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第十六章

触手

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「出てきたな! 北村海斗!」

 横をちらっと見ると、イワンが電磁砲レールキャノンで僕を狙っている。

 しかし、素早く動き回る目標に当てるのは難しいはず。

「アクセレレーション」

 加速機能を発動して、ジグザグに走りまわると、案の定、砲弾は僕から大きく外れて遠くの岩に当たって爆発した。

 続いて、イワンはバルカン砲を撃ってくる。

 どうやら、電磁砲レールキャノンは次弾装填に時間がかかるようだ。

 だから、電磁砲レールキャノンの装填が終わるまで、バルカン砲で牽制しているつもりだろう。

 だが、牽制と言っても、このバルカン砲はあなどれない。

 死ななくても、直撃食らったら痛そうだし……

 僕は、近くの岩陰に隠れた。

 岩陰から鏡を出して様子を見ると、電磁砲レールキャノンがこっちを指向している。

 装填が済んでいたようだな。

 一発撃ってから、次弾装填までのタイムラグは十五~二十秒ぐらいか。

 僕が岩陰から飛び出すのと、岩が砲弾を食らって砕け散るのと、ほぼ同時だった。

 これでしばらく、電磁砲レールキャノンは撃てないな。

 最寄りの対空砲陣地へと向かう。

「ブースト!」

 パンチ一発で、砲身が折れ曲がって使い物にならなくなった。

 すでに芽依ちゃんが一つ破壊しているはずだから、残りの対空砲は二門。

「卑怯者!」

 突然カルルがスピーカーでそんな事を叫んだのは、三つ目の対空砲を破壊したとき……

 何が卑怯なんだ?

 いや、カルルは僕ではなく、芽依ちゃんに向かって言ったみたいだが……

 あ! 芽依ちゃん、女性兵士を抱えながら低空飛行している。

 マジで人質にしたのか!

 芽依ちゃんは、じたばた暴れる人質を左腕で抱えたまま、最後に残った対空砲へ向かって行った。

 カルルはそれに対して、何もできないでいる。

「うりゃああ! ブースト!」

 対空砲はガラクタと化す。

 対空砲の守りが無くなった途端、上空で待機していた菊花隊が急降下してきた。

 イワンは、大急ぎで電磁砲レールキャノンを装甲の内側に収納しようとするが、ほぼ一瞬で収納できるバルカン砲とは違い、長い砲身を折りたたむ必要がある。
 
 このため、ドローンからの攻撃を受けてもすぐには収納できない。

 その弱点が分かっていたから、帝国軍はイワンが電磁砲レールキャノンを使っている間、菊花を寄せ付けまいと必死だったのだな。

 結局、収納は間に合わず、菊花隊の放ったミサイルによって電磁砲レールキャノンは破壊される。

 ゼロ部隊の攻撃時にレーザー砲が破壊されていたとしたら、イワンに残された攻撃手段はバルカン砲だけのはず。

 これで奴は、ただの転がる玉っころも同然となった。

「卑怯だぞ! 森田芽依!」
「カルル・エステスさん。何を言っています。戦場で卑怯もへったくりもありません」
「確かにそうだが……人質を取るなんて卑劣すぎる! そもそも、それは北村海斗の指示か?」
「そ……そうです」

 いや待て。僕はそんな指示は……まさか! さっきの『なるほど。人質にするのですね』『そうそう』のやりとりを拡大解釈したのか?

「嘘だ! 奴は女を人質に取るような卑劣な事はしない」

 ダサエフを人質に降伏勧告した事ならあるが、カルル的にそれはいいのか?

「大方、おまえが勝手にやっているのだろう」

 それに対して芽依ちゃんは、無言のまま右腕だけでロケットランチャーを構える。

 左腕で抱えている女性兵士が暴れているせいか、なかなか狙いが定まらない。

「森田芽依。一言だけ忠告しておく。おまえ、そんな卑劣な手を北村海斗の見ている前で使ったりしたら、奴の嫁候補から外れるぞ」

 え? なに言っているんだ? こいつ……

「や……やだなあ、何言っているのですか? 私が人質を取るなんて卑怯な事を、するわけないじゃないですか。あはは」

 と言って、人質を手放した。 

「私はただ、イリーナさんを保護していただけですよ。さあ、解放しますので、どこへでも行って下さい」

 いや、今更イリーナを手放しても……

すきあり!」

 その時、イワンの装甲に丸い穴が開き、何かが飛び出してきた。

 触手?

 ウネウネと動く細長い触手のような物が、芽依ちゃんの機体にからみつく。

 これは!? 
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