660 / 893
第十六章
正式入隊の意思
しおりを挟む
僕たちが《海龍》に戻ると、見慣れぬヘリコプターが甲板上に止まっていた。
あれに橋本晶が乗ってきたのかな?
「他にも、乗ってきた人はいるのかい?」
と、彼女に聞くと、首を横に振る。
「あのヘリは、完全自動操縦なのでパイロットはいません。私一人で来ました。荷物を少しでも多く積みたかったので」
「荷物?」
「マテリアル・カートリッジですよ。リトル東京の工業設備で再充填可能なカートリッジを、すべて積み込んできました」
それは助かる。
正直、かなりのカートリッジが無くなりかけていたからな。
Pちゃんに聞いてみると、カートリッジはすでに艦内に運び込んであるそうだ。
それと、橋本晶のロボットスーツ着脱装置も……
倉庫でロボットスーツを脱着すると、僕は橋本晶から一通の封筒を受け取った。
「これは?」
「森田指令からです」
芽依ちゃんのお父さんから?
内容は、僕の今後の身の振り方についてだった。
リトル東京防衛隊に正式入隊するかどうかの。
僕の場合、意思確認をしないままプリンターから出力されたので、入隊を無理強いする事はできないらしい。
入隊を拒否する自由はあるが、その代わり僕が今使用しているプリンターやロボットスーツなどの装備は、すべて防衛隊に返却しなければならなくなる。
まあ、当然だな。
この惑星に来てから、僕はこれらの装備品を自分の私物のように使っていたが、本来は防衛隊の装備。入隊を拒否するなら、返却しなければならなくなる。
本来ならシャトルがリトル東京に降りた時に、僕から入隊の意思を確認する事になっていたが、シャトルの不時着によってその機会がなくなってしまったため、緊急処置として僕が使うことが許されていたわけだ。
しかし、今になって装備品を取り上げられても困るのだが……
「森田指令は、カルカとの共同作戦が終了するまでは、仮入隊という形にしてくれるそうです。それまでは、装備品は自由に使ってかまわないと」
作戦終了後は?
「私の乗ってきたヘリで、リトル東京へ直ちに出頭せよとの事です。そこで入隊の意思を確認するのかと」
なるほど……
「それは、急ぐ必要があるのかい?」
「はい。詳しくは言えませんが、あまり猶予がありませんので」
「別にわざわざリトル東京まで行って意思確認などしなくても、僕は入隊を拒否する気はない」
「よろしいのですか?」
そもそも入隊を拒否したら、僕はこの惑星で路頭に迷うことになるだろう。今更、僕に選択肢なんかないのだが……
「それとも、僕が入隊すると、何か不都合なことでも?」
「いえ……そうではなくて、防衛隊に入隊するには事前に説明する事や手続きがいろいろとありまして……そのためには一度、隊長には……いえ、北村さんには、どうしても一度本部に出頭してもらう必要があるのです」
こんな未来になっても、そういう事はリモートで済ませられないものなのかな?
「とにかく一度僕が行く必要があるのだね。それは分かった。それともう一つ気になるのだけど、この書面によると僕の待遇が一尉になっているが、いいのかい? 一兵卒から始めなくて」
「その心配はありません。北村さんは、戦死した隊長の記憶を、ブレインレターによって引き継いでいます。今回のカルカ艦隊の指揮ぶりを見て、能力的に問題なしという事になりました」
ほんまにちゃんと見ていたのかな?
司令官としてこれでいいのか? という場面がけっこうあったような気がするが……
「分かった。とにかく、この話は作戦終了後に詳しく聞くとして……」
僕は背後に控えていたPちゃんの方へ振り向く。
「今から、明日の上陸作戦について打ち合わせをしたい。全員を《海龍》発令所に集めてくれ」
「全員とは、ミーチャさんも含めてですか?」
「そうだ」
「よろしいのですか?」
「いいんだ。この打ち合わせは、あくまでもレムに聞かせるためのフェイク。本会議は酒席で行う」
それを聞いていた橋本晶は、怪訝な顔をする。
「あの……フェイクとか、酒席とか、どういう事です?」
ん?
「ミーチャ・アリエフの事は、何も聞いていないのかい?」
一応、ミーチャがレムに接続されているという事はカルカとリトル東京には伝えておいたはずだが……
「確か、帝国軍から脱走した少年兵で、北村さんが保護しているとか……」
どうやら、情報漏洩を避けるために、彼女にはまだミーチャがレムに接続されている事は伝えていなかったようだな。
事情を説明するとかなり驚いていた。
「そんな! 生きている人間を、プシトロンパルスの送受信機にするなんて……」
「レム神は、すでに人としての心を失っている。人間をコンピューターの部品に組み込んでも、それを非道とも思わないのだよ」
レムにとって人間を機械に組み込む事なんて、人間が自分の血液から、血液製剤を作るような感覚なのだろう。
赤血球や白血球など細胞の意思 (あればの話として)など考慮する余地もないのだ。
あれに橋本晶が乗ってきたのかな?
