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第十五章

怪しいおじさん

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 町の人たちは、僕らを取り囲んで口々にナーモ語や帝国語で何かを言っているが、取り立てて何かをしようとはして来なかった。

 しかし、このままじゃらちがあかん。

 ロボットスーツの翻訳ディバイスを帝国語に合わせ、僕の正面にいる男たちの会話を聞いてみた。

「おい。あの金色の鎧……本物の勇者カイトか?」
「いや、コスプレじゃないのか?」

 コスプレと思われているのか? それは好都合。

「だいたい、勇者カイトが、なんでアーテミスなんかに来るんだよ?」
「そりゃあ、これから帝国をぶっ潰しに行くから、部下を募集しに来たんじゃね?」

 いや、募集なんかしてねえし……

「部下の募集!? 俺、応募しちゃおうかな」

 来られても困る。こりゃあ、早いとこ逃げた方がいいかな。

 しかし、僕だけならすぐに逃げられるが、レイホーと芽依ちゃんを残していくのはマズい。

 この人たちから、レイホーと芽依ちゃんはどう見られているのか?

 翻訳ディバイスを南方ナーモ語に変えて、ナーモ族の女性たちの声を拾ってみた。

「一緒にいる女の子たちは誰かしら?」
「どっちかが、恋人じゃないの?」
「ええ! 勇者カイトの恋人って、ナーモ族の女の子じゃなかったかしら?」
「ああ! きっと不倫しているのだわ。しかも、二人も……」
「最低!」
「勇者と言っても、やっぱり男よね」

 非道ひどい言われようだな。

「あら? 勇者カイトの恋人って、いつも一緒に戦っているピンクじゃないの?」
「ああ! 帝国軍がピンク悪魔デビルと呼んでいるという」

 芽依ちゃんの顔が、ピシっとひきつった。

 無言だが、その目は『悪魔デビルだなんて非道い』と如実に語っている。

 とにかく、騒ぎになる前に逃げよう。

 僕は、芽衣ちゃんとレイホーにそっと耳打ちした。

「今から僕が飛び上がって、みんなの注目を上に向ける。その間に君たちは、ここから走り去ってくれ」

 二人は無言だったが、コクコクと頷く。

「イナーシャルコントロール 0G」

 重力を打ち消し、僕は飛び上がった。

「おお!」「飛んだぞ」

 みんなの視線が僕の方に集まる。

 その隙に、芽依ちゃんとレイホーは群衆からそそくさと逃げ去った。

 とりあえず、この場はしのげたけど、何とかしないと、ロボットスーツのままアーテミスで活動するのは難しい。

 一度 《海龍》に戻って、ロボットスーツを脱いでモーターボートで出直すか?

 いや、モーターボートは《水龍》《海龍》に一隻ずつしかなく、二隻とも今はアーテミスにいる。他には無動力の救命ボートしかないし、そんな物でチンタラ移動していたら日が暮れる。

 プリンターでモーターボートを作るのも、カートリッジがもったいないし《海龍》を港に入れるか?

 いやだめだ。

 そもそも《海龍》《水龍》を沖に残してみんなをボートで行かせたのは、桟橋なんかに接舷したら、ジジイが船内に忍び込んでくる恐れがあったからだ。

 やはり、ロボットスーツで行くしかないな。

 金色が目立つなら黒く塗りつぶすとか……いや、まてよ!

 僕は通信機でPちゃんを呼び出した。

「Pちゃん。今から《海龍》に戻る。それまでにプリンターで用意して欲しい物が……」


 甲板に降りると、Pちゃんはすでに僕の言った物を用意してくれていた。

「ご主人様。用意できましたが、こんな物をどうするのです?」
「もちろん、僕がこのまま着る」
「このまま着るって? ロボットスーツの上からですか?」
「そのために、大きいサイズにした」
「私は向こうで、プロレスラーにでもプレゼントするものかと思いました」

 この惑星にプロレスなんてないだろ。

 まあ、似たような興業スポーツはあるみたいだが……

 しかし、やはりロボットスーツの上から服を着るのは結構難しい。

 ミールとPちゃんに手伝ってもらい、なんとか黒いトレンチコートを着込んだ。さらに、大きめに作った黒いデンガロンハットを被る。

「どうだい? ミール」
「カイトさん。それじゃあ、まるで怪しいおじさんです」
「いいんだよ。怪しまれたって。僕だとばれなければ」

 それに機動兵器の上から服を着て変装するというのは、マ○ロスでも使っていた由緒正しいやり方だ。

 由緒正しいとは、ちょっと違うか。 

 僕は再び《海龍》から飛び立った。 

 帽子を飛ばされないようにスピードを落として、飛行すること十分。

 アーテミスの服屋で、買い物をしているキラとミーチャを見つけた。
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