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第十四章
思想教育
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「……それには、人の心と心を直接つなげる何かが必要。と、まあレム君のそのような考えが、機械を通してわしに伝わってきたのじゃ」
そこまで話をして、ジジイはショットグラスに口を付けた。
それにしても、レムは戦災孤児だったというのか。だから、戦争をなくしたかったのか?
いや、それだけじゃないだろう。隣国で三年間暮らしていたというが、その間に思想教育を受けていたようだ。戦時捕虜に対して、自国にとって都合のいい思想を植え付けてから祖国へ送り返すというのは昔からよくある事。
しかし、大人の兵士なら思想を信じたふりをするぐらいの事はできるが、十歳の子供では、完全にその思想に感化されてしまうだろう。
「爺さん。レムは隣国で、どんな教育を受けていたのだい?」
「うむ。まず、歴史じゃな」
「それは、隣国にとって、都合のよい歴史だな?」
「当然だろう。だが、それほど歪曲された歴史ではなかったぞ。むしろ、祖国で教えていた歴史の方が遙かに歪曲されとったわい。そりぁもう、原型を留めぬほどグニャグニャにな」
「爺さん……あんたには、祖国愛というものはないのか?」
「祖国愛? そんな一文の得にもならん愛など、わしにはない。わしの愛情は常に、美女と美酒に向けられているのじゃ」
ある意味、正直者だな。
「それとレム君は、反戦思想を植え付けられてきたようじゃな」
「まあ、反戦思想は、それほど悪いことでは……」
自国の防衛すらダメというのなら話は別だが……
「悪いことではないな。だが、レム君は真面目過ぎた」
「真面目だったのか?」
「そうじゃ。クソが付くほど真面目じゃったな。わしが一緒に『女子更衣室をのぞきに行こう』と誘っても、絶対につきあってくれないぐらい真面目な奴じゃ」
いや、それ普通だから……ていうか、のぞきは犯罪だろ!
「しかし、真面目過ぎるというのも困ったものだ。融通が利かなくなる」
なるほど。真面目だからこそ、敵国で受けた思想教育に疑いの余地を挟むこともなく受け入れてしまった。
その思想教育で教え込まれた反戦思想を絶対と思いこみ、戦争をなくすために、全人類を一つの存在にまとめ上げるなどという極論に到ったということか。
そこまで話をして、ジジイはショットグラスに口を付けた。
それにしても、レムは戦災孤児だったというのか。だから、戦争をなくしたかったのか?
いや、それだけじゃないだろう。隣国で三年間暮らしていたというが、その間に思想教育を受けていたようだ。戦時捕虜に対して、自国にとって都合のいい思想を植え付けてから祖国へ送り返すというのは昔からよくある事。
しかし、大人の兵士なら思想を信じたふりをするぐらいの事はできるが、十歳の子供では、完全にその思想に感化されてしまうだろう。
「爺さん。レムは隣国で、どんな教育を受けていたのだい?」
「うむ。まず、歴史じゃな」
「それは、隣国にとって、都合のよい歴史だな?」
「当然だろう。だが、それほど歪曲された歴史ではなかったぞ。むしろ、祖国で教えていた歴史の方が遙かに歪曲されとったわい。そりぁもう、原型を留めぬほどグニャグニャにな」
「爺さん……あんたには、祖国愛というものはないのか?」
「祖国愛? そんな一文の得にもならん愛など、わしにはない。わしの愛情は常に、美女と美酒に向けられているのじゃ」
ある意味、正直者だな。
「それとレム君は、反戦思想を植え付けられてきたようじゃな」
「まあ、反戦思想は、それほど悪いことでは……」
自国の防衛すらダメというのなら話は別だが……
「悪いことではないな。だが、レム君は真面目過ぎた」
「真面目だったのか?」
「そうじゃ。クソが付くほど真面目じゃったな。わしが一緒に『女子更衣室をのぞきに行こう』と誘っても、絶対につきあってくれないぐらい真面目な奴じゃ」
いや、それ普通だから……ていうか、のぞきは犯罪だろ!
「しかし、真面目過ぎるというのも困ったものだ。融通が利かなくなる」
なるほど。真面目だからこそ、敵国で受けた思想教育に疑いの余地を挟むこともなく受け入れてしまった。
その思想教育で教え込まれた反戦思想を絶対と思いこみ、戦争をなくすために、全人類を一つの存在にまとめ上げるなどという極論に到ったということか。
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