっとして、忘れちゃいけない名前だった。

「ああ、ちょっと待て。今思い出すから」

 しかし、思い出すと不幸になるような気がするのは、なぜだろう?

『そうそう。お兄ちゃん。言い忘れた事が』
「ん?」

 僕は、ミクの映っている映像に視線を戻した。

『ルスラン・クラスノフ博士って、レム・ベルキナと友達だったんだって』
「レムと友達?」

 まるでここのスケベジジイみたいだな。……ん? あのジジイ、名前なんて言ったっけ?

 確か……!

「あああああああ!」
「カイトさん。思い出しましたね」

 ルスラン・クラスノフ博士って、あのスケベジジイじゃないか!
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