「他にも、乗ってきた人はいるのかい?」
と、彼女に聞くと、首を横に振る。
「あのヘリは、完全自動操縦なのでパイロットはいません。私一人で来ました。荷物を少しでも多く積みたかったので」
「荷物?」
「マテリアル・カートリッジですよ。リトル東京の工業設備で再充填可能なカートリッジを、すべて積み込んできました」
それは助かる。
正直、かなりのカートリッジが無くなりかけていたからな。
Pちゃんに聞いてみると、カートリッジはすでに艦内に運び込んであるそうだ。
それと、橋本晶のロボットスーツ着脱装置も……
倉庫でロボットスーツを脱着すると、僕は橋本晶から一通の封筒を受け取った。
「これは?」
「森田指令からです」
芽依ちゃんのお父さんから?
内容は、僕の今後の身の振り方についてだった。
リトル東京防衛隊に正式入隊するかどうかの。
僕の場合、意思確認をしないままプリンターから出力されたので、入隊を無理強いする事はできないらしい。
入隊を拒否する自由はあるが、その代わり僕が今使用しているプリンターやロボットスーツなどの装備は、すべて防衛隊に返却しなければならなくなる。
まあ、当然だな。
この惑星に来てから、僕はこれらの装備品を自分の私物のように使っていたが、本来は防衛隊の装備。入隊を拒否するなら、返却しなければならなくなる。
本来ならシャトルがリトル東京に降りた時に、僕から入隊の意思を確認する事になっていたが、シャトルの不時着によってその機会がなくなってしまったため、緊急処置として僕が使うことが許されていたわけだ。
しかし、今になって装備品を取り上げられても困るのだが……
「森田指令は、カルカとの共同作戦が終了するまでは、仮入隊という形にしてくれるそうです。それまでは、装備品は自由に使ってかまわないと」
作戦終了後は?
「私の乗ってきたヘリで、リトル東京へ直ちに出頭せよとの事です。そこで入隊の意思を確認するのかと」
なるほど……
「それは、急ぐ必要があるのかい?」
「はい。詳しくは言えませんが、あまり猶予がありませんので」
「別にわざわざリトル東京まで行って意思確認などしなくても、僕は入隊を拒否する気はない」
「よろしいのですか?」
そもそも入隊を拒否したら、僕はこの惑星で路頭に迷うことになるだろう。今更、僕に選択肢なんかないのだが……
「それとも、僕が入隊すると、何か不都合なことでも?」
「いえ……そうではなくて、防衛隊に入隊するには事前に説明する事や手続きがいろいろとありまして……そのためには一度、隊長には……いえ、北村さんには、どうしても一度本部に出頭してもらう必要があるのです」
こんな未来になっても、そういう事はリモートで済ませられないものなのかな?
「とにかく一度僕が行く必要があるのだね。それは分かった。それともう一つ気になるのだけど、この書面によると僕の待遇が一尉になっているが、いいのかい? 一兵卒から始めなくて」
「その心配はありません。北村さんは、戦死した隊長の記憶を、ブレインレターによって引き継いでいます。今回のカルカ艦隊の指揮ぶりを見て、能力的に問題なしという事になりました」
ほんまにちゃんと見ていたのかな?
司令官としてこれでいいのか? という場面がけっこうあったような気がするが……
「分かった。とにかく、この話は作戦終了後に詳しく聞くとして……」
僕は背後に控えていたPちゃんの方へ振り向く。
「今から、明日の上陸作戦について打ち合わせをしたい。全員を《海龍》発令所に集めてくれ」
「全員とは、ミーチャさんも含めてですか?」
「そうだ」
「よろしいのですか?」
「いいんだ。この打ち合わせは、あくまでもレムに聞かせるためのフェイク。本会議は酒席で行う」
それを聞いていた橋本晶は、怪訝な顔をする。
「あの……フェイクとか、酒席とか、どういう事です?」
ん?
「ミーチャ・アリエフの事は、何も聞いていないのかい?」
一応、ミーチャがレムに接続されているという事はカルカとリトル東京には伝えておいたはずだが……
「確か、帝国軍から脱走した少年兵で、北村さんが保護しているとか……」
どうやら、情報漏洩を避けるために、彼女にはまだミーチャがレムに接続されている事は伝えていなかったようだな。
事情を説明するとかなり驚いていた。
「そんな! 生きている人間を、プシトロンパルスの送受信機にするなんて……」
「レム神は、すでに人としての心を失っている。人間をコンピューターの部品に組み込んでも、それを非道とも思わないのだよ」
レムにとって人間を機械に組み込む事なんて、人間が自分の血液から、血液製剤を作るような感覚なのだろう。
赤血球や白血球など細胞の意思 (あればの話として)など考慮する余地もないのだ。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる